ポスト・コロナの新星たち④ ショウではなくて、ノボルです 昔昔亭昇

14日から4回シリーズで、今年前半に二ツ目に昇進した注目の噺家さんを紹介します。きょうは、6月上席から昇進の全太郎改メ昔昔亭昇さんです。

目黒昇(めぐろ・しょう)は福岡出身。就職の関係で上京した際に、観光で訪れた浅草演芸ホールで生まれて初めて生の落語を体験した。そのときに、若手人気真打が高座にかけた「桃太郎」という噺がとても印象に残った。落語って面白い!と思い、浅草に週末に通いはじめ、巡り合ったのが昔昔亭桃太郎師匠。メクリが「桃太郎」となったときに、「あっ、桃太郎という名前の落語家さんがいるんだ」と思ったそうだ。それで、その高座を聴いてみると、他の噺家さんとは違う魅力を感じた。「この人、素敵だなぁ」という人柄に惚れこみ、以来、桃太郎師匠が出演する寄席を3か月、追いかけ続けた。

元々、喋るのが好きだったこともあって、噺家になろう!もちろん、桃太郎師匠の弟子になりたい!と決意し、池袋演芸場の楽屋の出入り口で出待ち。東京ボーイズの仲八郎さんと喫煙スペース(現在はない)でタバコを吸いながら談笑している桃太郎師匠の横で、話が終わるのをずっと待ち続けた。すると、師匠から話しかけてきた。目黒昇は土下座をして、「弟子にしてください!」。池袋の楽屋口はお客さんのロビーとつながっているので、慌てた桃太郎師匠は慌てる。「じゃぁ、話を聞こう」と言って、喫茶店に連れて行ってくれ、じっくりと話を聞いてくれ、入門が決まった。

なぜ「しょう」ではなく、「のぼる」と読ませるか。これにはあるエピソードが関連する。全太郎で前座になって2年目、師匠の自宅の掃除をしていたときに、居間に飾ってある、ある人物の写真を指して、桃太郎師匠が「この人は誰だか、知っているよな?」と訊いた。前から師匠の大事な人の遺影だろう、とは推測していたけれど、わからないままだった。「いえ、わかりません」と答えると、「バカヤロー」と叱られた。桃太郎師匠の師匠・春風亭柳昇の遺影だったのだ。

「お前は俺の師匠も知らないで入門したのか。俺はお前の本名が昇(しょう)だったから、そこに縁を感じて弟子にとったのに」。で、次に「二ツ目になったら、名前に昇の字を使うか」とポツリとつぶやいた。同時に、全太郎は新作落語の神様的存在である大師匠の「カラオケ病院」や「日照権」などの音源を聴いて勉強した。「与太郎戦記」などの著作も読んだ。

だから、二ツ目昇進が理事会で決まったと、師匠から言われ、「おれは名前は全太郎のままでいいと思うが、お前はどうだ?」と訊かれ、全太郎は二つの名前を師匠にお伺いしてみた。一つは「桃八」。桃太郎師匠に惚れこんで入門しただけに、「桃」の一字がほしかった。そして、もう一つは「昇」。これは2年前の鮮やかな記憶があったから。すると、師匠は「桃の一字は真打までとっておこう。じゃぁ、昇(のぼる)にするか」と言ってもらえた。そういう経緯があっての昔昔亭昇なのだ。

前座時代、師匠からは「桃太郎」「魚根問」「ぜんざい公社」を習った。「ぜんざい公社」は浅草演芸ホールで最初に師匠の高座を観たときのネタだ。古典は他の師匠からもつけてもらい、15席ほど持っている。また、「濃い顔落語会」という、桂こう治(小文治門下)、三遊亭あら馬(仁馬門下)と3人で新作ネタおろしの会を2年半ほど前から開いている。30作ほど作ったが、残ったのは2席だとか。仲の良い親友のおバカな喧嘩をコミカルに描いた「大好きだ」。花見をしようと集まった高校の同級生たちの花見風景というか騒動記「桜満開」。古典、新作、共通しているのは「笑ってもらいたい」ということ。だから、「人間ってバカだなあ」と思える落語を演じたいと抱負を語る。

10月にスタートする隔月の勉強会「やっちゃう?!」の第1回では「ぜんざい公社」をネタおろし。師匠・桃太郎に習っていたが、前座ではかけることができず、晴れて二ツ目になってかけられると意気込んでいる。元気な高座がセールスポイントの昇さんに期待が高まる。

二ツ目勉強会「やっちゃう?!」@お江戸両国亭

10月19日(月)19時開演 木戸銭2000円(当日精算)

三遊亭花金「心眼」林家彦三「染色」三遊亭ぐんま「禁酒番屋」昔昔亭昇「ぜんざい公社」

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