百栄てきぃーら 春風亭百栄「死神の言い訳」、そして談春塾 立川談春「人情八百屋」

「百栄てきぃーら~春風亭百栄独演会」に行きました。「ホームランの約束」「茶金」「桑名船」「死神の言い訳」の四席。
「死神の言い訳」は「死神」を死神の立場から描いた新作。初めて聴いた。熊五郎に死神を吹き飛ばす呪文を教えてしまった死神が、他の死神仲間から怒られる。なぜ、あの野郎に教えたのか。あの野郎に義理があるのか。しかも、枕元はNGなのに、布団を半回転させて、お前自身が吹っ飛ばされた。こんな屈辱はないだろう、と。
そのヘマをした死神は生前は左官の長兵衛だった。ある日、博奕で当たりに当たり、300両儲けたので、竃に塗り込んだ。それで祝杯をあげたら、河豚にあたって死んでしまった。落語「へっつい幽霊」そのままである。それで熊五郎と300両を折半し、それを元手に熊五郎と丁半博奕をしたら、負けてしまい、300両の借金を背負いこんだ。それで「医者にしてやるから許せ」と呪文を教えたというわけだ。
ヘマをした死神は「死神の地位を著しく落とした」として、閻魔大王から暫くの間30%の減俸という懲戒処分を受ける。熊五郎を懲らしめる手立てはないか、と考えた死神は熊五郎を地下の蝋燭部屋に連れ出し、「今にも消えそうな蝋燭がお前の寿命だ。近江屋の旦那と寿命を取り替えてしまったのだ」と宣告する。
熊五郎に与えたチャンス、新しい蝋燭に火を移せば寿命が延びると言葉を掛けるが…。その「新しい蝋燭」が何と、一人鍋用の固形燃料!1000個あるという。だが、一つの燃料でもつのはほんの僅かな時間だ。それを1000回繰り返すなんて…「いっそ死んだ方が楽だ」と言って、熊五郎は火を吹いて消してしまった。
そこで、残りの999個を使って死神はお一人様用鍋を使った牛筋本舗という店を開業し、大層繁盛したという…。百栄師匠らしい展開が可笑しい高座だった。
「談春塾~立川談春独演会」に行きました。「道灌」と「人情八百屋」の二席。1時間近く、先日亡くなった、らくごカフェ主宰の青木伸広さんとの出会いからお別れまでを笑い沢山で湿っぽくなく喋り倒し、愛溢れる追悼になっていたのが良かった。
「人情八百屋」。八百屋の平助が「ここ三日何も食べていない」という母親と小さな娘と息子の三人に、商売物の茄子だけでなく、自分の弁当と売り貯めの300文を可哀想に思い、恵んでやった。だが、それが逆に仇となって母親は首を括って死に、幼い姉弟が残されてしまった。後日、家を訪ねてその事実を知った平助は「俺が余計なことをしたばっかりに…」と悔やむ。だが、それは平助が悪いんじゃない。
その母親の亭主は源兵衛といって、長患いで床に伏せていた。久しぶりに白いご飯に茄子の味噌汁で家族4人が団欒できるはずだった。ところが、小板橋喜八郎という性根の腐った大家が「店賃が溜まっている」と言って、なけなしの300文を奪った。これを悲観した母親は梁に縄をかけて首を吊って死に、父親も後を追うように舌を噛み切って死んだ。悲劇である。
近所の人たちは事情を分かっているから、皆で殴り込みに行き、小板橋の家を思い切りぶっ壊した。後から取り調べに来た役人もこの因業大家にきつくお咎めをした。そして、お金は「親切な八百屋さんが恵んでくれた」と判ると、役人は深く頭を下げ、「世の中には尊い方がいるな」と感心したと聞かされる。
平助が訪ねた鳶頭の鉄五郎が幼い子供二人を預かっているという。姉はお民、弟は源ちゃんという名前だ。きょうは初七日で鉄五郎が二人を連れて出掛けたと女房は言い、「八百屋さんに会いたいと言っていたのよ。仏様のお導きかしらね」。平助がその小板橋のところに出刃庖丁を持って差し違えに行く!と怒りを顕わにすると、鉄五郎女房は「そんなことをして、誰が喜ぶの。どんな貧乏でも育てていこうと、おかみさんは思っていた。でも、きっと楽になりたかったのね。さあ、お位牌にお線香をあげて」。この冷静さが胸を締め付ける。
お民と源ちゃんを連れて汁粉屋から帰って来た鉄五郎の台詞も良い。「俺は汁粉は食わないから、2つ頼んだんだ。そうしたら、1つを姉弟で分けて食べるからと言って、もう1つを俺にくれるんだ」。そこに子どもながらの感謝の気持ちというのがあるのだろう。そして、言う。「人は皆、死ぬんだ。それが早いか、遅いかは神様が決める」。
平助も貧乏だし、鉄五郎も貧乏だ。でも、人間の血がそこには流れている。情というものがある。鉄五郎が「兄弟分になってくれ」と平助に頼む。そして、二人預かるのは荷だから、どちらかを引き取ってくれませんかと言う。平助は二人とも自分が預かると言う。「姉弟一緒だから乗り越えられる苦労もあるんじゃないでしょうか」。心に滲みる高座だった。


