【音曲師・桂小すみ なんじゃこりゃあ!】こういうご時世だからこそ、明るく生きよう。その向こうには希望のタネがある。
西巣鴨スタジオフォーで「音曲師・桂小すみ なんじゃこりゃあ!」を開催しました。(2020・10・18)
桂小すみ、本名松本優子は摩訶不思議な音楽経歴の持ち主である。
吹奏楽部でフルートとピッコロ、大学で三味線と尺八に出会う。音楽の教員を目指していた大学在学中にウィーン国立音楽大学に留学、ミュージカルを専攻。三味線弾きを志してからは江戸の文化の世界へ。長年務めた寄席のお囃子から音曲師に転向。令和元年度の国立演芸場花形大賞銀賞を受賞し、早くもその実力が認められつつある。
洋の東西を問わない、オールラウンドな音楽の魅力を伝える高座。寄席をベースに、その類稀なる才能はますます活躍の場を広げていくに違いない。そんな桂小すみのチャレンジ精神を思い存分味わってもらおうというのが、この会の趣旨だ。その第1回から、彼女は観客を酔わせた。
三味線のおもちゃ箱/桂小すみ
①伊勢音頭
②竹になりたや
二番が秋らしい歌詞で素敵。秋の七草 虫の音に 鳴かぬ螢が身を焦がす 君を待つ虫 鈴虫の鳴く音 聴こうじゃないかいな
③真間の手児奈
小すみさんは千葉県市川市在住。市川の真間に手児奈という神様が祀られているが、これは万葉集にも歌われた美女で、多くの男性に求婚されたが、それを苦に思い、海へ身を投げてしまったという。昭和初期に「舞踊小唄」というものが沢山作曲され、それらを収めたSPレコードが最近発掘されたが、その中から手児奈の唄を見つけたということで披露。でも、多くの男性から愛されて、なんで死んじゃうのかな?一説によると、国と国との争いごとの哀しい物語を手児奈という架空の美女に準えたんではと。
④カレーを作ろう
シンガーソングライターとして桂小すみが作詞作曲。8拍子でインドっぽいメロディーラインに載せた歌詞がユニーク。あー、天高く馬肥ゆる秋~からはじまって、お肉は鶏か豚か牛か、玉ねぎやニンジンを炒めたり、隠し味は味噌とか、主婦感覚満載!最後は、美味しくなーれー、私のカレー、私の心はインドへ飛んだ(笑)。
④あるボサノバの曲
ボサノバを三味線と唄で演奏してしまう、真骨頂。この曲は子どもの頃に住んでいた土地のイトーヨーカ堂の閉店音楽だったとか。英語からポルトガル語に変わり、最後はタモリみたいに魚の名前をポルトガル語風に歌って、これがまた天才的に雰囲気を出しちゃうの。
⑤もしもし亀よ 大薩摩ヴァージョン
柳家小満ん師匠から、長唄の七代目芳村伊十郎の「鏡獅子」の音源をもらって勉強したそうだ。大薩摩は今は長唄に吸収されたが、やはり演奏がダイナミックでカッコイイ。ただ、如何せん、歌詞が難解なので、歌詞を「みなさんにわかりやすい七五調」にしましたということで。わかりやすすぎる!でも、あの手は天才的だ!
「雨乞い村」音曲噺ヴァージョン/古今亭今いち
ある村が数カ月、雨が降らないで日照り続き。困った村長は雨乞いの先生を招くが。陰陽師、安倍晴明ならぬ安倍晴流(笑)。今いちさん自作の新作落語を音曲噺に。
雨を降らせるたびに、小すみの三味線が伴奏。春雨は♪春雨にしっぽり濡るるウグイスの~と端唄で、恵みの雨は「め組」つながりで屋台囃子合方で、というように音曲噺の愉しさがよく出ている。
最終盤では「桂小すみが降ってきた!」と、雨にまつわる映画音楽、歌謡曲、童謡など7曲をメドレーにしたのは圧巻!
ピアノときどき三味線 恋するオータム/桂小すみ
①あるミュージカルの中の一曲
英語だと3単語のフレーズが日本語の音にすると「ひ」「と」「り」でおわっちゃう。日本語はイントネーションのある言語なので、それに沿ったメロディーラインで三味線音楽を作る。そこが西洋と違う。小すみが訳した滅茶苦茶字余りの歌詞で歌うのが愉しかった。
ひとりぼっちだけど彼がそばにいるつもり 二人だけで朝まで歩く 彼がいなくとも腕に抱かれている気がする もし迷子のなっても目を閉じていれば私を見つけ出してくれるから
②どうぞかなえて(三味線)
③どうぞかなえて(ピアノ)
マスカーニ作曲「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲に載せて歌う。
どうぞかなえてくださんせ 妙見様に願かけて 帰る道にもその人に 会いたい見たい 恋しやと こっちばかりで先ゃ知らぬ 辛気らしいじゃないかいな
④奴さん姐さん(三味線)
三味線と唄に合わせて、今いちさんが踊る。三味線の単音は雑音、一音が複雑だから、音色が味わいがあって魅力的。ピアノの単音は素っ気ない。(奴さんをピアノでちょっと弾いてみて)。ビックリするくらい違うでしょう。三味線の説得力、すごさがわかった。
⑤ある歌謡曲
原則、三味線には長調、短調という区別がない。それに比べてピアノは…。一番を短調で切なく、二番を長調で明るく演奏。イメージが編曲でガラリと変わる!
⑥ある明るい歌謡曲のメロディで、別の歌謡曲の歌詞を歌うと…。捧腹絶倒!
⑦小すみさんが一番好きだというミュージカルから一曲を歌い、会を締めた。
留学時代、大学の先生に、当時ヨーロッパでヒットしていた「ミス・サイゴン」のオーディションを受けろと言われ、受けたそうだ。「主役のキムになれるチャンスだぞ」と言われ。落選の理由は「もう少し女らしかったらよかった」。こんな風に言われたんですよ!失礼しちゃう!「ベトナム戦争の悲劇のヒロイン」も、ミュージカルの冒頭はもっと明るい女の子でいいじゃないですか!
小すみさんは音曲師に転向し、1年間、前座修行をした。そのとき、45歳。毎日クタクタになって、寄席から帰ってきて、気絶するように寝ていた。でも、「楽しかった!」。これが彼女の天性の明るさだ。辛いこと、哀しいことがあっても、その向こうには希望のタネがある!これは彼女の口癖だ。玉川スミ師匠は「選ぶんだったら、難しい方を取れ」と言った、祖母は「苦労は買ってでもしろ」と言った、と。こういう(コロナ禍)世の中だからこそ、希望のタネを見つけることが大事だと訴えた。僕も全く同感である。