四月大歌舞伎「浮かれ心中」

四月大歌舞伎夜の部に行きました。「本朝廿四孝」「連獅子」「浮かれ心中」の三演目。
「浮かれ心中」は井上ひさし「手鎖心中」が原作で、平成9年に歌舞伎化され、十八代中村勘三郎(当時勘九郎)が主演している。息子の当代勘九郎が演じるのは今回が三度目で、歌舞伎座では初めてだ。歌舞伎の精神である「洒落のめす」ことがしっかりと貫かれ、政治や社会といった世の中を鋭く諷刺していて、痛快。僕はこの手の芝居が好みである。
豪商伊勢屋の若旦那、栄次郎は子どもの頃から人を笑わせるのが大好きで、絵草紙の戯作者として売れたいと考え、そのためだったら何でもやるという精神が面白い。辰巳山人と名乗って、自費出版した「百々謎化物名鑑(ももなぞばけものめいかん)」を世に知らしめるために、親に勘当してもらい、絵草紙屋の真間屋に婿入りする。父親とは一年後に離婚するという奇妙な約束を取り付けてというのが可笑しい。
また、読売りたちにその本を吉原でひやかし客に配らせれば、さぞ話題を集めるだろうという算段もする。また、おすずと夫婦になったばかりの栄次郎が吉原の帚木花魁に夢中になり、これが発覚して派手な夫婦喧嘩をはじめたら、それもまた話題作りに一役買うのではないかと茶番の筋書きを書いて、おすず承知の上で実行するというのも面白い。
でも、一番笑ったのは町奉行所の佐野準之助への説得だ。幕府は老中が松平定信に代わり、絵草紙の内容の取り締まりが厳しくなった。これを受けて、戯作者の山東京伝や版元の蔦屋重三郎が取り調べを受けているという。そこで栄次郎は名を上げるために、松平定信の政治を諷刺した絵草紙を出版し、牢に入れてもらおうというのだ。何とか入牢させてくれと佐野に頼み、絵草紙を読んでもらう。すると、佐野は「もっと徹底的に諷刺しなければ取り締まりの対象にならない」と馬鹿正直に助言するのだ。栄次郎は益々過激な絵草紙執筆に勤しむ。この皮肉がとても良い。
果たして、栄次郎は望んでいた通り、幕府の処罰の対象になり、三日間の手鎖の刑に処せられた。栄次郎は賑やかに行列を作って刑を祝いながら、おすずのいる真間屋へ帰ってくるという…この様子も大変可笑しい。
そして、辰山人栄次郎の一世一代の大茶番。政府を痛烈に諷刺した「吝嗇吝嗇山後日哀譚(けちけちやまごじつのあいだん)」をベストセラーにするために、帚木花魁と心中を図るのだ。あくまでも見せかけの心中だが、花見客で賑わう向島で、多くの野次馬を集め、「手鎖のお咎めを苦に世をはかなんで」という触れ込みだったのだが…。
帚木花魁は助かったが、栄次郎は本当に死んでしまった。だが、その話題性によって栄次郎の死後、「吝嗇吝嗇山後日哀譚」は大ベストセラーになったという…。天国の栄次郎も自分の名前が売れて悔いはないだろう。ちょっとセンチメンタルなエンディングではあるが、それを払拭するように、勘九郎演じる栄次郎が鼠に乗って宙乗りならぬ「ちゅう乗り」での幕切れで大いに盛り上がった。

