なでしこくらぶ 神田織音「石門心学の祖 石田梅岩」、そして柳枝百貨店 春風亭柳枝「居残り佐平次」

「女流講談会なでしこくらぶ」に行きました。

「石門心学の祖 石田梅岩」神田織音/「秋田蕗」田辺一邑/「円山応挙」神田すみれ/中入り/「小田原合戦 北条氏政」宝井一凛/「人情匙加減」宝井琴鶴

織音先生の「石田梅岩」。丹波国の百姓、権右衛門・たね夫婦の間に生まれた三人兄弟の次男勘平は十一歳のときに口減らしのために奉公に出されるが、四年後の里帰りの際に家を出たときと同じ着物を着ていたことに母たねが気づく。奉公先の店は経営が傾いて、不自由な思いをしていたのだという。権右衛門が勘平を送り出す際に「旦那を真の父親と思え」と言った言葉を素直に受け取って辛抱していたのだ。権右衛門はすぐに勘平を奉公先から引き戻し、百姓仕事を手伝わせた。

勘平は畑仕事をしながら、「どうしてだろう?なぜだろう?」と世の中のことを考えて八年間を過ごした。そして、自分から「奉公に出よう」と思い立ち、京都にある呉服商の黒柳家に仕える。そのとき、二十三歳。丁稚からのやり直しであるが、一生懸命働く傍ら、空いた時間には本を読むことに費やした。年下の奉公人からは「変わった男」だと思われ、大女将も「たまには酒を飲んだり、女遊びをすればよい」と言ってくれたが、勘平は「本ほど面白いものはない。私にとっては読書が遊興なのです」と答えた。

厠ではなく、畑で用を足すのは「糞尿は肥やしになる」と考えたから。屑籠に入っていた紙切れを取り出したのは、再利用できると考えたから。モノを大事にする、使い道のあるものは活かせる道へ導く、すると誰かが喜ぶ、それが嬉しいのだと述べた。同じ着物をずっと着ているのも、着物が大事にされて、喜んでいるかもしれないという理屈である。

奉公を始めて十数年。将軍吉宗の時代は不景気だった。勘平はあちこちに講義を聞きに行くようになった。人の心とは何か。商人としてどう立ち振る舞えばいいのか。果実の種を割れば、そこに答えがあると言われた。だが、よくわからない。相手に伝わらなければ、独りよがりになってしまう。勘平が悩んでいたときに、師と仰ぐべき人と出会う。小栗了雲。人はどう生きるべきか、目の前が開ける思いがした。

商人は儲けることが仕事である。だが、利益ばかりを考え、義を知らないと陰口を叩く人がいる。善良な商人が悪徳と思われてしまうのは、学問がないからだ。そう考えた勘平は、四十五歳にして石田梅岩を名乗り、聴講料無料で、男女の別なく、学問を教えることにした。士農工商という序列の一番下に置かれた商人は損な役回りだ。だが、士農工商は身分の高さを言うものではなく、役割を区別しているに過ぎないと説いた。

モノを余らせている人と欲している人の間に立ち、商人は客の役に立つ。それで利益を得ることは悪いことではない。お客様を第一に考え、決して利益を第一にしない。また、女性の聴講も大歓迎した。女に学問など要らないという考え方を否定した。何でも世の為、人の為になることを考える。男女、貧富、身分の別のない、広い目を持つことが肝要だ、と。

月3回開く勉強会、月並みの会では門弟たちと自由に議論した。学問は知識を増やすことだが、ただ増やせばよいのではない。難題に処するなど、知識を生かしてこそ、学問を身に付ける意味がある。これらを纏めた「都鄙問答」は多くの人に読まれた。「人はどう生きるべきか」という心学の礎を築いた石田梅岩の功績に触れることができた。

「柳枝百貨店~春風亭柳枝独演会」に行きました。「寝床」と「居残り佐平次」の二席。開口一番は柳亭すわ郎さんで「真田小僧」だった。

「居残り佐平次」、ネタおろし。無銭飲食がばれるまで、若い衆をできるだけ煙に巻いて、引っ張るだけ引っ張る佐平次の口八丁手八丁が愉快である。「替り番になりますので」とか、「ここまでのお勘定を…」という若い衆の台詞を遮るように、口からデマカセを言う術とでも言おうか。

「遊びを突き詰めたいんだ。嫌になるまで遊びを尽くす。それからお勘定を払いたいんだ」。「お勘定なんて言葉は感情を害するよ。遊びという極楽浄土にいるんだから。その言葉ひとつで引き戻されちゃう」。「昨夜の四人がすぐに裏を返しに来るよ。そして、莫大な祝儀を切る。それを俺が繋いでいるんだ。そこに気づかないのは野暮天だよ」…。

そして、もうこれ以上は騙しきれないと判断すると、肚を据えてハッキリと「ない!お金がない!無一文なの!」。昨夜の四人は新橋の軍鶏屋で知り合った極新しい友達、親類は蝦夷の松前で鮭を獲っている叔父さんがいるだけ、ここが年貢の納めどき!布団部屋に連行されることは、最初から計算済みの身支度で何の反省の色も見せずに堂々としている佐平次の図々しさは見上げたものである。

居残りとして二階を稼ぎまわる第二幕が佐平次の本領発揮だ。霞花魁のいい人、勝太郎の懐に入るテクニックの鮮やかなこと。男嫌いで通っている霞さんが唯一「うちかっつぁん」と呼んでとぼついているという。そんなに霞さんをとろけさせる男はどんな人なのか、一度お会いしたかった。男を惑わす男でなけりゃ、粋な女は惚れやせぬ。おばさんに「客は他にもいるんだよ」と叱られたときの、霞さん。燗冷ましをキュッと呷って、三味線を持ってつま弾いた。芝や神田は粗末にならぬ、いずれ味噌漉し据えどころ~。

廓主人に呼び出されても、物怖じしない佐平次が佐平次たる所以。十手風が舞い込む兇状持ちとうそぶいて、「匿ってくれませんか」と言うのも計算あっての台詞。高飛び資金30両を貰って、旦那の結城の着物や献上の帯までせしめて、「骨がシャリになっても、この御恩は忘れません」と心にもないことをシャーシャーいう図々しさ。「居残り」を商売にするだけのことはある。