「演芸が好きで好きで堪らない」柳家三三のこだわりの配信 そして、5カ月ぶりのナマの高座を堪能

横浜にぎわい座で「柳家三三 ハマの十番勝負」(2020・07・13)、イープラスストリーミングで「月例三三独演」(07・16)を観ました。

新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から毎月実施されていた柳家三三師匠のホームグラウンドである「月例三三独演」は今年3月以降休止となり、現在8月まで休止が決まっている。三三師匠は緊急事態宣言以降、ご自身で独自にYouTubeによる配信に積極的に取り組んでこられた。ただ、自分の落語の背骨である「月例三三」がないことに心を痛めており、その代行として6月からイープラスの力を借りて、無観客のライブストリーミングをスタートさせた。これまでの無料のYouTube配信と違い、有料にすることによって、画像と音声が格段に向上し、またお囃子さんと太鼓の前座さんも生演奏し、クオリティを高めたことに拍手を送りたい。

7月からはテーマ曲もできた。人気ロックバンド、クロマニョンズのマーシーこと真島昌利さんによって制作されたオープニングテーマソング「BON BON」(作曲:真島昌利、編曲:鵜飼健太郎、コーラス:相川わたる)と、エンディングテーマ「ルート33」が流れた。

「BON BON」の歌詞はこうだ。

ボン、ボン、ボボンバー 楽しいな ボン、ボン、ボボンバー 愉快だな 生きてれば何かいいことあるでしょう いつかいいことあるでしょう ボン、ボン、ボボンバー とりあえず綺麗な夕日を眺めましょう

コロナ禍で不安な日々を送る我々に勇気をくれるテーマソングをありがとうございます。

三三師匠のサービス精神はこれだけではない。中入り休憩には、お囃子の長澤あや師匠による小唄「晴れて雲間に」と端唄「縁かいな」の演奏。映像にはそれぞれ、達筆な師匠の筆で色紙に歌詞と、一言コメントが添えてある。

晴れて雲間に

晴れて雲間に あれ月の影 さし込む腕に入れ黒子 もやい枕の蚊帳のうち いつか願いを おやもし雷さんの引き合わせ

ひとこと

歌舞伎狂言「白浪五人女」で使われた清元を原曲として生まれました 雷避けにひとつ蚊帳に入った男女の様子を唄ったもので昔から多くの人に愛されました

縁かいな

夏の涼みは両国の 出船入船屋形船 あがる流星 星くだり 玉屋がとりもつ縁かいな

夏の暑さに涼み船 簾かかげて爪弾きの 粋な二上り三下り 風がとりもつ縁かいな

ひとこと

明治初期から中期に寄席やお座敷で大流行した曲です 両国の花火は江戸時代、疫病退散祈願と犠牲者慰霊のため八代将軍吉宗が始めました

コロナ禍で今年の両国の花火は中止になったけれど、本当は疫病退散祈願ではじまったもの。うーむ。考えさせられますね。

落語は「青菜」と「不孝者」。お屋敷の隠し言葉に、植木屋が「お電話?菜のことなんかしてなかった?倉田さんが牛の背中にワカメを山積みにして苦労をしたとか、しないとか」(笑)。二席目、大旦那の元イイヒトである芸者・金弥との色っぽいやりとりが実に品が良い。

7月13日の横浜にぎわい座は、僕にとって、2月14日の「月例三三独演」@イイノホール以来、実に5カ月ぶりのナマの高座だった。

「高砂や」と「居残り佐平次」の二席。マクラで開口一番にあがった前座の八楽さんに触れた。彼は二楽師匠の弟子であり、息子で、つまりは先代正楽師匠のお孫さん。で、その先代正楽師匠の逸話を披露。元々は八代正蔵に噺家として入門したが、春日部訛りが直らず、紙切りに転向。その前座時代、正作として開口一番を務め、「本膳」をかけた。その高座を聴いた評論家が「上手い!」と思い、楽屋を訪ねた。すると、本人が対応し、「この訛りは本物だったんだ!」(笑)。

映画「ジュラシックパーク」が人気だったころ、紙切りで「T-REX」の注文があり、「何?・・・あぁ、恐竜ね」。で、ゴジラを切ったという伝説も。息子の二楽さんと親子で高座に上がっていたときは、立ちだった。正楽師匠は着物、二楽さんはタキシード。二楽さんが、えらくガニマタだったのを覚えている、と。

「高砂や」、婚礼に西洋料理が出るかもしれないと言う隠居に、八五郎が「セイヨウローリ?ハムカツ?ヒレカツ?」。「祝儀をつける、謡だな、謡曲」に「洋食?ハムカツ?」「離れなさい」が好き。「高砂ぉー、柴又線はお乗り換え」「京成電車じゃない」も昔から好き。

「居残り佐平次」、朝からご機嫌で「愉快、痛快、女郎屋の二階」のフレーズ。勝っつぁんが独りで紅梅花魁を待っているところに現れた佐平次。「噂は聞いてますよ。紅梅さんのイイヒト!耳にタコ、イカにも!ってね」と調子がいいのがいい。「あなたが来ない日は不機嫌で、茶碗酒あおって、くわえた楊枝を前歯でポキッ!浮名立ちゃ、それも困るし世間の人に、知らせないのも惜しい仲!紅梅さんがとろけちゃう人、どんな人?・・・なるほど、と思いました。男に惚れさす男でなけりゃ、粋な年増は惚れやせぬ!」と、まんまと祝儀を切らせる佐平次の腕。「あとは若い二人で、なんて仲人みたいなこと言って!高砂や!」。なるほど、ここで中入り前の「高砂や」に繋がるのね。

手紙代筆、繕いもの、小噺をいくつか。褌一本で電信柱に上り、「忠臣蔵、松の廊下。これがホントのデンチューでござる!」。「キラキラで荒波ザブン!」の派手な着物は「俵星玄蕃か!柳亭市馬か!」。三三師匠独特のリズムに軽妙なクスグリが乗り、「元犬」や「粗忽の釘」で見せる「名人の別顔」の面白さの要素が多分に盛り込まれた「居残り」。楽しかった!