いちいち見聞録 田辺いちか「豆腐屋ジョニー」春風亭一花「井戸の茶碗」、そして笑二魔改作 立川笑二「お化け長屋・改」「大どこの犬・改」

「いちいち見聞録」に行きました。田辺いちかさんが「豆腐屋ジョニー」、春風亭一花さんが「井戸の茶碗」。開口一番は神田ようかんさんで「村越茂助 左七文字由来」、ゲストは立川吉笑師匠で「くしゃみ指南」だった。
いちかさんの「豆腐屋ジョニー」は三遊亭白鳥作品。ギャグ盛沢山の擬人化落語なので、ともすれば笑いに走ってグダグダになってしまう危険性があるが、いちかさんはストーリーと登場人物をきちんと整理整頓して、しっかりした講談に仕上げている。だが、ユーモアは決して忘れていないところがすごい。
三平ストアにおける木綿豆腐一家とチーズファミリーの「冬のあったかメニュー」の具材をめぐる抗争に巻き込まれ、風に吹かれて豆腐屋ジョニーとクリームチーズのマーガレットの恋に行方はいかに…。「私たちは同じタンパク質だが所詮、植物性と動物性」という台詞、グズグズになった豆腐とドロドロに溶けたチーズによって「チーズ豆腐フォンデュ」が生まれるという偶然、さらに両者を天秤にかけていたマロニーの没落。絵本を読み聞かせるかのように、映像が頭に浮かぶ話芸に舌を巻いた。
一花さんの「井戸の茶碗」は母と娘編。おそらく柳亭こみち師匠が改作したものがベースになっているのだろう。浪人となった千代田卜斎が流行り病で亡くなり、一人娘のおみよを女手ひとつで育てた母親が「貧乏はしていても武士の心を忘れない」という亭主の気概を捨てていないところの表現が良かった。
売り払った仏像から五十両が出てきたと屑屋清兵衛が届けにきたときの、「私が一度手放したものは受け取るわけにはいかない。その仏像は主人が生前朝に晩に拝んでいたもの。私は武士の妻として覚悟をもって手放した。その五十両は私のものではない。先方に天が授けたのです」。気丈に押し戻す凛とした女性が美しい。
清兵衛が高木作左衛門に「仏像は買ったが、中の小判は買っていない」と再度断られて戻ってきたとき。母は「先程は失礼しました。自分のことばかり考えていて、娘の気持ちを訊いていなかった」と言って、娘のおみよに考えを訊く。すると、おみよは「鷹は飢えても穂を摘まず。生前、父が申しておりました。その五十両を貰って、裕福な暮らしをしたいとは思いません」。母も高潔なら、娘も真っ直ぐな女性として描かれているところが、とても良いと思った。
「笑二魔改作」に行きました。立川笑二さんが「寄合酒・改」「お化け長屋・改」「大どこの犬・改」の三席。開口一番は立川のの一さんで「ぞろぞろ」だった。
三席ネタおろしが終わった後、笑二さんから来年秋の真打昇進に向けて発表があった。一番大きな発表は昇進後の高座名で、「立川栄笑」。ご自分で考えたそうだ。今年4月におこなった真打トライアルのチラシのキャチコピーが「機熟栄達、真打ちへ。」だったが、「機熟栄達なんて四字熟語はない。ここに栄の文字を入れた意味もそこにあった」。また、笑二さんの祖父が栄の字のつくお名前で、「栄」という字が好きだったとも。談笑師匠にとって一番弟子吉笑に続き、二番弟子が栄笑というのはおめでたい名前ではないか。
真打昇進までの自主的におこなう活動を「笑二航路」と名付け、5つの落語会を継続的に開催することも発表された。【笑二の大ネタ】これはこれまでに10回、連雀亭で開催されてきて、中断してしまったが、再開するとのこと。今のところ、9月20日、10月11日が決まっている。【短編六景】これは大ネタとは対照的に小さいネタの勉強会。毎回、二つ目をゲストに招き、三席ずつ演じる。第1回は11月2日に鈴々舎美馬さんを迎え、らくごカフェで開催。【新作紀行】新作ネタおろしの会。先輩の新作派をゲストに迎える。第1回は吉笑師匠を招き、武蔵野芸術劇場で。【怪奇商事】これまでに6回開催された怪談の会。第7回は10月18日に西荻窪の一欅庵で。第5回を座・高円寺で開き、一之輔師匠を迎えたように、第10回はスペシャルとしたいとのこと。【笑二のすゝめ】先輩真打を迎え、講評してもらう会。第1回は来年1月16日、座・高円寺にて。全5回を考えているそう。
「寄合酒・改」。インターハイ出場が決まったソフトボール部に、アサヒ先輩が祝福を兼ねて訪ねてくる。泡盛持参で、つまみは「お前たちが調達しろ」という。部員たちはオオシロ商店のおばあを騙してうまい棒を300本持って来たり、バレー部の部室に潜入して、マドンナ的存在のタナハラマイのお弁当やら水筒やらをくすねてくる…それ、変態の盗難じゃん!(笑)。最高なのはマイちゃんの靴下を持って来た奴。これが一番つまみになる!(笑)。
「お化け長屋・改」。高円寺不動産の社員タチバナは会社が入っているマンション「高円寺プラザ」の201号に勝手に住んでいた。3LDKで10万円という超目玉物件だが、この3年あまり、ホームページに載せずに情報が漏れないようにしていたのだ。オーナーのヤマウチさんからHP掲載漏れの苦情が来て、渋々載せたら、早速来客があるが…。
タチバナは怪談噺で「この優良物件になぜ需要がないのか」を説明し、追い返すという手法に出るのは「お化け長屋」そのものだ。3~4年前に20代前半のキャバクラかガールズバーで働いているような綺麗でスタイルの良い女性が住んでいた。ある夜のこと、男3人組が訪れて、夜中にドタンバタンと騒いで、夜明け前に男たちは出ていった。元々、男遊びの激しい女性で、色々な男が入れ替わり立ち替わり出入りしていたが…。親御さんから「連絡が取れない」と報せがあり、部屋の中に入ってみると、腐った魚の匂いがして、血まみれになったベッドにその女性が横たわっていた。闇バイトらしき男三人組は未だに捕まっていない…。
その後、その物件に何人もの人が入居したが、一週間も経たずに出ていってしまう。聞いてみると、夜中に寝ていると金縛りに遭い、目の前で血まみれの女が「死にたくなかった」「許せない」とブツブツ言いながら彷徨っているという…。タチバナが繰り出す怪談噺に一人目の男は怖がって逃げたが、二人目の男は怖がらず、寧ろその男性三人組が自分の手下ではないかと何度も携帯で確認を取り、挙句に「明日から兎に角、ここに来るから!」と言って帰ってしまったという意味深長な創作が秀逸だった。
「大どこの犬・改」。新宿西口の居酒屋カツマサで働くミャンマー人のミイさんが段ボールに入った捨て犬三匹を拾って来た。可哀想だから引き取り手が出るまでと一カ月飼っていた店長のところに、三匹のうちのクロを譲ってくれないかという者が現れた。
後日改めて引き取りに来た男はアルマーニのスーツでリムジンに乗ってやって来て、「気持ちです」と1億円を渡す。驚き、寧ろ怒った店長に対し、その男は「この人に頼まれた」と名刺を渡す。ユニクロのヤナイ会長だった。可愛がっていた黒犬が天寿を全うし、気落ちしている、この店の犬の話をしたら大変な喜びようだったという。
クロは渋谷大山町の2600坪の屋敷に引き取られ、何不自由なく暮らす。餌が良かったのか、体も大きくなり、喧嘩をすれば連戦連勝。関東一の大親分となり、「ユニクロの親分」と呼ばれるまでになった。ある日、渋谷のテリトリーに瘦せこけてフラフラと歩いてくる白犬が迷い込んだ。一丁目と三丁目の犬たちは「鉄砲玉」が来たと警戒し、追い出そうとする。だが、親分クロはその犬にも事情があるのだろうと聞きだす。
新宿から来ました。ここ何日、何も食べていません。元々は飼い犬でした。新宿西口のカツマサという居酒屋の生まれ。長兄はヤナイさんという人に引き取られ、次兄は車に轢かれて死にました。私はお客のお子さんにからかわれ、腕を噛んだら、店員のミイさんに自転車で遠くに連れていかれ、置き去りにされてしまった。それからは野良犬暮らし。病気もしてボロボロになりました。
親分クロが叫ぶ。「こいつは生き別れた弟だ!皆、仲間に入れておくれ」。そして、シロに優しく語りかける。「ふたりで一緒に幸せに住もう」。現代版「大どこの犬」、人情噺だ。

