七月大歌舞伎「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」「神明恵和合取組 め組の喧嘩」

七月大歌舞伎昼の部と夜の部に行きました。

昼の部 末広がり/時今也桔梗旗揚/元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿

夜の部 寿三升景清 鎌髭/神明恵和合取組 め組の喧嘩/春興鏡獅子

「御浜御殿綱豊卿」第二幕第三場の御浜御殿元の御座の間における、片岡仁左衛門演じる徳川綱豊卿と松本幸四郎演じる富森助右衛門のやりとりに見応えがあった。

綱豊は近衛関白家から浅野家再興の助力を求められており、口添えすれば再興はなるだろうが、本心では再興を将軍綱吉に願いたくない。御家再興を成就するよりも、大石内蔵助たち赤穂浪士に仇討を遂げさせ、亡君の無念を晴らさせる方が、朝廷の意にも適うと考えているのだ。それゆえ、上野介が実子の上杉綱憲を頼って米沢へ隠退しようとしていると語り、助衛門たちに仇討の心があるかを試す。

これに対し、助右衛門は浪士を束ねる大石が遊興に耽っていては浪士の一味はすでに箍(たが)の外れた桶同様だと答え、綱豊の追求をかわそうとする。ところが、綱豊は赤穂浪士の忠義を信じていると伝え、大石の放蕩は仇討の本心を隠すためだろうと詰め寄る。

ここで面白いのは、助右衛門の返しだ。大石の放蕩が本心を隠す方策ならば、綱豊が遊興に耽るのも、六代将軍の職を望んでいるから、わざと作り阿呆の真似をしているのではないかと言うのだ。

これを聞いた綱豊は当然怒りを覚える。綱豊に奉公していて、助右衛門の妹であるお喜世が堪りかね、助右衛門に打ち掛かろうとするが、綱豊はこれを止め、助右衛門に自由に話させる。すると、助右衛門は綱豊の放蕩は将軍の猜疑心を避けるための方便であろうし、大石の放蕩も同様だと考えるが、自分には本当のことは判らないと正直に述べる。

これを聞いた綱豊は浅野家再興への助力を近衛家から依頼されていることを明かし、御家再興となれば仇討はできなくなると諭す。それは暗に赤穂浪士に吉良邸討ち入りを期待していることをほのめかしているのとほぼイコールだろう。

助右衛門は御座に案内されたが、盃を傾けていた綱豊に対し、距離を保つために、ここまで敷居を越えようとせずに、盃も受け取らなかった。だが、綱豊が仇討を支持していることを間接的に知ったことで、その距離が縮まり、ついに敷居を越えて必死の眼差しで綱豊を見詰める場面はとても迫力があった。

「め組の喧嘩」三幕目の浜松町辰五郎内の場。市川團十郎演じる辰五郎に対する、中村扇雀演じる女房お仲の心境の変遷が興味深い。四ツ車大八を筆頭とする力士連中とのいざこざの仕返しをなぜしないのか、このままで済ますつもりなのか。お仲は鳶と男の面子を立てようとしない辰五郎の意気地のなさを責め、離縁を願い出る。惚れて一緒になったが、これほど不甲斐ないとは知らなかった、と愛想を尽かし、息子の又八を連れて、家を出て行こうとする。

辰五郎はお仲を呼び止め、望み通りに夫婦の縁を切ろうと離縁状を投げ渡す。だが、実は辰五郎は死を覚悟の上で、四ツ車たちに仕返しをするつもりでいた。又八に水を持ってこさせて、酔い覚ましの水だと一口飲み、又八とお仲にも飲ませたのは、「別れの水盃」のつもりだったのだ。辰五郎の覚悟を知り、自分の不心得をお仲は詫び、離縁と言ったのは辰五郎の発奮を促すためだったと明かす。二人の間に浮いた離縁状を、息子の又八が取り上げ、破り捨てるところが印象的だ。

そして、辰五郎は半纏を身に纏い、白鞘の短刀を腰に差し、お仲が切り火を切って送り出す。相撲の打ち出し太鼓の音が聞こえる中、勢いよく駆け出していく。力士と火消の双方の意地を賭けた喧嘩、第三者が見たら「犬も食わない」と思うが、それだけ自分の職業に誇りを持っているということなのだろう。実際、この喧嘩は松本幸四郎演じる焚出し喜三郎の仲裁によって預かりになるわけだが…。芝居ならではの江戸の華同士の喧嘩、賑やかさと華やかさを目で愉しんだ。