一之輔と天どん 「新作江戸噺」がいつか古典になる
3月18日にソニー来福レーベルから発売になったCD「春風亭一之輔・三遊亭天どん 新作江戸噺十二ケ月」を聴きました。
「らくご@座」さんの企画・制作・主催で2015年5月から17年7月にかけて開かれた落語会「一之輔・天どん ふたりがかりの会 新作江戸噺十二ケ月(笑)」6回の公演で生まれた、「新作江戸噺」12作品の中ら、4作品を収めたものだ。
ライナーノーツに「らくご@座」こと松田健次さんがこのように書いている。以下、抜粋。
江戸が舞台で十二ヶ月の各月ごとの…季節を感じる噺を全十二席こしらえて…一年の暦を埋めていく…という趣旨の企画でございます。(中略)それにあたっては、江戸が舞台の新作を「新作した古典」と捉えまして、ジャンルの総称を「新古典」と括ってみます。以上、抜粋。
と前置きがあり、開祖は「牡丹燈籠」「死神」「真景累ヶ淵」などの名作を生んだ三遊亭圓朝とし、世代を超えた評価を重ねることで明治に生まれた新古典は現代の古典となったとしている。その上で圓生「江戸の夢」(作・宇野信夫)、桂米朝「一文笛」(自作)、柳家小さん「真二つ」(作・山田洋次)、林家正蔵「笠と赤い風車」(作・平岩弓枝)、桂枝雀「幽霊の辻」(作・小佐田定雄)などを挙げている。
さらに「夢丸新江戸噺」、落語協会が現在も実施している「新作落語台本・脚募集」、SWAで生まれた「鬼背参り」(作・夢枕獏)や昇太師匠作品「本当に怖い愛宕山」まで脈々と引き継がれていると。再び、抜粋。
と、このようなジャンルの流れに接しつつ、新しい噺の可能性に刺激を受けつつ、2014年頃「新作江戸噺十二ケ月」を着想致しました。SWAメンバーの次世代がこれを担うことを意識して、春風亭一之輔師匠と三遊亭天どん師匠に依頼しました。(中略)片や古典派と思いきや新作OK。片や新作派と思いきや古典OK。そんなふたりが同じ企画の下で腕を摺り合わせたらどんな発火をおこすのかという期待がありました。以上、抜粋。
僕は全6公演のうち、5公演に行った。
2015・05・22 一之輔「はなし亀」(9月)天どん「つゆ待ち傘」(6月)
10・04 一之輔「長屋の雪見」(12月)天どん「ひとり相撲」(1月)
2016・10・11 一之輔「時太鼓」(11月)天どん「影富」(10月)
2017・02・02 一之輔「手習い権助」(2月)天どん「サギ烏」(3月)
10・11 一之輔「背に母」(8月)天どん「消えずの行灯」(7月)
2016・10・11 一之輔「時太鼓」(11月)天どん「影富」(10月)
その後、2018・03・13に「新作江戸噺十二ケ月べすとばん」公演があり、一之輔「吟味婆」(4月)「長屋の雪見」、天どん「ひとり相撲」「つゆ待ち傘」を聴いている。
今回のCDには、一之輔「長屋の雪見」「手習い権助」、天どん「鮎かつぎ」(5月)「消えずの行灯」が収録されている。以下は僕の感想です。
「長屋の雪見」(春風亭一之輔作)
「長屋の花見」は大家さんが店子に呼びかける趣向だが、これは逆で店子連中がションボリしている大家さんを元気づけようと発案したもの。お互いの心の交流が微笑ましくて、明るく貧乏「雪見」を愉しんでいるのが好きです。
「手習い権助」(春風亭一之輔作)
初午で奉公先の坊ちゃんが手習いに行くというので、飯炊きの権助三十八歳が自分も行きたいと言い出し、子供たちに交じって読み書き算盤を習うのだが。田舎者の権助の言動に彼の純朴さ、素直さが現れていて、これまた微笑ましいです。
「鮎かつぎ」(三遊亭天どん作)
鮮度が命の多摩川で獲れた若鮎を武州高槻から内藤新宿まで運ぶ、三兄弟。山中で狐に騙された彼らは。実在した「鮎かつぎの唄」を歌いながら、天秤棒を担ぐ姿が目に浮かびます。
「消えずの行灯」(三遊亭天どん作)
お花と半七が無人の蕎麦屋の屋台を見つけて蕎麦屋さんごっこをしていると。本所七不思議が師匠の手にかかり、独特のユーモアに包むと、怪談噺が爆笑噺に!
ここで生まれた「江戸噺」の中には、両師匠がその後にしばしば寄席でかけるお気に入りのネタになっているものも。やがては他の噺家さんにも受け継がれていくことだと思う。この4席だけでなく、残り8席のCD化も演芸ファンとしては希望したいし、また寄席の高座で巡り合うのも楽しみである。
最後に、松田さんのライナーノーツの末尾を抜粋します。
ここに生まれたばかりの「江戸噺」が作者の手を早々に離れ、何世代か先に「古典!」と呼ばれる日が来ることを夢想しつつ、両師匠の労を高円寺の大衆酒場でねぎらいたく思います。