【瀧川鯉八 真打昇進披露】独特の世界観を持った高座は唯一無二。音楽性や文学性を兼ね備えた新作落語は芸協の一枚看板になる。

国立演芸場で「瀧川鯉八真打昇進披露」を観ました。(2020・11・17)

鯉八師匠が「お江戸日本橋亭は残していますが、ほぼ僕にとっては千穐楽です」と言っていた。5月上席から予定されていたA太郎、伸三改メ伸衛門師匠との3人での披露興行は、コロナ禍により延期、10月中席新宿末廣亭からのスタートとなった、10下浅草、11上池袋を経て、11月中席が国立演芸場。これで40日間となるが、国立以外は3人が一緒に出演して、主任を交代で取る方式だが、国立は1人ずつの独立した披露目になるため、この日が鯉八師匠にとっての「千穐楽」ということなのだろう。

僕の鯉八師匠の落語との最初の出会いはシブラクだった。今まで聴いたことのないタイプの不思議な新作に翻弄され、衝撃を受け、戸惑い、そして次第に虜になっていった。鯉八落語には文学性と音楽性が兼ね備わっている。笑いを一つ一つ取って行ったり、ストーリーを積み重ねた面白さを楽しんだりする従来の新作落語とは違い、その世界観を楽しむ落語と僕自身は勝手に解釈している。かと言って、荒唐無稽とか傍若無人とかいうことはなく、きちんと理屈は一本筋が通っているから、僕の中で拒否反応を起こさない。いや、むしろ、しっかりと考えられている新作落語だ。唯一無二。天才だと思う。

師匠・鯉昇は冗談まじりの口上は愉快だった。「5月上席が当初の披露目スタートだったので、4月30日まではガリガリに痩せる思いで修行に励んでいましたが、持続化給付金のおかげで栄養がつき、こんな姿になりました」。稽古すれば、すぐに成果の出るものではないのが落語だと言い、あるとき急に「上手くなったね!」と言われるのが芸の道だと振って、「鯉八は面白くなったのが、一昨日の晩ですから。気の長い声援をよろしくお願いします」と締めた。

落語芸術協会会長の昇太の口上も楽しかった。「私には兄がいて、そこには子供がいます。つまり、甥っ子ですが、もう社会人です。でも、可愛いので、会うとお小遣いをあげてしまいます。鯉昇兄さんは1つ上の兄弟子で、だから鯉八は甥っ子にあたるわけですが、そんなに可愛くありません」。「スペイン人に滅ぼされたアステカの神みたいな顔。独特のカテゴリーにいる落語家です。皆同じゃ駄目なんです。彼は作家でもあり、演出家でもある。特別な世界を持っている。いつかいっぱいに花開く日が来ると確信しています」。最高の賛辞を送った。

この日に鯉八師匠が披露した落語は「長崎」。僕の大好きな噺だ。100歳で亡くなった鹿児島の祖父がものすごいプレーボーイで、妻公認の女性が5人もいたというマクラから、「あ、『長崎』だ」と小躍りした。長崎名所と名物ぶらり散歩だけでも楽しい。だけど、そこに微妙な男女の心の機微が描かれ、何度聴いても秀作だなぁと思う。純喫茶ツル茶んのトルコライス。喫茶冨士男のミルクセーキとフルーツサンド。ニューヨーク堂のカステラアイス。聴いていて、お腹がグゥーとなった。

瀧川どっと鯉「狸賽」/春風亭柳若「猫の皿」/瀧川鯉枝「ディス・イズ・ア・ペン」/ものまね 江戸家まねき猫/春風亭昇太「浮世床~将棋・本」/中入り/口上/瀧川鯉昇「粗忽の釘」/太神楽 鏡味味千代/瀧川鯉八「長崎」