貞鏡のネタおろしor虫干しの会 一龍斎貞鏡「観世肉付きの面」、そして落語わん丈 三遊亭わん丈「真景累ヶ淵 お累の婚礼」

「貞鏡のネタおろしor虫干しの会~一龍斎貞鏡独演会」に行きました。「小泉八雲伝」と「観世肉付きの面」の二席。いずれもネタおろし。前講は神田山兎さんで「猿飛佐助生い立ち」だった。
「観世肉付きの面」。京橋三十間堀の能面打ちの職人、源五郎の名人気質をしっかりと受け継いだ息子の源之助の強い精神力に感激した。三年前に観世太夫から注文されていた女性の嫉妬を表す泥眼の面が出来上がり、源五郎は暮れの二十八日に源之助に届けさせる。ところが、源之助は泣きながら帰って来た。手には真っ二つに割れた面。観世太夫いわく「暮れが押し迫り、金が欲しくて彫ったのだろう。こんな卑しい面で将軍様の前で舞うことができるか」と怒り、柱に投げつけたのだという。
「おっしゃる通りだ。金が欲しくて彫った」。そう言って、寝床に就いたはずの源五郎は自分の使う鑿(のみ)で喉元を突いて自害した。十四歳の源之助は思う。父親は観世様を恨んで死んだのではない。拙いものを彫ったことを恥じて死んだのだ。オイラがいつか立派な面を彫る。固く決意したのが良い。
母おかつと共に根岸に移り住んだ源之助は頼まれてもいないのに、父の遺品である鑿でコツコツと大黒様や恵比寿様、観音様を彫った。これを見た商人の岩佐屋は「これを売らせてくれ」と願い出る。見立て通り、源之助の彫物は飛ぶように売れた。
10年後には源之助は弟子を取るまでになり、店を持ち、大層繁盛した。いつも「亡き父の恥辱を雪ぎたい」と思っていた。四谷太宗寺の住職から頼まれた閻魔大王は「威光がある」と世間の噂になる。見る者の心根を映すという評判だ。さらに注文が殺到したが、源之助は彫物を断り、能楽師のための面打ち一本に仕事を絞ることにした。
そして、10年。観世太夫が「葵の上」を舞うための泥眼の面を彫ってほしいと、源之助に白羽の矢を立てた。とうとう、このときが来たのだ。源之助は断食をして打ち込んだ。母のおかつも水垢離をして大願成就を祈った。作業机には燈明を立て、傍に父の彫った因縁の面を置いた。「父が守ってくれる」。その一念だった。
出来上がり、観世太夫に届ける。「見事じゃ。20年前の源五郎に劣らぬ出来だ。観世の家の宝ができた」と感心した。太夫はその場で「舞いたい」と言って、面を付ける。すると、面は顔にべっとりと貼り付いて、離れない。一体、どういうことか。源之助は言う。「源五郎は私の父です。観世様が酩酊して面を貧相だと柱に投げつけた。そのことで、父は自害しました。今、父は草葉の陰でどんなに喜んでいることか。父は観世様を恨んではいません。良いものを打ちたかったという一念だったのだと思います」。
観世太夫は悔やむ。「確かにあのとき、私は酒に酔っていた。この面に卑しきものは一点もない。心より詫びを致す」。そして、源之助を二代目源五郎に推挙し、「お許しくだされ。何卒、成仏してくだされ」。源之助が「お父さま!お許しくだされましたぞ!」と叫ぶと、太夫の顔に貼り付いていた面は剥がれた。面には真っ赤な血が付いていたという…。以来、この面を「肉付きの面」と呼び、観世の家の家宝になった。親子二代の美しい名人伝だった。
「落語わん丈~三遊亭わん丈独演会」に行きました。「茶金」「子ほめ」「真景累ヶ淵 お累の婚礼」の三席。開口一番は柳家しろ八さんで「旅行日記」だった。
「お累の婚礼」。お久を殺害してしまった新吉は、その発見者である土手の甚蔵と兄弟盃を交わし、奇妙な二人暮らしがはじまった。新吉は村人が噂しているのを耳にする。質屋の三蔵の姪っ子が殺され、弔いがおこなわれた、きょうは初七日だ。三蔵の姪っ子とは、お久のこと。新吉は墓参りをしたいと、村人から菩提寺が法蔵寺だと聞き、訪ねる。
ある墓の前で二人の女が線香をあげている。三蔵の妹のお累と女中だ。新吉はこれがお久の墓と判り、「可哀想な死に方をした娘さんを供養したい」と墓に手を合わせる。女中がどこの人かと訊ねるので、「江戸から出てきて、今は土手下で甚蔵と一緒に暮らしている」と言うと、「甚蔵は博奕ばかりして、評判がよくない。うちに来ればいい」と言う。と同時に、色白で男前の新吉を見て、お累はポッと顔を赤らめた。一目惚れしてしまったのだ。
甚蔵が三蔵の店を訪ねる。「商売をはじめたい。この鎌を十両で引き取ってほしい」と言う。こんな鎌に十両も払えるかと三蔵が言うと、甚蔵は「この鎌の錆びに価値があるんだ」。柄に「丸に三」の印があるのは、三蔵の店の鎌という証拠、この鎌は姪っ子のお久が殺害された現場に落ちていた、このことが世間に知れたら「三蔵さんの店の者が疑われやしないか」。いわば、強請である。仕方なく、三蔵は十両を渡した。
お累は囲炉裏に躓き、薬缶の湯を浴びて、顔に火傷を負ってしまった。それと新吉への恋煩いもあって、三蔵はお累の体調が心配になる。いっそ、新吉を婿に取って、お累と夫婦にしようと考えた。名主の佐久右衛門に仲に入ってもらい、甚蔵を訪ねる。「お前のところにいる江戸から来た色白の男」にお累さんが惚れた。金を払ってもいいから、婿に迎えたい。甚蔵は30両で新吉の婿入りを承諾した。
婚礼の晩。隣の部屋に籠っているお累に声を掛けた新吉は、行燈の前で背中を向けているお累の傍に寄り添う。お累は「こんな顔ですから…」と恥ずかしそうにするのを見て、新吉はまた豊志賀の幽霊が乗り移ったのかと驚くが、それは火傷をしたのだと聞いて安堵する。
そして、新吉とお累はやがて情を交わし、子を身籠った…。今回はここで切って、次回の「勘蔵の死」へつなげた。

