浪曲定席木馬亭 富士綾那「日本橋情話」真山隼人「俵星玄蕃」鳳舞衣子「は組小町」天中軒雲月「中山安兵衛婿入り」

浪曲定席木馬亭四日目に行きました。
「遠山金四郎 浅草恋女房」玉川わ太・玉川みね子/「甚五郎 龍を見た」東家三可子・玉川鈴/「日本橋情話」富士綾那・伊丹けい子/「俵星玄蕃」真山隼人・沢村さくら/中入り/「芋大明神~せいだイモのはなしより」木村勝千代・玉川鈴/「水戸黄門記 出世の高松」一龍斎貞司/「祐天吉松 飛鳥山親子対面の場」玉川福助・玉川みね子/「徳川家康 人質から成長まで」天中軒雲月・沢村さくら
綾那さんの「日本橋情話」が良かった。日本橋の鰹節問屋の吉田屋夫婦は四十を過ぎてから子宝に恵まれ、娘お菊が十八歳のときに、よく働く奉公人の喜助を婿に貰いたいと考えた。お菊も喜助のことを密かに思っており、渡りに船。だが、喜助は「ありがたいこと」と言いながらも渋った。だがその理由は…何と喜助は大坂に「女房」がいるというのだ。
貧乏な家に生まれた喜助は十歳のときに呉服問屋に奉公に出された。旦那夫婦から娘おたえの婿になってほしいと言われ承諾。婚礼の晩を迎えたが、おたえは「お前のような丁稚あがりを夫とは思えない」と嫌われ、昼は大恩ある旦那夫婦のために夫婦のように装い、夜は別々の布団に寝る、まさに仮面夫婦を貫いた。やがて旦那夫婦は亡くなり、おたえは道楽に走り、店は潰れてしまった。喜助は再建資金千両を拵えるために江戸に奉公に出て、千両貯まったらそれをおたえに渡し、「綺麗に別れよう」と決意。三年経った今、800両貯まったという。
喜助は吉田屋夫婦とお菊に「2年半待ってください」と言って店を去った。その2年半後、喜助が吉田屋に戻ると、何と「お菊は1年前に死んだ」と言う。吉田屋主人は申し訳なさそうに、説明した。弟が「うちの次男坊の庄三郎を婿に取ってくれ」と言い出した。「喜助を2年半待つなんて、馬鹿正直だ。便りもよこさないのだろう。もう、お菊のことは忘れているに決まっている」。お菊が「私は命に懸けても裏切れない。必ず喜助は戻って来る」と拒むのを、無理やり婚礼を挙げさせてしまった。お菊は失踪し、身投げしたことがわかった。だから、いなくなった日を命日に供養しているのだと言う。
男同士の堅い約束を破ってしまった。ぶつなり、蹴るなりしてくれ。その代わりに頼みがある。私たちと親子の縁を結んで、店を継いでおくれ。嫁は私が探す。身代はすべて譲る。これがお菊へのせめてもの申し訳だ。
これを聞いた喜助はお菊の位牌に向かって「只今、戻りました、お嬢様」と言って、歯を食いしばって男泣きした。そして、「親子の縁は結びますが、店と財産はお断りします。いただきたいのは、この位牌」。喜助は浅草に新たに菓子屋を開き、商売に精を出した。
ある日、店に尼さんが訪ねてきた。「丁度いい。きょうはお菊の命日。仏間で供養してください」と喜助が言うと、何とその尼さんはお菊だった!「あなた!」「お菊さん!生きていたんですね!」。お菊が花嫁衣裳で身投げしようとするところを僧侶に止められ、「死んだら恋しい人に会えない。育ててくれた両親に申し訳ない」と諭され、お菊は出家し、三年間修行していたのだった。これを仏の引き合わせ。二人は抱き合い、晴れて夫婦になり、二人で菓子屋を切り盛りすると、評判となり、大繁盛したという…。運命の巡り合わせの素晴らしさを思った。
隼人さんの「俵星玄蕃」。夜鳴き蕎麦屋に身をやつした杉野十兵衛次は槍術指南番の俵星に「お前さんは武士だろう」と見破られてしまう。「播州脇坂藩士」と誤魔化した杉野だったが、しばらくぶりに俵星に会うとやつれている。
赤穂浪士のせいだ。吉良様の家来である清水一学が「300石で上杉家で召し抱えたい」と言って来た。吉良屋敷の番人のつもりだろう。玄蕃は貧乏ゆえに吉良に身を売って、赤穂を傷つける血も涙もない奴だと言われたくない。拙者の武士道が立たぬ。忠義の二字に相済まぬ。
この俵星の了見に杉野は深く感じ入る。「それでこそ、真の武士。その言葉、杉野に預からせてください」。そして、杉野は大石内蔵助にこのことを報せ、「それほどの名人なら、我が藩の槍術指南番として500石で迎える。200両の支度金も用意する」。俵星に「脇坂藩のこと」として、このことを伝えると、俵星は「承知致しました」。
やがて、討ち入り。銀世界の本所松坂町に赤穂浪士が集結し、山鹿流の陣太鼓が鳴る。俵星が居ても立っても居られず、駆け付けると、槍を小脇に抱えた杉野十兵衛次が現れた。そのとき、すべてを悟った俵星が言った言葉「命を惜しむより、名を惜しめ」が胸に響いた。
浪曲定席木馬亭千秋楽に行きました。
「少年ねずみ小僧」東家一陽・東家美/「男の花道」東家三可子・馬越ノリ子/「神田祭」港家小そめ・沢村博喜/「新英国密航 サツマスチューデンツ後編」東家一太郎・東家美/中入り/「幡随院長兵衛 鈴ヶ森」東家孝太郎・沢村まみ/「高野長英 水沢村涙の別れ」宝井一凛/「は組小町」鳳舞衣子・沢村道世/「中山安兵衛婿入り」天中軒雲月・沢村博喜
舞衣子先生の「は組小町」。町火消の組同士の意地の張り合い、そして恋のもつれ。実際にはこのようなことはなかっただろうが、江戸の庶民の花形だった火消を題材にして、よく出来ている話だ。は組小町と呼ばれたお初の女の執念が印象的だ。
は組頭取の郷右衛門のところへ、一人娘お初にい組纏持ちの三五郎が岡惚れしているので嫁にもらえないかとい組頭取の松兵衛が話を持って来た。だが、お初はは組纏持ちの源次と夫婦約束をしていると言って断った。
火事が起きると纏持ちは競って火元の家の屋根に上り、鎮火の指揮を取る。一番に昇った者は名誉だが、二番、三番に昇った纏持ちが下に降りない限り、降りることは出来ないという暗黙の了解がある。ある火事で源次が一番に昇ったが、二番に昇った三五郎が降りないために、源次は全身大火傷を負って戸板で運ばれ、お初の看病の甲斐もなく死んだ。これは三五郎の恋の遺恨の腹いせと捉えたお初はいつか仇を討ってやると誓う。所帯を持って三か月のことだった。
四十九日の夜。源次に代わっては組の纏持ちになった新三が火事を報せに来た。そのとき、お初は新三に「父が大事な手紙を芝の仙台屋敷に届けてほしいと言っている」と嘘をつき、お初自身が火事装束に身を包み、源次の位牌を懐に入れて、火事場へと出向いた。一番に屋根に昇っていたい組の三五郎に続いて、お初が二番に昇った。火の勢いが強いので三五郎が降りたいと言うと、お初は「やかましい。このくらいの熱さで音を上げるのか。男だろう。この顔、この声、覚えがあるだろう。お前が炙り殺した男の女房だよ。源さんの熱さが判ったかい?」。そう言って、ニッコリ笑って仁王立ちするお初。
やがて、屋根は崩れ落ち、三五郎は死んだ。そして、お初も死んだ。「源さん、仇は取ったよ」と言いながら。二十歳の新妻が見事に夫の仇を討ったのだ。お初は源次とともに蓮の台(うてな)の半座を分かっていることだろう。江戸っ子の心意気の究極を見た思いがした。
雲月先生の「安兵衛婿入り」。堀部弥兵衛金丸の妻が娘を連れて、安兵衛の家を訪ね、「娘の婿に」と懇願したときの覚悟の強さ。懐刀を持って、「娘、覚悟は良いか…殺すも生かすも中山殿の胸ひとつ」と言われた安兵衛は圧倒されてしまう。だから、一旦は承知して婿入りしておいて、飲んだくれを続ければ、そのうち愛想尽かしするだろうという作戦に出たのだろう。
七合入りの盃を息もつかずに飲み干して、もう一献と求める。そして、寝間に行って高いびき。「安兵衛殿からはお情けの言葉はあったか」という母の問いに、娘は「お情けどころか、背中の番して風邪ひいた」。それでも、舅の金丸は「黙っていなさい。良い婿じゃ、良い婿じゃ」の一点張り。
一か月が経っても離縁に話がでないので、安兵衛は「まだ飲み足りないか」と思い、飲んだくれを続けると…。ついに、金丸の堪忍袋の緒が切れた。槍を抱えて、寝ている安兵衛に向かって突こうとすると、安兵衛は槍の先端を掴んでニッコリ笑う。「誰かと思えば舅殿。もう少し飲ませてから殺してくれ」と肘を枕に高いびき。
これを見た金丸は情に訴えた。両手をついて「たった一人の娘。嫌でもあろうが、婿になってくだされ」。これには流石の安兵衛も打っ棄っておけない。「知らなんだ。それほどまでに思っていてくれたとは…」。そして、「ご安心あれ」と中山の姓を捨てる決意を固める。堀部弥兵衛金丸の粘り勝ち。これによって四十七士の中でも一、二を争う猛者として安兵衛は活躍するのだから、金丸の功績は大きいなあと思う。

