深夜寄席スペシャル 三遊亭花金「風呂敷」柳亭信楽「寿司にぎる。」入船亭扇太「ちりとてちん」金原亭馬太郎「明烏」

「深夜寄席スペシャル」落語芸術協会ナイトに行きました。
趣旨説明 小痴楽・桃花/「手水廻し」桂宮治/「風呂敷」三遊亭花金/「湯屋番」柳亭小痴楽/「寿司にぎる。」柳亭信楽
末廣亭では毎週土曜日に夜席がはねた後、二つ目4人が勉強する深夜寄席が開かれていた。だが、コロナ禍で中断。コロナが落ち着いた後は、月1回だけ開催されるようになり、今に至っている。もっと二つ目の勉強の場を増やしたい。鈴本演芸場では今年に入って、早朝寄席が再開して毎週開かれている。だが、鈴本は出演者が落語協会に限られる。
そこで、落語協会の蝶花楼桃花師匠と落語芸術協会の柳亭小痴楽師匠がタッグを組んで旗振り役となり、深夜寄席をもっと増やせないかという模索をした。その結果、毎月第2土曜日は池袋演芸場、第4土曜日は新宿末廣亭で深夜寄席が開かれることになった。末廣亭は奇数月が芸協二つ目4人、偶数月が落協二つ目4人が出演。池袋では毎月芸協2人と落協2人が合同で出演するという。
そうした取組を周知するため、今回、8月15日芸協ナイト、22日落協ナイトと銘打って、それぞれ小痴楽師匠と桂宮治師匠、桃花師匠と春風亭一之輔師匠が特別に出演する打ち上げ花火的な深夜寄席が開催された。さらに、29日には春風亭一花卒業記念スペシャルが開かれる。落協と芸協の若手の交流という意味でも、こうした積極的な取組はどんどんやってほしいと願うばかりだ。
花金さんの「風呂敷」。宮治師匠が爆笑に次ぐ爆笑で散々客席を掻き回し、ぺんぺん草も生えていない状態であるにもかかわらず、しっかりとした確かな芸でお客様を自分の懐に包み込む技量はさすがである。きょうは帰りが遅いと言っていた亭主が予想外に早く帰ってきてしまって慌てて新吉を押し入れに隠れさせた女房の肝の太さを良く表現している。「早く帰ってきたのだから、もうお寝なさい。いいんだよ!私が言うんだから寝るんだよ!」。亭主が脅かされている構図を浮かび上がらせて、面白い。
兄貴分が風呂敷を使って町内のゴタゴタを収めてきたと言うと、亭主熊五郎は「どうやって?」と訊く。これに対し、仕方噺で教えてやろうと言って、熊五郎の頭を風呂敷で被せ、押し入れから新吉を逃がし、送り出すところ。情景が見えるようなのは、花金さんの実力だろう。
信楽さんの「寿司にぎる。」。寿司屋の大将の許で中学卒業以来、20年修業を続けてきたケンちゃんが独立して眼鏡屋を開業したというところから、まず面白い。眼鏡屋なのに、「寿司屋を引きずっちゃって」、何でも寿司に変換してしまう。サーモンピンク、イカホワイト、ノリブラック。寿司レンジャーか!
そして、大将がなぜケンちゃんに眼鏡屋を開業させたのかという理由が信楽さんの信楽さんたるところ。40年、少しでもお客さんの視力を上げたいという一心で寿司を握ってきた。魚は目に良いと言っても、寿司には限界を感じた。所詮、眼鏡には敵わない。もう、寿司の時代じゃない、眼鏡の時代だ。この唯一無二の発想のユニークさに信楽さんの無限の可能性を感じる。
「深夜寄席スペシャル」落語協会ナイトに行きました。
「表彰状」蝶花楼桃花/「ちりとてちん」入船亭扇太/「初天神」春風亭一之輔/「明烏」金原亭馬太郎
扇太さんの「ちりとてちん」。世辞の良い六さんとは対照的な知ったかぶりで嫌味な源さんの造型が良かった。灘の生一本を「どうせ水で薄めている偽物」、鯛の刺身を「腐っても鯛。刺身はマグロに限る」、鰻の蒲焼きを「養殖だろう。パサパサしているに違いない」。
食通を気取る源さんをギャフンと言わせる「台湾みやげのちりとてちん」。腐った豆腐に唐辛子を混ぜて、レッテルの取れた塩辛の空き瓶に入れて、「食べ方を教えておくれ」と言うと、負けん気の強い源さんは「懐かしいねえ」と喜び、「この鼻ツン目ピリが堪らない」と褒めたが…。口に含んで目を白黒させる悶絶が痛快な高座に仕上げていて、良かった。
馬太郎さんの「明烏」。端正な語り口で、綺麗な芸である。さすが、古今亭と思わせる高座だ。源兵衛と太助が時次郎に対し、あれは大門です、これは見返り柳ですと誤魔化さずに正直に言う。「大鳥居」とか「御神木」とは言わない。なるほど、時次郎は吉原の予備知識がないわけだから、大門も見返り柳も知らないわけで、合点がいく演出だと思った。同様に時次郎がおばさんに浦里の部屋へ連行されるときも、「女郎を買うと瘡をかく」とかも言わない。時次郎は女郎買いとはどういうものなのか知らない、純粋無垢であるという意味ではこの方が良いのかもしれない。
また、浦里と時次郎が二人っきりになったときの描写を詳細にするのも新機軸だ。花魁の目の前でシクシク泣いている時次郎を、浦里は床が延べてある部屋へ案内する。枕が二つ。時次郎は「あなたは他の部屋で寝てください。男女七歳にして席を同じゅうせず」と主張するが、浦里は構わずに布団の中に入り、腕をふるう。白粉、鬢付け、麝香(じゃこう)と色々な匂いが混ざり合って、蜜の世界へと誘う…。いやらしくない、色っぽい具体的な描写が入ると、時次郎の童貞喪失がファンタジーのようにイメージできて、面白いと思った。


