真山隼人ツキイチ独演会「巷説百物語 芝右衛門狸」、そして談春塾 立川談春「らくだ」

真山隼人ツキイチ独演会に行きました。エッセイ浪曲「ネタ泥棒~伯山の義侠」と「巷説百物語 芝右衛門狸」前編と後編の計三席だった。

「芝右衛門狸」は京極夏彦原作。「米洗い」に続くミステリー小説の浪曲化である。

淡路島が舞台。好々爺の芝右衛門そっくりの芝右衛門狸が実は事触れの治平で、物の怪の六右衛門狸が小股潜りの又市、また人形浄瑠璃市村座で働いていた女中が山猫廻しのおぎん…これらミステリー解決のカギが最終盤まで判らない。だから、面白いのだろう。

市村座の座長の松之輔は徳島藩洲本城の城代家老・稲田九郎兵衛の命によって、ある若侍を預かった。だが、その若侍が実は京都や大坂で辻斬りを重ねてきた凶悪犯。その問題を解決するために、狸を利用するところが味噌だ。九歳の孫娘ていを辻斬りされた芝右衛門のところに、芝右衛門そっくりの狸が接近したのもそのためだったのか。

阿波徳島は狸の本場。ここで狸の長の座を巡って六右衛門と金長が勢力争いをした。結果は金長が勝ったのだが、六右衛門に味方した尾張の長二郎が裏切ったことが勝敗を決した。その長二郎狸こそ松之輔が預かっている殿と呼ばれていた若侍だとして、六右衛門狸が夜な夜な若侍の枕元に現れるという…。

結果的にこの辻斬りの若侍は長二郎狸として死に追い込むわけだが、面白いのはその若侍とて、最初は凶悪な男ではなかったということだ。先の将軍が農家の娘に手を付け、産ませた子どもがその若侍で、松平長二郎と名付けられ、周囲の者たちが御落胤だと神輿を担いだが、裏切られて狂気となり、辻斬りを始めたという…。実は哀しい運命の人物であったのだ。

果たして、徳島藩主の蜂須賀公は一体、どこまで判っていて、この辻斬り侍を市村座に預けたのだろうか。そのあたりのミステリーも残しつつ、物語は終わったのが、逆に興味をそそられた。

「談春塾~立川談春独演会」に行きました。「らくだ」、一席。

「らくだ」焼き場まで通し、100分。屑屋久六に対する手斧目半次の脅しの言葉、「行った方が良いと思うよ。お互いの幸せのために」とか、「逃げられると思うのか。言うこと聞いた方がいいよ」とか、「誰がらくだの評判を訊いて来いと言った?」とか、「十日くらい働けない体にしてやろうか」とか。兄貴分がこうだから、生前のらくだもさぞ性悪で怖かったのだろうと想像する。

そんな半次の「死人のやり場に困っている。煮るなり、焼くなり、好きにしてほしい。死人にカンカンノウを踊らせませしょうか」という悪知恵に、家主は怯まなかった。「踊らしてみろ。そんな脅しに乗る大家じゃない。死人のカンカンノウなんて、長いこと人間をやっているが見たことがない。うまく踊れたら祝儀を切ってやる」と言って、塩を撒いて屑屋を追い返したが…。実際にらくだの死体を引っ張って来て、カンカンノウを踊らせるのを見て、大家夫婦は慌てふためく。こういう言い方は妙だが、半次という男はそれだけ性根の据わった悪なのだと思い知る。

屑屋久六が半次に酒を勧められ、自分は酔うとだらしなくなるからと遠慮していたが、実際に飲むと「いい酒だ」だと言って気が大きくなる。そのときにまず口から出てきたのは大家の悪口だ。大家が酒や煮しめを持って来たのは、カンカンノウが怖かったからで、気持ちがこもっていない。その点、長屋の衆は少ないけれど香典を持って来た。これは気持ちがこもっている。月番の下駄の歯入れ屋は「死ねば仏」と言った。それに比べて大家は性根が腐っている。有難みがない、と。

久六の気はどんどん大きくなる。半次に酒を注ごうとすると、「俺は酒を味わう方だから。チビチビ飲むよ」と言われ、「一息で飲めないのか」と言って、「ペロペロって変な飲み方!」馬鹿にしたように嘲笑うところ、面白い。

さらに、生前のらくだの酷さをこきおろす。「死ねば仏?冗談じゃない。俺は許せない。畳の上でなんか死んでほしくなかった。こんな悪い奴はいない」。寂しい奴なんだよと半次が擁護すると、「寂しければ、人を苛めていいのか?!」。

左甚五郎の蛙と騙され、一分を奪われたエピソード。久六の親父は古道具屋を商っていたが、値打ちの判らない人から安く買い叩き、高く売りつけるアコギな商いをしていた。親父を恨む人も多く、自分は屑屋に成り下がってしまった。女房には可哀想なことをした。ふと、麹町の隠居が蛙の置物が大好きだったことを思い出し、「一両で売れる」と欲を出してしまった。女房に前掛けの一枚買ってやれる、子どもに鰻入りの玉子焼きを食べさせてやれる、母親に蜜豆を食わせてやれる…家族の笑顔が浮かんだ。それなのに本物の蛙だと判り、「一分返してくれ」と叫ぶと、逆に「お前は目が利かないんだよ!」と言って、ぶん殴られ、額から血が出た。なんで、こんな目に遭わなくちゃいけないんだ…。

すると、半次が「俺にはわかる。らくだはお前さんのことが大好きだったんだ!図体がでかくて、親に見捨てられ、世間の誰にも優しくしてくれる人がいなくて…」。これを聞いた久六の反論が的を射ている。「みんな悪いのは世間様か?誰だって、うまくいかなくても、歯を食いしばって、笑って生きていくんだよ。うまくいかないから、殴っていいのか!?」。

半次は久六を兄貴と呼ぶようになり、「兄貴にはきちんと働いてほしい。俺たちみたいになっちゃいけない」。久六は「毎日働いていれば、雨が降ったり風が吹いたりするときもある。そんなことで嘆きをかけるような屑屋と屑屋の出来が違うんだ!手斧目!酒、注げ!…芋で酒が飲めるか!魚屋でマグロのブツ、そう言って来い!」。

手斧目半次と屑屋久六の単純な立場逆転ではなく、「人間はいかに生きるべきか」を問いかけるメッセージがこめられた二人のやりとりに思えた。