三遊亭わん丈 「時そば」改作のユーモア、「匙加減」の人物演じ分け、「明烏」の吉原情景描写。ますます注目だ!

つながり寄席オンラインで「三遊亭わん丈の会」を観ました。(2020・08・24)

わん丈さんは前座の頃から面白かった。何回か聴いたマクラで、自分の母親が頑固だという高校生時代のエピソードがある。ある日、金髪にして登校した延川少年は教師に怒られ、保護者ともども呼び出しを食らった。すると、母親は自分も金髪にして、「遺伝ですから」と言い張ったという。どこまでデフォルメしているか、わからないが、そのユーモアセンスは大好きで、当然二ツ目になってから益々本領を発揮している。自作の新作落語も面白いが、古典も巧みで、「双蝶々」を(上)(中)(下)に分けた口演は高く評価された。

この日は「時フォー」「匙加減」「明烏」の三席。その手腕をいかんなく発揮していた。

「時フォー」は「時そば」のフォー版である。ベトナムの麺。なのに、タイを舞台に噺が展開しているのが可笑しい。主人公はタイ料理=フォーと勘違いしているし、聴き手もその思い込みを演者が突っ込みを入れるまで気づかない!(僕は少なくともそうだった)という点もわん丈さんはセンスあるなあと。二八フォーだから、16バーツ。

前半の騙す男。「飽きずにやれよ、商いというくらいだから」に、「はい。常夏ですから」。秋がない!「行燈は緑と白と赤のラインの的に矢が当たっている」「はい、イタリアです!」「当たり屋じゃないんだ。昔、イタリアの植民地だったとか?」。「気に入った!」「どうぞ、ご贔屓に」「でも、短期ビザだから」も可笑しい。先割れスプーンではなく、割り箸。出汁が効いてる、ナンプラーおごったね。フォーは透明なのが値打ち。分厚な肉は牛の頬肉、コリコリするのは豚のアキレス、鶏の内臓も入っている!で、勘定のところで、「・・・12、13、肉汁が」「ジューシー」「15、16。ご馳走様!」(笑)。

失敗する男。「暑いな!」「タイでも寒いところはあるんです。売れて仕方ない」。「重ね着をして、車がビュンビュン走っているところに行って」「当たり屋か!」。「贔屓にしたいんだが、ビザガないんだ。大使館には内緒だよ」。「フォーじゃない!タイはバミーです。有名ですよ」、で、勘定は「・・・12、13、この麺は?」「フォーです」「5、6、7・・・」と戻っちゃう!上手いね!

「匙加減」。講釈ネタで、扇辰師匠が演るのをよく聴いていたが、純朴な医師である安倍源易のおなみへの愛情をいいことに企む加納屋と松本屋の悪徳ぶり。それを見事に裁く大岡越前守も役者だが、それ以上に智恵を働かせる家主が実に光る一席に。自分への土産代わりの心付け、女房への髪油代、さらには猫の鰹節代までせしめるだけでなく、猫の茶碗が「井戸の茶碗」だと言って20両まで出させるのはあっぱれ。その20両は若先生とおなみの婚礼費用に充てるというのも、「人情匙加減」という感じで、とっても良かった!

「明烏」。ウブな若旦那・時次郎の「お賽銭は二礼二拍手一礼でいいんですか?」「お二人のお賽銭も払ったら、源兵衛さんと太助さんの御利益は?」(笑)。町内の札付きと悪の権化、あわせて町のダニ!夕暮れ時、吉原に向かう雑踏を見て、時次郎は「このお稲荷さまのご利益があるのがわかります!皆さん、目がキラキラしています!」と、いつまでも吉原であることに気づかないのもイイネ!

目を見張ったのは、店に上がる時の描写がしっかりしていること。幅の広いピカピカの上り框を上がりまして、幅の広い梯子段を登ります。幅の広い廊下がスーッと延びております。薄暗いところに、ポツリポツリと灯が点在しています。出て参ります花魁はと申しますと、文金島田立兵庫という髷を結いまして、着物をダラーッと着ます。櫛、笄を後光のように刺しまして、左手で褄を取り、左手を中に入れる張り肘という形。ちなみにコレが反対だと芸者さんだそうです。信じられないくらい底の分厚い下駄、重たい下駄を素足で履き、パタンパタンと歩いてくる花魁・・・。情景が浮かぶようだ。お見事だ。

ユーモアセンスが抜群な上に、勉強熱心、口跡も鮮やかで、笑わせる部分、聴かせる部分のメリハリがきちんとしているので、ただ面白くて楽しいだけでなく、心地よくさせる話芸を持っている。満足度が高い。今後、ますます注目の二ツ目さんである。