【桂宮治真打昇進披露興行】38日間連続、同じネタを演らなかった意地と実力と自信と決意と。

国立演芸場で「桂宮治真打昇進披露興行」を観ました。(2021・03・19)

桂宮治師匠の38日間にわたる真打昇進披露が終わった。新宿末廣亭、浅草演芸ホール(8日間)、池袋演芸場、そして国立演芸場。僕は国立の千穐楽の前日に行っただけだが、SNSなどから得た情報によれば、38の高座すべてで演目を変えたという。そこに桂宮治師匠の意地と実力と自信と、そして今後の噺家としての決意、つまりはご自分が目指す道標が見えたような気がする。

新宿末廣亭

①上燗屋②子は鎹③文七元結④片棒⑤青菜⑥パイナップル⑦花見の仇討⑧井戸の茶碗⑨紺屋高尾⑩大工調べ

浅草演芸ホール

①七段目②ちりとてちん③壺算④権助魚⑤たらちね⑥蜘蛛駕籠⑦お血脈⑧蛙茶番

池袋演芸場

①親子酒②権助芝居③お化け長屋④つる⑤宿屋の仇討⑥皿屋敷⑦狸伯⑧棒鱈⑨時そば⑩お見立て

国立演芸場

①鼠穴②死神③明烏④四段目⑤江島屋騒動⑥粗忽の釘⑦初天神⑧寝床⑨ナースコール⑩プレゼント

すべてを書き上げればわかるように、バラエティー豊かなネタである。「令和の爆笑王」と謳われることもあるが、末廣亭の「子は鎹」「文七元結」「紺屋高尾」や国立演芸場の「鼠穴」「死神」「江島屋騒動」などの、人情噺系や怪談噺系といった、いわゆる「聴かせる噺」も数多く持っており、そのクオリティも高い。国立演芸場の千穐楽に持ってきた「プレゼント」は、落語家になる前の化粧品のセールスマン時代の経験を素地にした心温まる新作。末廣亭大初日の「上燗屋」が落語家になるきっかけとなった枝雀師匠のそれをYouTubeで観たというエピソードがあるように、実は極めて計算をし尽した38席の並びであることがわかる。

桂宮治師匠は真打昇進までもすごい前座、二ツ目だったが、それ以上に真打になってからも、「すごい噺家」であり続けることは間違いない。それはたとえ主任興行でない、寄席の浅い出番の高座のときでも客席を温めることができる緩急自在、伸縮自在な自由自在、応用自在な噺家であるということでもある。スターというのは、輝ける場を与えらたときしか輝かないわけではなく、目立たない位置にいても、キラッと良い味を出せる才能がなくてはならない。その意味で、宮治師匠はそのポテンシャルを十二分に持ち合わせていることが、この38席のラインナップを見るとよくわかる。

僕が行った日の口上も実に愉しかった。下手から、司会の小痴楽師匠、師匠の伸治、当人の宮治、小文治師匠、山田邦子、落語芸術協会副会長の柳橋師匠。

師匠の伸治はとぼけた感じで先代文治の思い出を語り、小痴楽師匠から「新真打の話を」と水を向けられる。と、「言うことない。文句がない。興行期間中、毎日バージョンアップしている。これが宮治のすごいところで、だから、ほっといていいんです」と、ベタ褒めした。

芸の上で叔父にあたる小文治師匠は、「(先代)文治を彷彿させる明るさがある。芸に対するセンス、お客の心を鷲掴みにするテクニックも抜群だ」と褒めちぎり、「宝が誕生したのだから、慢心せず、天狗にならず、精進してほしい」と。

柳橋師匠は「前座の頃からキラキラと輝いていた。その上、気配りもできる。上にばかりでなく、後輩にも気配りできるのがすごいところ」と言ってから、六代目柳橋師匠の言葉だと「芸人に上手も下手もなかりけり。行く先々の水に合わねば」と締めた。

頼もしい、ますますの成長が期待できる真打が誕生したことを大変に嬉しく思う。宮治師匠、誠におめでとうございます。