春風亭一花真打昇進披露興行「井戸の茶碗」

新宿末廣亭の春風亭一花真打昇進披露興行初日に行きました。

「たらちね」春風亭らいち/「出来心」柳亭市若/民謡 立花家あまね/「紙入れ」柳亭こみち/「割引寄席」入船亭扇治/奇術 伊藤夢葉/「マキシムド吞兵衛」五明楼玉の輔/「親子酒」柳家小さん/紙切り 林家楽一/「湯屋番」春風亭一朝/中入り/口上/漫才 笑組/「ウルトラのつる」柳家喬太郎/「ふぐ鍋」春風亭一之輔/太神楽曲芸 鏡味仙志郎・仙成/「井戸の茶碗」春風亭一花

口上の司会は喬太郎師匠。膝が悪いために釈台を前にして、開口一番「大喜利のお時間です」と笑わせる。NHK新人落語大賞を一花は「厩火事」で優勝したが、実はさん喬師匠から習ったネタだそう。私はじめ弟弟子たちは師匠さん喬が「厩火事」を持っていることを知りませんでした…。確かにさん喬師匠で「厩火事」を聴いたことないなあ。一花は古典落語だけでなく、おきゃんでぃーずの活動然り、おじさんたちのハートを掴むのがうまい、と。世界で一つだけの花をよろしくお願い致しますと締めた。

一之輔師匠。師匠一朝が女性の弟子を取るとは思わなかった。腰を抜かすほど驚いた。もしや、隠し子を愛人に押し付けられたのか?でも、顔は似ていない。背丈は似ているけど(笑)。一花を悪く言う人を聞いたことがない。芸も了見も師匠に似てきた、いや最初から似ていたのか…もしかしたら隠し子かも(笑)。こんな師匠孝行な子はいないと絶賛した。

玉の輔師匠。「去年暮れの理事会で若手のモチベーションを上げるためにも一花を抜擢真打にしたらどうかと提案したのは、私です」と言って、一之輔師匠から「それは僕ですよ!」と突っ込まれ、喬太郎師匠から「よく平気でそんな嘘をつけるなあ」と怒られる。それでも「一花の抜擢を一門の一之輔に言わせたのは申し訳なかったと私が謝りました」と言って、「それはたい平さん!」と、またもや喬太郎師匠から注意され、「玉の輔兄さんは明日から口上に並ばせません!」。玉の輔師匠らしい口上で沸かせた。

一朝師匠。気配りが出来て、一を聞いて十を知る、まるでスポンジが水を吸うように何でもすぐに吸収できる頭の良さがある。それが一之輔と違うところ(笑)。爽やかで、チャキチャキの江戸っ子で、誰からも愛されて、敵を作らない。人柄が良い。そこが一之輔と違うところ(笑)。でも、これからが勝負です。よく陰ながら応援しますと言うけれど、どんどん表立って応援してください!と願った。

一花師匠の「井戸の茶碗」。千代田卜斎未亡人と高木作左衛門の二人の武家として矜持が素晴らしい。花は桜木、人は武士というけれど、意地の張り合いではなく、曲がったことが嫌いという清廉潔白なところが気持ち良い噺だなあと思わせてくれる。それを説教臭くなく、頻繁に出てくる「おみよや、あとを閉めて」という千代田未亡人のキーフレーズで笑わせ、滑稽な味付けも交えて、最終的にほっこりさせるところに、一花師匠の巧さを感じる。

高木作左衛門の「仏像は買ったが、中の小判までは買った覚えはない。元の持ち主に返してもらいたい」という主張は至極当たり前なんだけど、自分だったらどうだろうか?果たして、私欲に駆られることはないだろうか?と考えてしまう気持ちも否定できない。

ましてや、千代田卜斎未亡人の台詞はなかなか言えるものではない。「このお金は私のものではありません。この金は先方に持って行ってください。先方に天が授けたのです。私は武士の妻です。生前、千代田が朝に晩に手を合わせていた大切な仏像を、私は武士の妻として覚悟をもって手離した。お金を受け取ると、その覚悟が無になってしまう。受け取るわけにはまいりません」。浪人になった夫の遺した財産ではとても暮らしていけず、毎日繕いものの仕事をしながら食べている。本当は喉から手が出るほど欲しいはずだ。だが、「武士の妻」という誇りを捨てていないところに美学がある。

さらに凄いのは十七歳になる娘おみよだ。母親に自分の意見を訊かれ、こう答える。「生前の父の言葉にもあります。鷹は飢えても穂を摘まず。この金を頂いて、裕福な暮らしをしたいとは思いません」。

だからこそ、井戸の茶碗の代金300両の半分を「娘を娶ってくださるなら、支度金として預かりましょう」という千代田未亡人の提案に対し、高木氏は「千代田氏の娘なら間違いあるまい。他人とは思えぬ」と言ったのだろう。実に得心のいくストーリー展開だ。

サゲも良い。おみよが「私はこれから、武士の妻として身も心も磨いてまいります」に、屑屋清兵衛が「磨くとまた小判が出る」。おみよと屑屋のやりとりにしているところに、一花師匠の創意工夫が感じられる。