玉川太福「上野掛け取り動物園」 豚次の漢気に酔う。三遊亭白鳥作品が節と啖呵に乗って、人情浪曲になった。

浅草・木馬亭で「玉川太福月例独演会」を観ました。(2020・12・05)

落語、講談、浪曲の三つの話芸の中でも、僕は個人的に人情をたっぷり描いているのは浪曲ではないかと思っている。落語や講談にも素晴らしい人情噺や人情モノの読み物は沢山あるが、全般的に見ると節にのせて人の情けを唸る浪花節に泣かされることがしばしばある。

三遊亭白鳥師匠が創作した「任侠流れの豚次伝」全10話のいくつかを許可を得て演じている噺家さんは多いが、講談でも神田鯉栄先生や一龍斎貞寿先生がお読みになり、浪曲でも玉川太福さんなどが唸っている。「浪曲師 玉川太福読本」(シーディージャーナル)によれば、太福さんは全10話のうち、4話も浪曲化している。

この日は師走ということもあり、掛取りが季節ネタだろうということで、第2話の「上野掛け取り動物園」をかけた。これが、冒頭に僕が書いた浪曲の持つ人情味たっぷりで、大変に良かった。

舞台は上野動物園で、秩父の養豚場を抜け出した豚次が練馬保健所で捕獲され、上野動物園に虎の餌に送られたが、動物園を仕切る白黒一家のパン太郎親分にその度胸を買われ、子分になるのだけれど…。しかし、パン太郎親分には、人気動物にしか餌が与えず、困っている動物に高利で餌代を貸す裏の顔があった。その不正を何とかしようとする豚次の漢気にしびれる。

アライグマのラスカルとその娘。人気アニメで一世を風靡した初代の時代は良かったが、二代目のラスカル、本名アライクマコは人気もなく、借金はかさむばかり。大晦日、借金取り立て役のコンドルのジョーがやってきて、借金が返せないなら、娘を吉原に身売りすると脅す。困った親子に、「弱い物いじめはやめろ!」と豚次現る…。豚次がジョーをやっつけて、「コンドルが飛んでいく」を曲師のみね子師匠が弾くところ、拍手喝采!

こんな高利貸しをやっている親分の元にはいられない。白黒一家を抜ける!と豚次はパン太郎親分に啖呵を切って、尻尾を引きちぎって投げつけ、凶状持ちとなって上野動物園を去っていく…。

擬人化の創作落語が、さらに節と啖呵に乗ると、豚次がアライグマ親子にかけた情けや、悪質な白黒一家と別れを告げる漢気がより明確になって浮かび上がり、とても気持ちのよい人情浪曲になっていた。玉川太福の浪曲の可能性はどこまでも広がっていく。