夏の喬太郎つれづれ2019
都内各所で喬太郎師匠の高座をこの夏、31席聴いた(2019・07・02~08・27)
夏という定義はいつからいつまでを指すのか、わからないが、とりあえず、7月と8月ということにして、記録を掘り起こしたら、喬太郎師匠の高座は24公演、31席あった。喬太郎師匠だけを追っかけているわけではありません。色々な噺家さんを拝聴しています。ただ、喬太郎師匠の芸の幅広さは誰にもかなわないと思っていて、その虜になっていることは確か。それは二ツ目時代から、その片鱗があり、50代半ばを過ぎても、その才能が枯渇せず、ますます冴えわたるところで、注目しているのです。本格的な古典、自分流にアレンジした古典、さらにアレンジしすぎて改作と呼んでもいいのではいうような古典、さらに言うと古典の掘り起こし。新作もシュールなもの、マニアックなもの、人情噺っぽいもの、多種多様、変幻自在。さらに自作ではなく、他の演者の作品まで、さも自分が作ったかのように演じてしまう喬太郎ワールド。そりゃぁ、虜になります。
でもね、喬太郎師匠は神経が細やかで、おまけに目がいいものだから、「あぁ、またあのお客様がいる、じゃぁ、昨日と同じネタはできないや」と気を遣ってしまう。客席にお子様連れが1組いただけで、怖い噺はやめようか、迷って、「ドラえもんの話をしようか」と気を回す。さらに誰かの独演会のゲストとして出演する場合には、その主役を引き立てる役割に回る気配りをする。落語界全体のことを考えている、落語が本当に好きで、悩んだ挙句に噺家に道を選んだ小原正也がそこにいるのだ。
7月2日 アナザーサイド落語会(お江戸日本橋亭)
「二廃人」「サソリのうた」他人が作った作品(それも原作が多い)を演じて、CDに収録する目的の会。これまでにこの「アナザーサイド」シリーズは5枚出ていて、今回の録音が6枚目。江戸川乱歩や小泉八雲が多く、「源氏物語」原作も。あとは新作落語台本コンクールの優秀賞や、自分が新作落語教室で教えていたころに生徒が作った作品なども。今回の「二廃人」も江戸川乱歩原作。辺境の地で出会った二人の男たちの数奇な過去をめぐる物語。「サソリのうた」は、演劇演出家であり女優の千葉雅子が作ったもので、僕は2015年6月「きょんとちば」@紀伊國屋ホールで聴いて以来。サソリと呼ばれた女囚えをとりまく。女たちの純愛。どちらも、原作を大事にしながら、喬太郎カラーの陰の部分が滲み出ているのが凄い。
7月2日 喬太郎の道玄坂の夜(リビングルームカフェ&ダイニング)
「宴会屋以前」「午後の保健室」昭和・平成を振り返るというのがコンセプトの会だったので、昭和、それも自分が少年時代だった高度成長期のお笑いのテレビスターへのリスペクトの要素がふんだんに盛り込まれた「宴会屋以前」は素晴らしかった。それに触発されるように、ゲストの寒空はだかが、往年の人気番組「ザ・ベストテン」を再現するパフォーマンスで大いに笑わせ、楽しい夜。
7月7日 喬太郎・三三二人会(杉並公会堂)
「そば清」「仏壇叩き」古典リスペクト。そば清の蕎麦の手繰り方は独特のスピード感とリズム感があって面白い。名人長二は引き込まれます。
7月8日 寄席日和(赤坂レッドシアター)
ピリエール主催の芝居「世襲戦隊カゾクマンⅢ」の番外編で、出演者の山口良一と曽根海司と一緒に。「夢の酒」悋気をおこすお花が、独自の可愛さ!
7月9日 実験落語NEO(シブゲキ!)
「令和元年はバラ色だった」三遊亭円丈作品「82年はバラ色だった」を改作。骨は円丈師匠の発想の面白さだが、それを現代に置き換えて肉付けしていく師匠の手腕のすごさ。前回の実験落語から「残酷なまんじゅう怖い」が生まれ、その後、気に入ってあちこちで掛けたが、今回も秀作で、やはりその後、この夏に何度か拝聴することとなった。
7月11日~20日 引き出しの奥のネタ帳(鈴本演芸場)
「彫師マリリン」「もんじゃラブストーリー」「ふくろうの夜」「笑い屋キャリー」「八月下旬」「引き出しの奥のネタ帳」。この興行には、僕は6日間通った。詳細はブログに書いてあるので割愛。
7月21日 落語教育委員会(よみうりホール)
「親子酒」10日間緊張を強いられる高座が続いたので、解放されるかのようにマクラをたくさん喋って、それがまた楽しい。親子酒の女房は通常は脇役だが、喬太郎師匠の手にかかると主役のように感じるから不思議。禁酒を約束した父親と息子だが、母親は「関係ないも~ん」とマイペースで酒を飲む発想が凄い。
7月21日 落語協会音頭(仮)への道(日本橋社会教育会館)
「ニッポン居残り時代」こみちと粋歌に請われて出演した師匠だが、彼女たちが作った落語協会音頭(仮)なるものまで歌わされるが、断れなくて、嬉しそうに歌う師匠の人柄が好き。で、唄つながりと意識したのか、クレージーキャッツのヒット曲が随所に出てくる「歌う居残り佐平次」とでもいう高座。僕も巡り会うのは確か3回目で、楽しかった!「歌う井戸の茶碗」は結構有名になったが、こちらも実に傑作。植木等みたいな佐平次を演りたいと昔から言っていたけど、イイネ!
7月26日 やっぱりビックショー(なかのゼロホール)
「仏壇叩き」古典の名作を味わう。長二の職人魂が堪らない。
7月29日 きょんと石井(紀伊國屋ホール)
「ふくろうの夜」「拾い犬」去年、主演した「たいこどんどん」の演出を担当したラサール石井さんとの会。「拾い犬」は鈴本中席2日目でかけたと聞いていたが、行けなかったのでラッキー!2014年11月の「わんにゃん寄席」@横浜にぎわい座の初演以来。すっかり忘れていたが、「鴻池の犬」のように犬が主人公ではなく、犬を拾った男の子が主人公。それも単なる人情モノと思わせておいて、「任侠おせつ徳三郎」のような悪党が現れ、ハラハラするが、最後にホッとさせる名作。
7月31日 ホンキートンク独演会(鈴本演芸場)
「ふくろうの夜」最後の赤羽さんのセリフ、「お若いの、悔いのない人生をな!」といのが、解散するホンキートンクへのメッセージになっていて、心優しい師匠を垣間見た。
7月31日 シャクフシハナシ(晴れたら空に豆まいて)
「義眼」「令和元年はバラ色だった」講談の貞寿、浪曲の奈々福との会も3回目。会場が狭くて特殊な高座の設営をしているために、「義眼」の目をくり抜く仕草は上、センター、下とそれぞれのお客様に向けて、3回やったのが印象的。本当に優しい師匠だ。
8月10日 喬太郎みたか勉強会(三鷹市芸術文化センター星のホール)
昼の部「心眼」「侵略指南」都内では基本的に独演会をしない主義の師匠なので、この「勉強会」にはコアな喬太郎ファンが集まる。で、趣旨も勉強だから、妙な期待をしてしまう。「心眼」は得意ネタだが、さらに磨こうと掛けたのだと思う。だけどしっかりと師匠は見ていて、「心眼で寝ている人が半分いた」と指摘。鋭い!見ているぞ!追っかけさん!「侵略指南」は、どこかで掛けたなぁと思ったら、去年9月「ウルトラセブン落語会」で、「ノンアルコールの使者」を演じたときの導入で、「侵略指南」の基となる小咄程度のことをやっていて、今回はしっかりと膨らませて、「あくび指南」のパロディとして成立する一席に仕立てた。
夜の部「海亀の島」「偽甚五郎」マニア待望だったのは「海亀の島」だろう。一昨年の鈴本特別興行「三題噺地獄」10日間でできた噺で、名作の呼び声が高かった。僕も聴けなかったので、初めて。確か「卒業旅行」「ウミガメ」「直木賞」の三題だったと思う。ウミガメは産卵のときに泣く、という言い伝えのようなものを基に、大学生のカップルの在学時代から、その数十年後までを物語に仕立てた。いやぁ、評判通り、良かった!
8月11日 お暑いさなかに冬噺(イイノホール)
「宗悦殺し」夏だから怪談。当たり前かもしれないけど、雪の降る中、按摩の宗悦は深見新左衛門の屋敷に借金取りに行くんだね。なるほど、冬噺。最近は松之丞の講談で聴くことが多かったが、師匠の「宗悦殺し」の方が円朝作品に忠実で、後の因縁につながっていく仕込みになっている。新五郎・新吉、豊志賀・お園のそれぞれの兄弟と姉妹が深く因果で絡み合う。この先を是非、喬太郎師匠で聴きたい。
8月14・20日 さん喬・権太楼特選集(鈴本演芸場)
「同棲したい」「ふくろうの夜」15分高座でもしっかりとネタをやり、場内を温める。かつ、主役のさん喬・権太楼の存在を引き立てる、中継ぎの役割。
8月26日 射手座落語会(赤坂会館)
「頓馬の使者」山田洋次作品。この噺、最初は面白くないと思っていたけど、何回も聴いているうちに、面白くなってきた。先代小さんのために作られた噺を自分のアレンジで人物表現を工夫し、台詞をバージョンアップし、喜怒哀楽のデフォルメがついてきた。研究熱心な師匠だ。
8月27日 林家彦いち30回目の夏だから祝ってもらいます(博品館劇場)
「横隔膜万歳」何と、二ツ目時代の彦いち作品だそうだ。すごい!袖で聴いていて、「発想が彦さんらしくて面白いなぁ」と思っていた。で、今回はお祝いの会だから、「うろ覚えだけど、演ってみた」と。ものすごい記憶力、再現力、即興力。それも凄いが、何よりも同期への愛とリスペクト!
こうやって2か月を振り返ると、改めて「天才・喬太郎」と同時代に生れたことを幸せに思う。