集まれ!信楽村 柳亭信楽「アキラとスグル」、そして浅草演芸ホール四月中席 柳家わさび「雷お兄さん」

「集まれ!信楽村~柳亭信楽勉強会」に行きました。「饅頭怖い」「アキラとスグル」「エレベーター」「権助魚」の四席。
「アキラとスグル」。イトウスグルという善良な男に、“アキラ”という乱暴な男が棲みつき、つまりは二重人格という設定が面白い。スグルは噺家に入門志願していて、入門試験のために師匠の家に向かう途中、財布を拾うがアキラが「貰っちゃえよ!」とけしかけるのを振り切って、スグルは交番に届け出る。また、途中で女性が不良に絡まれている現場に出くわすが、アキラが「見て見ぬふりは出来ない」と不良に立ち向かい、不良をやっつける。スグルが気を失っているうちにアキラが女性を助けた形だ。
そんなことがあって、入門試験に遅刻してしまったスグルだが、出迎えた師匠は「落とした財布が届いた。ありがとう」、さらに「娘を助けてくれたありがとう」と感謝をする。二重人格が役に立った形である。
そして、入門試験。八五郎が隠居を訪ねる場面を師匠を真似てやってみなさいと言われたスグルだが、棒読みで明らかに下手くそで、師匠に「向いていない」と言われてしまう。堪りかねたもう一つの人格のアキラがやってみるが、これまた棒読みの下手くそ。
落語は演じ分けの芸能だから、スグルとアキラが隠居と八五郎に役割分担したら上手くいくのではないか、と師匠が思いつき、やらせてみる。すると、どうだろう、両者ともに棒読みの下手くそでどうにもならない…。マイナスとマイナスを掛け算するとプラスになるかと思ったら、これは掛け算ではなくて足し算で、余計マイナスの度合いが深まったという…、そんな感じだろうか。世の中、そんなに甘くないという意味で、傑作だと思う。
浅草演芸ホール四月中席八日目夜の部に行きました。今席は柳家わさび師匠が主任を勤め、三日目、六日目、そしてきょう八日目は即席三題噺にチャレンジした。開口一番の前座さんの前にわさび師匠が高座に上がり、客席から挙手で5ツのお題を集め、それを観客の拍手の量で3つに絞り、その三題で3時間半で落語を創作するという趣向だ。
「牛ほめ」三遊亭東村山/「ラブレター」柳亭市寿/「お化け遊園地」桂三木助/ものまね 江戸家猫八/「看板のピン」林家木久蔵/「堀の内」古今亭菊志ん/奇術 小梅/「ん廻し」春風亭正朝/「やかん工事中」三遊亭円歌/漫談 ホームランたにし/「あちたりこちたり」柳家小満ん/中入り/「悋気の独楽」春風亭三朝/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「藪医者」柳家さん生/「稽古屋」古今亭志ん輔/漫才 ニックス/「雷お兄さん」柳家わさび
わさび師匠の「雷お兄さん」は、「ブランコ」「ソプラノ」「安産祈願」の三題での創作。主人公の友人が安産祈願のお守りを70個も持ってきた。妻が無事出産できるようにという思いで、土偶まである。というのも、主人公の家が「パワースポット」だからだという。すぐ隣が公園になっていて、元気な子供の声が聞こえる。「生気」が集まるというのだ。
だが、主人公は公園が隣で困っていることがある。子供たちがブランコに乗って、勢いをつけて、靴をわざと飛ばすという遊びをしているのだ。そのために、家に靴が飛んできて、窓に当たる。このために窓は防弾ガラスにした。靴が飛んでくるたびに、主人公は「コラーッ!」と怒鳴り、「令和の雷お兄さん」と呼ばれている。怒鳴られた子供は謝りに来るが、主人公は「親を連れて来い」と言って、靴を返さないようにしている。親に注意することで、子供にちゃんとした躾をさせようと考えているからだ。
子供たちは皆、親を連れて再度謝りに来るのだが、主人公が一人気になっている父子がいた。父も来るのだが、一言も喋らずに黙って頭を下げるだけなのだ。主人公は「親がきっちりと叱らないと、子供が誤った道を歩むことになる」と言って、「一言でいいから、『すみません』を言ってほしい」。すると、その父親は「すみません」と書いたメモを渡した。
実はその父親は声楽家で、所属する楽団で女性のソプラノが不足してしまい、男でもソプラノが歌えるように、日常生活もすべてソプラノで発声するようにして、「声を作る」ように上から言われているのだという。だが、そのソプラノの高い発声で靴飛ばしの件を謝ると、逆に「馬鹿にしているのか」と怒られてしまうのではないかと危惧したのだ。
そう言って、その父親はラルク・アン・シエルの楽曲を歌ってみせた。また、「美味しんぼ」の東西新聞社文化部、富井副部長の声真似もやってみせる。このあたりの部分は、流石わさび師匠と思わせる演出だ。それもこれも、その声楽家の父が「プロセス」を大事にしているからだという。安産祈願の主人公の友人がこれを聞いて、「是非、拝ませてくれ」。プロセス=過程→家庭。家庭を大事にすることにあやかりたいという…サゲ。
毎月「月刊少年ワサビ」で三題噺の創作を継続しているわさび師匠が、そのノウハウやスキルを駆使して創った即席三題噺に拍手喝采であった。


