笑二の90分!、そして短編六景 立川笑二「文七元結」「すきなひと」

「笑二の90分!~立川笑二蔵出し勉強会」に行きました。「黄金餅」と「文七元結」の二席。

「文七元結」。江戸っ子をキーワードにしているところ、そしてお久には長吉という兄がいたが流行り病で亡くなったという設定を入れて、笑二さん独自の噺を拵えている。

長兵衛が左官の仕事もせずに博奕ばかりして身を持ち崩したきっかけは、息子の長吉の死だった。跡取りにしようと育ててきたのに、その落胆はさぞ大きかったのだろう。

お久が佐野槌にいると知らされ、長兵衛が訪ねると女将はこう言う。「長吉に申し訳ないと思わないのか。それだけの腕を持っていながら、なぜ博奕なんかするんだ。足を洗って一から仕事をしようと思わないのか」。そして、博奕をやめる約束をさせて、50両を貸す。ただし、お久は形(かた)に預かる。見世に出したりはしない。身の回りの世話をさせ、女一通りのことを仕込んであげる。二年、待ってあげよう。再来年の大晦日までに返しておくれ。それが守れなかったら、この娘を見世に出すよ。「辛抱するのはお久じゃない。お前さんだよ」。

長兵衛は佐野槌を辞して、振り返る。お久、すまねえな、辛抱してくれ。長吉、見ていたか。お父っつぁん、情けなかったな。江戸っ子がこの有り様だ。お久は本当の江戸っ子だ。俺に生きるきっかけを作ってくれた。必ず迎えに来て、江戸っ子になれるよう、見守ってくれ。

吾妻橋。50両を盗られたと思い、身投げしようとする文七を長兵衛が説得する。死んで詫びる?お前が死んで、50両が出てくるのか?お前が死んで、50両はなくなって、残された者はどれだけ大変か。お前だけ楽になろうとするな。不始末をちゃんと片付けろ。店へ戻って、馬鹿だと言われても、働いて、働いて、ちょっとずつ返していけばいい。それとも、お前の店の旦那は血も涙もない鬼みたいな男か?

文七は否定する。うちの旦那は江戸っ子です。だからこそ、死ななきゃいけない。二親を早くに亡くし、親類に見放され、身寄り頼りのない乞食同様の私を拾ってくれた。読み書き算盤を教えてくれた。その恩返しをしようと、一生懸命に働いて、私がしくじりをしても、旦那が頭を下げてくれる。そういう旦那です。50両の掛取りも番頭が「まだ早い」というのを旦那が押し切って任せてくれた。私が生きていたら、旦那の顔に泥を塗ることになる。だから、死ぬんです。旦那は許してくれる。だからこそ、つらい。だから死ぬんです。

長兵衛が娘のお久が酒と博奕で滅茶苦茶になった暮らしをやり直すきっかけを作ってくれたと話し、これが本当の江戸っ子だと言う。すると、文七は親のために子が身を売るのは当たり前だ、何の繋がりもない私を育ててくれた旦那の方が江戸っ子だと返す。僕に言わせれば、どちらも江戸っ子である。

そして、長兵衛も江戸っ子だ。「50両あれば、お前は死なずに済むのか」と訊き、「歳はいくつだ?」と問うと、「二十歳です」。「よっぽど、お前は運がいいな。死ぬなよ!」と言って、長兵衛は懐の50両の入った財布をポン!と文七に渡す。「これはいけません…お名前だけでも」と訊くが、長兵衛は「江戸っ子だよ!」と言って走り去ってしまう…。江戸っ子の心意気が見事な高座だった。

「短編六景」に行きました。立川笑二さんが「つる」「権兵衛狸」「すきなひと」、鈴々舎美馬さんが「平林」「磯の鮑」「金明竹」だった。

笑二さんの「すきなひと」は秀作だ。主人公の男がシマブクロアヤカに究極のストーカーをしている。「嫌われたくない」から、ばれないようにストーカーをする。なるほど、理屈だ。アヤカは独り暮らしのつもりだが、実は主人公が密かに勝手に一緒に住んでいる状態を作っている。だから、酔っ払って寝たときの顔しか画像を持っていない。寝るのは風呂場。GPSを仕込むのは「嗜み」というのも面白い。

さらにこの噺の面白いのはストーカーの多重構造だ。主人公はアヤカを8年間ストーカーしているうちに、アヤカが主人公の同級生のフユキをストーカーしていることに気づく。アヤカがフユキの真向かいのマンションに住んでいるのは偶然ではない。自宅テレビにカメラを仕込まれていることを教えられて驚くフユキだが、好きな人の好きな人のことは完全に把握していると言う主人公の言い分は尤もだ。

そして、ストーカーには2つのタイプがあるという。主人公は「好きな人には幸せになってほしいと願う」タイプ。だから、フユキにアヤカと結婚してほしいと言う。アヤカは「標的を独り占めしたい」タイプ。フユキがこの2年、付き合ったクロキリサとヤマダヒトミが行方不明になった理由は…。だから、フユキが彼女にしようとしているサトウユカリとは別れろと主人公は助言するのだ。

笑二さんの創作力に感服するばかりだ。