せたがや夏いちらくご 春風亭一之輔「不動坊」

「せたがや夏いちらくご」に行きました。春風亭一之輔師匠が「蝦蟇の油」と「不動坊」の二席。開口一番は春風亭与いちさんで「桃太郎」、ゲストはスタンダップコメディのナオユキ先生だった。
「不動坊」。吉兵衛が三年前に越して来たおたきさんに恋煩いして、「実はあっしのカカアで、今は不動坊に貸しているだけ」と思っていて、その不動坊が死んだから「返せ!」と大家に叫ぶ理屈がこの噺の前半の肝だと思う。だから、今晩おたきさんが来ると思うともう堪らなくて、新婚生活の妄想が愉しい。おたきさんが切り火をカチカチと切って、吉兵衛を仕事に送り出すところ、「あっ、俺は家で仕事するんだ」と気づき、帰るに帰れず町内を何周もしてしまって「バターになっちゃう!」って、ちびくろサンボか!(笑)。
銭湯の湯船に浸かってからも、「浮かれていてはいけない」と、おたきさんとのやりとりを一人芝居するところ。「私に惚れているわけじゃないんでしょう?借金のために仕方なく嫁に来たんでしょう?金が敵の世の中だと思いませんか」に、おたきさんが目に熱い涙をためて、「それでは私の心が埋まりません」。「おたき!」「お前さん!」と呼び合いながら、湯にブクブクと沈んじゃう。この独り気違いの吉兵衛さんが前半の主役だ。
後半は鍛冶屋の鉄さん、ちんどん屋の万さん、梳き返し屋の徳さんの「おたきさん大好き三人組」が起こす幽霊騒動の面白さ。なにせ、背中にそれぞれ「お」「た」「き」と彫ってあるという…。中でも万さんの頓痴漢な行動が笑いを産む。うすどろを鳴らすから太鼓を持ってきてくれと言われ、ちんどん屋の道具一式を背負って、ビラまで貼り、化粧までして、「せっかくだから」と言う可愛さよ。
さらに人魂を出すために、アルコールを買ってきてくれと頼まれ、「餡ころ」を買ってきてしまうなんて。「町内の菓子屋は不味いから、隣町に行って十勝産の本場を買って来た」という…。徳さんに「バカ!ドジ!間抜け!」と罵倒され、「バカかもしれないけど、美味い餡ころを買おうという努力は買ってほしい。似ているじゃないか。アルコールと餡ころ。はっきり言わないお前も悪い。じゃあ、紙に書いて渡せ!」。そして、「確かに俺はバカだ。じゃあ、お前はどうなんだ?屋根に昇って幽霊を出そうなんて、皆バカじゃないか!」。ご尤もだ。
徳さんに「太鼓を叩け!」と命じられた万さんはヘソを曲げる。「嫌だね!俺だけをバカだと言う奴の言うことなんか聞けるか。お前も自分がバカだと認めろ!」。徳さんも音を上げて、「俺もバカだよ。皆、バカだ」と返すと、万さんは納得して、「皆、バカだけど、皆、おたきさんが大好きなんだ!おたきさんが好きなバカ三人だ!」。そして、「夜空に響きわたれ!バカが叩く太鼓!おたきさんに届け!」と言って、思い切り太鼓を打ち鳴らすという…。後半はとっても無邪気で純粋なバカの万さんが大活躍の高座だった。

