落語わん丈 三遊亭わん丈「真景累ヶ淵 勘蔵の死~お累の自害」、そして談春塾 立川談春「三軒長屋」

「落語わん丈~三遊亭わん丈独演会」に行きました。「荒茶」「無精床」「真景累ヶ淵 勘蔵の死~お累の自害」の三席。開口一番は柳亭市悟さんで「真田小僧」だった。
「勘蔵の死~お累の自害」。新吉が殺害したお久の叔父の三蔵に気に入られ、新吉は三蔵の妹のお累と夫婦となり、三蔵の養子に入った形となる。新吉のところに手紙が届いた。親代わりになっていた叔父の勘蔵が危篤という報せで、お累が身籠っていたが、三蔵は「早く叔父さんのところに行きなさい」と新吉を江戸に送り出す。
病床の勘蔵は新吉に「渡したいものがある」と言って、小判型の真鍮の迷子札を見せる。そこには「小石川小日向服部坂 深見新左衛門次男新吉」と書いてあった。勘蔵は新左衛門が按摩の宗悦を殺し、その祟りで奥方を失い、自らも自害したこと、新吉と血を分けた兄弟である長男の新五郎は深見家が嫌になり、逃亡したこと、そして取り残された三歳の新吉の面倒を見るために門番だった勘蔵が「叔父」ということにして、育てあげたことなどを独白。「旗本の次男の新吉様を自分の甥と偽っていた」ことを詫びるが、新吉は寧ろそれを感謝した。そして、勘蔵は肩の荷が下りたかのように、安らかに亡くなった。
新吉は三蔵のいる羽生村に戻ろうと、駕籠に乗るが、いつまで経っても千住から先へ進まない。これは性質の悪い駕籠かきに引っ掛かったと思い、駕籠賃を渡し、宿を取ろうと歩き出した。すると、向こうから浅黄の着物を着た囚人風の男が近寄ってくる。「この迷子札を落としたのはあなたではありませんか?伺いたいのですが、ここに書いてある新吉さんというのはどこにいますか?」。「私です」と新吉が答えると、「私は兄の新五郎です。ある女を殺害し、牢獄に入れられ、牢破りをして出てきたのです」。新吉が今は羽生村の質屋の三蔵の養子になっていることを知ると、「その三蔵というのは、江戸の下総屋にいた三蔵ですか」と訊くので、そうだと答えると、新五郎は新吉を襲い、殺害しようとする…、だが、そこで目が覚めて、すべては新吉の夢だったことが判る。千住に宿を取った新吉は、小塚原のお仕置き場で「お園殺害により討ち首獄門、深見新五郎」と札のついた首を見つける。駕籠の中で見た夢が蘇る。
羽生村に帰ると、お累が男の子を産んだが、その子が兄の新五郎そっくりというのも何かの因縁か。新吉はお久殺しの罪滅ぼしのために、毎日高蔵寺の無縁仏を掃除することを日課にしていた。ある日、馬方の佐久蔵が美しい女性を連れて歩いている。聞けば、名主が妾に囲うことにした元深川芸者だという。その女性が「煙草屋の新吉さんでは?」と訊いてきた。「あ、紅葉屋のお静さん」。これがきっかけとなり、新吉とお静は深い仲になった。
家に帰れば、火傷でただれた顔のお累と新五郎に似た息子がいて、新吉は面白くない。自然とお静のいる妾宅の方が心安らぐようになってしまった。たまに帰ると、お累を殴る蹴る、質種を持ち出しては金に換え、佐久蔵と酒を飲み、お静と同衾するという日々。新吉はいつの間にか、悪の道を歩むようになってしまう。そして、ついに具合の悪かったお累が赤ん坊を抱いたまま、鎌で喉仏を掻っ切り、自害してしまった。その鎌はお久を殺した鎌と同じモノだったという…。この後、「聖天山」でストーリーは完結することになる。
「談春塾~立川談春独演会」に行きました。「星野屋」と「三軒長屋」の二席。
「三軒長屋」。ストーリー云々というよりも、人物造型と情景描写で魅せる噺だ。その点、談春師匠の技術は長けていて、右に出る人がいないのではないか。
鳶頭政五郎の女房の鉄火肌、いかにも「姐さん」という呼称がぴったりである。喧嘩の仲裁で二階を借りたいと言いに来た辰公が「鳶頭はいないんですか。吉原じゃないですよ。きっと品川でしょう」と言って、男嫌いで通っている花魁がなぜか政五郎だけにはグズグズになってしまうと言うが、女房はそんなことで妬いたりなど全くしない。寧ろ、それが自慢というか、さっぱりとした気っ風の良い女性である。
それで鳶頭の家の二階に集まった若い衆たちが、隣の伊勢勘の妾に興味津々となるところ、女中に向かって「背比べなら横から来い。走るより、転がれ。化け物!」と囃したり、伊勢勘の大旦那には「薬缶が空を飛ぶ」とからかったり、実に愉しい。
「そろそろ神輿をあげよう」と言う辰と、「もう一杯だけ」と長っ尻の熊との喧嘩勃発も面白く活写している。三年前の暮れの29日に「助けてくれ」と熊が辰のところに居候したときのことを持ち出し、春獅子を買って出た熊のしくじりを詳細に物語る辰。熊が刺身を投げつけると、辰は出刃庖丁を持ち出して、喧嘩の仲人が喧嘩の主になってしまう。江戸っ子の気性がよく表れていた。
鳶頭が「どぶっつぁらい」なら、剣術道場の楠木運平先生は「へっぽこ剣術師」。楠木先生が伊勢勘への仕返しに、「地雷火を仕掛けよう」とか、「この家は城郭に等しい」とか、言うことが大仰なのも愉しいが、政五郎から作戦を聞くのに、聞こえなくなった耳から貸すところも可笑しい。
鳶頭政五郎、その女房、辰ほか若い衆、伊勢勘とその女中、そして楠木運平先生…、それぞれの登場人物が個性をもって躍動している素晴らしい高座だった。


