NHK新人落語大賞2026 笑福亭笑利「最近の若い奴は」

NHK総合でNHK新人落語大賞2026決勝を観ました。
笑福亭笑利さんが三年連続四回目の決勝進出で大賞に輝いた。涙の優勝だった。審査員を代表して柳家権太楼師匠がトロフィーを渡し、「一年間、よく我慢したね」と声を掛けると、笑利さんの目から涙がこぼれた。この栄冠を目指して、4年間禁酒していたそうだ。去年、春風亭一花さんと同点となり、決戦投票の結果、惜しくも敗れた。その悔しさをバネにしての大賞受賞である。
今年から審査員が全員、落語家になった。柳家権太楼、桂文珍、露の都、笑福亭鶴光、立川志らく、林家彦いち、三遊亭萬橘の7人(敬称略)。審査の方法も出場者全員を採点して総合点で競う従来の方式をやめて、審査員それぞれが優勝だと思う一人を選んで、多数決で競うという判りやすい選出方法に変更になった。
結果は笑利さんが4人、春風亭朝枝さんが3人と分かれ、笑利さんに軍配があがった。ちなみに笑利さんを推挙したのは文珍、志らく、彦いち、萬橘。朝枝さんを有利としたのは権太楼、都、鶴光。どちらが優勝してもおかしくない、僅差であったと思う。
笑利さんの「最近の若い奴は」。このフレーズは5000年前の古代エジプトの時代からあったという振りで、江戸時代の居酒屋で戦国時代を知っている先輩忍者が後輩忍者を説教するというシチュエーション落語。「戦国時代の武将はピリピリしていた」「お前はナマの信長を見たことないやろ」「俺の首の下に信長に槍で突かれた跡がある」と自慢し、「お前らは緊張感がない」「ぬるい」と批判する。しかも、同じ話を何度も繰り返す。「最近の若い奴は」は昔から言われてきた定番フレーズで新鮮味はないが、それを戦国、江戸の忍者たちの世界に置き換えたところがユニークで面白い。ギャグを沢山盛り込むのではなく、先輩忍者が繰り返す定番フレーズの滑稽の一点に絞ったのが勝因だろう。
朝枝さんの「加賀の千代」は完璧だった。ぼんやりしている甚兵衛さん、しっかり者の女房、そして甚兵衛を溺愛する隠居、この三人の演じ分けが見事で、口跡も鮮やかである。甚兵衛さんが隠居を訪ねたときの、隠居の「入っておいで!膝にお乗り」と嬉しそうにするところは秀逸だ。義理を欠かないためだけの不味い饅頭の件や、8円5、60銭を借りるために「20円貸してください」と女房から授かった知恵のからくりを甚兵衛さんが正直にペラペラ楽屋話してしまう、この噺の肝をきっちり表現できている。権太楼師匠も「巧かった」、文珍師匠も「上手」と褒めた。唯一敗因を挙げるなら、コンテストでは創作が有利に働くことぐらいだろうか。寄席で定番の噺だけに、何箇所か朝枝さん独自の工夫が入ると良かったのかもしれない。
昔昔亭昇さんの「やかん」は本人が目指していると言っているように、「明るくて可愛い」。魚根問のところで、「タイで盗難アジア、バンコク共通」といったギャグは新鮮に感じた。川中島合戦の講釈のところも、リズミカルで口調が良くて気持ちが良い。志らく師匠は「リズムに頼りすぎ」と講評していたが、あれはあれで良いように思う。難を言えば、冒頭の浅草観音に行ってきたと八五郎が報告するところで、知ったかぶりが茶々を入れて、「愚者」と呟く件で二人の関係性(本当は仲が良い)がもっと浮かび上がれば良いのではないか。
月亭遊真さんの「胡椒の悔やみ」。鶴光師匠が指摘したようにマクラが長すぎた。自分の一門の先輩が皆下戸で、飲み会は早く終わるが、その後で喫茶店で4時間もお喋りしているなんていう話は本編にまるで関係ない。喜六の前の伊勢屋の女将の泣き叫ぶような悔やみ。それに負けるかと喜六が胡椒を大量に口に含んで言う号泣の悔やみ。それが肝の噺なのは判るが、オーバーアクションすぎる印象を受けた。権太楼師匠が「間が大事」と言っていたが、口調に緩急をつけろということだろう。
鈴々舎美馬さんの「芝浜」。放送前から、「11分で芝浜?」と興味津々だったが、アッと驚かせる工夫はなく、ダイジェストに終わったのは期待はずれだった。魚勝に対し、四十二両拾ったのは夢だと女房が言い聞かせるやりとり。途中で魚勝は「これは嘘だ」と勘付く。そこで両者の心情を何箇所か挟みこむのだが、それが実際の台詞なのか、胸の内の台詞なのか、混乱した。そこが彼女に言わせれば、「工夫」なのかもしれないが、効果的ではなかったと思う。権太楼師匠は厳しかった。「これは暮れの噺。それをもっと出さないと。雑踏が背景にある。それが本筋。その辺をよく考えなさい」。やはりコンテストで「芝浜」は無茶だと思った。
さて、今年から導入された新しい審査方式。これまでは審査員に落語評論家の先生やタレントを加えていた。評論家はともかく、片岡鶴太郎さんのような人が審査するのはいかがなものかと思っていただけに、全員を現役落語家にしたのは良かったと思う。また、従来の出場者全員を採点して総合点で決めると、どうしても甘めの点数をつけて差が出なくなってしまう。その意味でスパン!と「誰が最優秀か」を各審査員が選ぶ方式は正解のような気がする。
ただ、折角7人もの落語家に審査させているのだから、全員に全体の講評をコメントする時間を設けても良かったのではないか。各演者が高座を終えたときに二人ぐらいに感想を求めても、ほとんど褒め言葉しか出てこない。権太楼師匠だけが気を吐いていたのは良かったが。また、彦いち師匠や萬橘師匠は1回しか喋る機会がなかった。出場者5人を全て観て審査するのだから、そのときに「この人を選んだ理由」を審査員全員に喋ってもらいたいと思った。

