【プロフェッショナル】神と呼ばれる男 警視庁捜査支援分析担当・三浦達也

NHK総合で「プロフェッショナル 神と呼ばれる男 警視庁捜査支援分析担当・三浦達也」を観ました。

犯行に使われた自転車の画像を分析することで容疑者を割り出す手掛かりを作る職人魂の警部補に密着したドキュメンタリーである。都市犯罪の逃走手段に自転車が使用されることが増えた中、その役割は極めて重要だということを知らされた。そして、素晴らしいのは通常許されない警察内の撮影を異例中の異例ということで許可が下りたことだ。取材班の熱意、そして警視庁の理解に感服した。

三浦の勤務先は警視庁新橋庁舎の捜査支援分析センター、通称SSBCと呼ばれる。防犯カメラ、スマホ解析、プロファイリング…デジタル時代の専門部隊である。その中で三浦は自転車分析のエキスパートとして、都内102の警察署からの依頼を担当する。

都内で不同意わいせつ事件が起きた。手掛かりは走り去る自転車の映像。「スワン形ビビDXではない」「センターの黒い塊は電動アシストだ」「フレームの形状がS字。パナソニックではなく、ブリジストンかヤマハだ」。大手2社10車種に絞り込む。「フロントバスケットの透け感からワイヤーは細い」「チャイルドシートにヘッドレストがない」。自転車モンタージュと呼ばれる手配書を作成し、現場に送る。2週間後、駐輪場で自転車を見つけ、所有者を検挙することができた。三浦の読みはほとんど当たっていた。

都市部で頻発する自転車を用いた犯罪。殺人、強盗といった凶悪犯罪の逃走手段にも使われる。都内には760万台の自転車がある。自動車と違ってナンバープレートはない。そして、何より小さい。車体から容疑者を割り出すのは、これまで不可能とされてきた。その常識を一変したのが三浦だ。いまや自転車分析は捜査の切り札となり、全国の警察のスタンダードになっている。

同一被疑者による公然わいせつが8件連続して起きた。決まって火曜日。ドラレコ画像からクロスバイクのシングルギアと車種を特定した。邀撃と呼ばれる張り込みをするため、カーネル密度推定をする。犯行地点の密度を可視化し、次の犯行地点を予測するのだ。自転車モンタージュを送る。全体が黒のパーツだが、スタンドだけ銀色。7台の自転車部隊が動いた。翌朝、容疑者が見つかったという報告が入る。三浦のほぼ予測通りだった。

1971年、三浦は北海道に生まれた。宇宙に憧れる天文少年は「星空に近づきたい」とパイロットか航空管制官になりたかったが、夢は破れた。サラリーマン時代、偶然高校の同級生に会い、警視庁を勧められた。25歳で警察官になり、交番勤務から刑事になった。コンビニでターゲットを物色し、バイクで強奪し逃走する連続ひったくり事件に対し、張り込みをして犯人を捕まえた。分析には事件を解決に導く力がある。分析にのめりこんだ。

連続空き巣事件では、発生地点の中心に空白があり、そこが拠点と踏んで、犯人を的中した。だが、当時は現場最優先主義で、「分析」に耳を傾けてくれる人はいなかった。黙って粛々とやっていこうと思う。しかし、周囲が昇進していく中、昇進試験に落ち続け、挫折ばかりの人生だった。巡査部長になるのに5年かかった。警部補には12回目でようやく昇進した。孤立し、鬱になった。自分は社会の役に立てる人間にはなれそうにない。凹んだときは星空を見上げ、心の支えにした。ひとりじゃない、と思った。評価されなくても歩み続けた。

41歳のとき。上司が自転車に乗る男の写真を持って来て、「これ、判るか」と訊いてきた。強制わいせつ事件の容疑者だった。画像は粗く、メーカーも判らない。でも、「割って返せねば」と必死で特徴を一枚にまとめた。すると、それが捜査の突破口となり、容疑者は検挙された。

三浦は休日も駐輪場を巡り、自転車の部品を調べ尽くし、頭に叩きこんだ。次の依頼はもっと美しく答えられるようにしよう。道が少しずつ見えてきた。43歳で警視総監賞を受賞した。もう、ひとりではなかった。座右の銘がある。道なき道を進み、道をひらけ。アメリカの思想家、エマーソンの言葉だ。いつか役に立てる人間になれる。心の支えにした。

ついつい人間は何をやってもだめだと思ってしまう。でも、失敗は否定ではない。ひとつでも自分に向いていることを見つける。すべての人にチャンスが絶対にある。諦めるな。

通行人に自転車がぶつかり、暴行する事件が起きた。防犯カメラに逃走する自転車が映っている。「DXみたいなフェンダーをしているね」「YXか?」。大手メーカーの人気シリーズ。絞り込むのは困難と思える。「リアキャリアが黒っぽい。パイプキャリアであれば鮮明に映るはず」。見慣れない荷台。13年分のカタログを見直す。泥臭く、しかも美しく解いていく。「2022から始まったビビLはこのステイが結構細い」。荷台が付け替えられた可能性も否めないが、攻める勇気を選んだ。そして、「パナソニックサイクルテック ビビL」の1車種に絞った。

2週間経っても、容疑者は見つからない。被害者は恐怖で仕事にも行けないという。救いたい。手配書を作り直した。2日後、現場近くの駐輪場で3台のそれらしき自転車が見つかる。1台はビビLではなく、ビビDX。2台はビビLだったが、そのうち1台はシールが貼られている。貼られていない方の1台に絞り込む。6日後、三浦の見立ては的中した。

三浦は二度目の警視総監賞を受賞した。そして、警部補から警部に昇格した。三浦の後に道はできる。プロフェッショナルとは?という質問に、「こだわり」と三浦は答えた。兎角効率優先の現代社会において職人が評価されることを嬉しく思う。