柳家わさび 浅草演芸ホール6月中席夜の部で初トリ 古典も新作も素晴らしい若手真打を証明

浅草演芸ホールで六月中席を観ました。(2020・06・11&15&19)

去年9月21日から真打に昇進した柳家わさび師匠の初の主任興行が行われました。寄席が緊急事態宣言以降、休業していましたが、宣言が解除され、ソーシャルディスタンスを保つ定員数制限、アルコール消毒、マスク着用義務、中入り休憩を多くして換気をまめにするなどの取り決めをした上で、都内4軒では新宿末廣亭と浅草演芸ホールが6月上席より再開しました。落語協会では上席が末廣亭で昼主任・南喬師匠、夜主任・喬太郎師匠、中席が浅草で昼主任・白酒師匠、夜主任・わさび師匠、下席は末廣亭で昼主任・菊志ん師匠、夜主任・天どん師匠。ベテラン、中堅の顔ぶれが並ぶ中、堂々の柳家わさび主任興行10日間がおこなわれ、二階席までいっぱいになる盛況でした。

わさび師匠は「この時期、わさびくらいが丁度いいんじゃないかと起用されたんですよ」と謙遜されていましたが、2か月間寄席が閉じられ、演芸ファンは配信で楽しむ術しかなく、こうやってナマで高座を拝聴できるのを待ち望んでいたわけで、そこに新進気鋭の期待の若手が夜トリに起用されたことは、少なくとも僕の周りでは喜びの声があがっていました。大師匠の小満ん師匠が中入り、ヒザ前は師匠・さん生、人気の文菊師匠や白鳥師匠、百栄師匠、ベテランの扇遊師匠、一九師匠、小ゑん師匠、色物では正楽師匠、ペペ先生や小菊師匠。皆さんが久しぶりの高座を楽しんでいる様子が伝わってきました。壽二ツ目昇進のぐんまさんも連日張り切った高座で元気を貰いました。

ちなみに、わさび師匠の10日間のネタは以下の通りです。

初日「井戸の茶碗」二日目「寝床」三日目「臨死の常連」四日目「明烏」仲日「三井の大黒」六日目「エアコン」七日目「紺屋高尾」八日目「死神」九日目「ステルス」千穐楽「純情日記横浜編」(柳家喬太郎・作)

僕は初日と仲日と前楽に伺いました。

6月11日(木)昼 乃ゝ香「つる」志ん輔「替り目」白浪「他行」ジキジキ/漫才壽二ツ目昇進 彦星改メ彦三「黄金の大黒」木久蔵「こおもり」小猫/ものまね 馬石「たらちね」圓歌「龍馬伝」 中入り 橘之助/浮世節 こみち「茗荷宿」はん治「妻の旅行」二楽/紙切り 一朝「壺算」雲助「ざるや」 中入り やまと「子ほめ」ロケット団/漫才 馬風「楽屋外伝」正蔵「お菊の皿」紋之助/江戸曲独楽 白酒「お見立て」 夜 市坊「転失気」小はぜ「やかん泥」たけ平「エレベーター」アサダ二世/奇術 ぐんま「グレコ奮闘記」扇遊「一目上り」ペペ桜井/ギター漫談 一九「寄合酒」白鳥「山奥寿司」正楽/紙切り 小満ん「宮戸川」 中入り 柳勢「やかん」小ゑん「ミステリーな午後」小菊/粋曲 文菊「長短」さん生「松山鏡」仙三郎社中/太神楽 わさび「井戸の茶碗」

志ん輔師匠、2か月髭を伸ばしていたと1.5センチに伸びた髭顔で登場、「今だけ写真撮っていいですよ」。立ち呑み屋で髭が邪魔してビールが飲みにくいと。小猫先生、壽二ツ目昇進 彦星改メ彦三さんの出身地、福島県の県鳥・キビタキの鳴きまね。信じる心が大切です!馬石師匠、言い立てよりも夫婦間の頓珍漢なやりとりに重点の演出、イイですね。「目を見て落ち着いて考えりゃらぁわかる」という大家もいい加減で可笑しい。橘之助師匠、猫じゃ猫じゃとおっしゃいましたね。馬風師匠、志ん生、小さん、三平と昭和の名人の思い出話、味わい深い。白酒師匠、客席を見渡し「フレンドリーなお客様」と。

アサダ二世先生の前に、アサダ五世ことふう丈さん登場。場内沸く。後日、三世に昇格したと聞いた。ぐんま、元気はつらつ。元レスリング部の経験を生かした新作。座布団を使った荒技は師匠譲りで、身体を張って大熱演。一九師匠、どう違うステイホームとホームステイ。正楽師匠、「小満ん一門」の注文に鮮やかな鋏裁き。小満ん師匠、「野郎、そろそろ安政2年にかかりやがった」。文菊師匠、長七さんが個性的でイイですね。

わさび師匠、千代田卜斎も高木作左衛門も、実直、正直に可愛らしさが加味されていて、素敵。台詞、表情による感情表現の巧さ。いい意味で若々しいから、清々しい。「マジほしい」という細川の神様とか、千代田氏の「梅干しのような顔」とか、単なるクスグリではなく、そこに人間っぽさが出ていた。

6月15日(月)昼 ジキジキ/漫才 壽二ツ目昇進 彦星改メ彦三「兵庫舟」きく麿「歯ンデレラ」ダーク広和/奇術 龍玉「ぞろぞろ」圓歌「やかん」 中入り 橘之助/浮世節 志ん輔「豊竹屋」はん治「鯛」二楽/紙切り 一朝「鮑のし」雲助「夕立勘五郎」 中入り こみち「洒落お清」ロケット団/漫才 馬風「ひばりメドレー」正蔵「悋気の火の玉」紋之助/江戸曲独楽 白酒「禁酒番屋」 夜 枝次「十徳」小はぜ「富士詣り」たけ平「稽古風景」アサダ二世/奇術 ぐんま「権助魚」扇遊「初天神」ペペ桜井/ギター漫談 一九「湯屋番」白鳥「マキシム・ド・呑兵衛」正楽/紙切り 小満ん「あちたりこちたり」 中入り 柳勢「紀州」小ゑん「ほっとけない娘」小菊/粋曲 文菊「親子酒」さん生「出来心」仙三郎社中/太神楽 わさび「三井の大黒」

壽二ツ目昇進 彦星改メ彦三さんの「彦星」は7月7日生まれだからだったとは。きく麿師匠、小林旭「昔の名前で出ています」は老人ホームでも鉄板なのがわかる。ダーク先生、「任天堂はトランプメーカーだったの知ってます?」。圓歌師匠、「地球温暖化は松岡修三のせい」。はん治師匠、「コワーイ目で睨んでいる!とか言って美味しそうに食べるんだよな」。一朝師匠、魚屋主人の「熨斗の根本」を伝授する江戸弁鮮やか。ロケット団、多目的トイレ、さっそくネタに。馬風師匠、美空ひばりを32曲!すごい!白酒師匠、「コロナのお陰で高座の有難みがわかった。一席一席大切にしていこう」なんていう芸人は少ないです、と。こういう発言が一番芸人らしい。

小はぜさん、珍しいネタをありがとうございました。たけ平師匠、相変わらずお決まりの漫談でお茶濁す高座。ぐんまさん、今川焼が群馬名物「焼き饅頭」に。刺身は蒟蒻しか食ったことのない、権助。一九、食べ放題食べ尽くした食通も社会復帰の希(のぞみ)は薄い。小満ん師匠、「18番、エースナンバー。堀内だ」。小ゑん師匠、歴女、しかも仏像巡りが趣味の娘。和辻哲郎「古寺巡礼」!文菊師匠、「酒呑みは奴豆腐にさも似たり。はじめ四角であとはグズグズ」。志ん生になっちゃう。「人間というものは・・・」。

わさび師匠、ポンシュー実は甚五郎の人物造型の上手さ。「飛騨高山?甚五郎に会ったことがあるか?」「あるよ。つまらない男だ」。「名前は・・・あったよ。箱根越して、汗かいて、のぼせて、未だに思い出せない」。越後屋が来て、甚五郎先生であることが親方に知れると、「甚五郎?湯の帰りにようやく思い出した」。奢り高ぶらない名人が、わざと間抜けを演じている様子がよく伝わってきた。

6月19日(月)昼 ひこうき「桃太郎」こはく「金明竹」やまと「熊の皮」おしどり/漫才 壽二ツ目昇進 彦星改メ彦三「大店の犬」木久蔵「勘定板」小猫/ものまね 龍玉「ざるや」圓歌「母ちゃんのアンカ」 中入り 橘之助/浮世節 志ん輔「強情灸」はん治「千早ふる」楽一/紙切り 一朝「たがや」さん喬「千両みかん」 中入り こみち「目薬」ロケット団/漫才 馬風「楽屋外伝」正蔵「松山鏡」紋之助/江戸曲独楽 白酒「鰻の幇間」 夜 菊一「まんじゅう怖い」小はぜ「道灌」たけ平「足立区へようこそ」アサダ二世/奇術 ぐんま「ランプのぐんま人」扇遊「引越しの夢」ペペ桜井/ギター漫談 一九「たらちね」百栄「やかん泥」正楽/紙切り 小満ん「夢の酒」 中入り 柳勢「やかん」小ゑん「吉田課長」小菊/粋曲 文菊「粗忽長屋」さん生「狸の札」仙三郎社中/太神楽 わさび「ステルス」

こはくさん、「狼屈斜路湖」「友情を育んだ素麺工場の掃除夫」など師匠のクスグリをちゃんと自分の言葉にしている。小猫先生、イリオモテヤマネコとツシマヤマネコの鳴き分け!信じる気持ち!龍玉師匠、滑稽噺も面白いんです!橘之助師匠、見世物小屋を久しぶりに聴いた。志ん輔師匠、顔芸。熱そうだもの。楽一さん、最新機器を使った見せ方。こみち師匠、「さん喬師匠に客に逃げられた女郎みたいだな、って言われました」。ロケット団、「終わります」で高座を下がるパターン定着。馬風師匠、ラジオ深夜便のアンカー20人の名前を一つも間違えずに言い立てる!すごい!白酒師匠、幇間の騙されたと判明してからの女中にぶつける小言、爆笑の連続!これぞ白酒節!

たけ平師匠、足立区ネタで客いじり。ぐんまさん、「ペペ先生のリクエストで」と、勝手に群馬県をPRする新作を。無理やり「日本の真ん中」を主張し、へそ音頭でへそ祭りする群馬人、かわいいじゃないですか。井森美幸、風吹ジュン、由紀さおり。三大美女。百栄師匠、独特のフラで演じる新米泥棒が可笑しい。小ゑん師匠、カツラネタの新作。「つるつる」「やかん」「抜け雀」は禁句!小菊師匠、岡惚れしたのは私が先よ、手出ししたのは主が先。文菊師匠、「いやらしいお坊さんじゃないのよ」と。いつもは「スケベなお坊さん」なのに、何かあったのか?と、わさび師匠が訊いたらしい。

わさび師匠、相当初期に「月ワサ」の三題噺で創られ、その後も何度も高座にかけて、ご本人も気に入っている噺みたい・・・検索してわかった。ただ、その三つのお題が何だったかまでは調べきれなかった。「出待ち」「臨死の常連」「MCタッパー」など過去の三題噺名作には巡りあったが、この噺は初めてだったので嬉しかったのですが、それだけじゃなくて、すごい!名作だ!と思いました。男は皆、「モテたい」と思っている。だけど「イケメンじゃないから」と諦めてしまう。50歳を過ぎたおじさんの僕もそうだったよ。「絶対にモテるマニュアル」を詐欺商法で売りつけることになった「存在感のうすい、ステルスとあだ名された男」。彼の正体が最後にわかる、大逆転劇!

いやぁ、柳家わさび師匠、10日間主任興行、お疲れ様でした!千穐楽に喬太郎師匠の「純情日記横浜編」を持ってくるとは!そこまでは思いが至らなかったですぜ!兎に角、わさび師匠の思いがたくさん詰まった初主任興行だったと感じましたし、僕も感激しました。ありがとうございました。