玉川奈々福と玉川太福 古典を意欲的に吸収し、新作に果敢に挑戦する。この姉弟コンビが浪曲ブームを引っ張っていく!

奈々福チャンネルで「うなる!語る!ソウルフル!玉川奈々福のほとばしる浪花節 VOL.14」を観ました。(2021・02・07)

いま、浪曲がブームになりつつある。神田伯山先生(当時は松之丞さん)が講談をこれほどまでの人気にしたように、玉川奈々福と太福の姉弟弟子が浪曲界を引っ張っていることは確かだ。この奈々福チャンネルも、VOL.13まで若手の浪曲師を紹介するコンセプトで配信されてきたが、ついに一緒に浪曲人気を支える太福さんをゲストに迎えた。

浪曲には落語もそうであるように、いや落語以上に様々な流派があって、得意とする演題、伝承されている演題も違う。同じ日本浪曲協会という組織に皆さん所属されていることでは同じ仲間なのだけれど、木馬亭に通い始めて思うのは、師匠の持ちネタを受け継ぐという意識が高いということだ。落語は「自分の演りたいネタがあったら、どこの師匠のところに行って習ってもいいよ」と、割合自由だが、浪曲もそれを禁じているわけではない(故・武春師匠の演題を奈々福さんや太福さんがやっているように)のだが、いい意味で非常に「家の芸」を大切にしているのを感じている。

この日の配信では、太福さんが「青龍刀権次」、奈々福さんが「俵星玄蕃」をうなった。「青龍刀権次」は亡くなった師匠の二代目玉川福太郎が好んでかけていたネタだし、「俵星玄蕃」は芸の上で曽祖父にあたる二代目玉川勝太郎の十八番だったそうだ。新しいことにチャレンジして新しいお客さまを呼び込むと同時に、古くから伝わる伝統話芸の継承を大切にしているという両面において、奈々福・太福の姉弟は素晴らしいと思う。その上、自作の新作への取り組みも一所懸命だから畏れ入る。

玉川奈々福さんは、この程、最初の著書を出した。「浪花節で生きてみる!」(さくら舎)だ。浪曲のココロ=いとしきオロカモノへの深い愛情を、演題の登場人物から、過去の名人たちから、そして自分の半生から描いていて、なるほど!だからこそ、浪花節は「魂のうなり」なのだね、と思わせてくれる。

略歴ですごさを紹介するのではなく、まずはその高座を聴いてみてよ!と僕は思う人なのだが、2018年に文化庁の文化交流使に任命されて、およそ一カ月半、ヨーロッパを中心に公演。またアジアでも公演と活躍する魅力と活力は書くに値することだろう。19年に伊丹十三賞を受賞。受賞理由は「現代の観客のこころを動かす語りの芸と、浪曲にあらたな息を吹き込む卓越したプロデュース力」。そうなのだ。彼女は大手出版社の編集者出身で、しばらくは浪曲と二足の草鞋を器用に履いて、「語り芸パースペクティブ」はじめ日本の伝承話芸に着目した会を主催するエネルギッシュなプロデューサーでもあったのだ。。

一方の玉川太福さんは、書籍で言うと著書ではないが、「浪曲師・玉川太福読本」(シーディージャーナル社)というのが出ていて、新作古典と幅広く活躍するダイフクワールドが紹介されている。奈々福さんの「浪花節で生きてみる!」と併せて読めば、浪曲を知らない人でも「面白そう!」と興味を持ってくれること請け合いであり、何はともあれ、その高座に足を運んでほしいと思う。

太福さんは文化庁の芸術祭大衆芸能部門新人賞と浅草芸能大賞新人賞を受賞している。この配信でも二人で喋っていたが、特に芸術祭の新人賞は、その後に東家一太郎さん、真山隼人さん、そして今年になって澤雪絵さんが受賞され、「浪曲、キテル!」と堂々と言ってもいいのではないかと思う。

最後に、奈々福著「浪花節で生きてみる!」から、太福さんエピソードを少々抜粋。

2007年。師匠福太郎が亡くなった年の秋。自分を信じることもできず、まったく心も浮き立たぬままに迎えた「浪曲乙女組」の初回公演。木馬亭の客席に、なんと、立川談志家元がお見えになったのです。(中略)誰よりも芸に詳しく厳しいその方が、客席で「オレのアンテナに引っかかってきたんだよ!」と大きな声で話しておられるのが、楽屋にも聞こえて、私は緊張で吐きそうになりました。あとにも先にも、出番の前にあんなにつらかったことはない。

ところが、浪曲が始まってからも、家元は場内の後方に立って、ご本人は小声のつもりでいらしたのでしょうが、感想を話されるのです。客席はざわつきました。舞台に立っていたのは菊地まどかちゃんだった。彼女も動揺していたはずです。そのとき。その年の春に入門したばかりの太福青年は、つかつかと家元のそばに行き、「すみません。口演中はお話しにならないでください」と、ご注意申し上げたのです。

もちろん彼は、相手が立川談志であることを知っていたはずです。それゆえ、まわりの誰も声をかけられなかったその人に、堂々と注意した(「姉さん!堂々とではありません、おずおずと、平身低頭しながらですっ!」本人申告あり)。家元は同行の方々ともども、帰って行かれました。私の中で、太福さんは「家元を黙らせた男」です。家元を黙らせた太い男は、いま立派に成長して、人気者になりました。以上、抜粋。

そんな素晴らしい奈々福・太福のコンビが先頭に立って、若い世代に浪曲の魅力を伝えている。なんとも頼もしいことではないかと頭が下がる。