SWAクリエイティブツアー 春風亭昇太「帰り道」、そして三遊亭わん丈「子別れ」勉強会

「SWAクリエイティブツアー」に行きました。テーマは「心の旅」だった。
「春宵不思議草紙」三遊亭白鳥/「帰り道」春風亭昇太/中入り/「十五日の男」柳家喬太郎/「老男」林家彦いち
白鳥師匠。コンビニで働くケンさんが同じくコンビニ店員だが落語家のケイタから教わった「文七元結」。仕事を終えた帰り道、ケンさんは女性の身投げを見つけ、これを止める。そして、ケンさんは宇宙人だった。さらに身投げの女性は幽霊だったという…ダブルの怪奇が可笑しい。元芸者だったトシコおばあちゃんに教えられた言葉、「たまんないねえ!」、そして「インド人もビックリ!」がスパイスとして効いて面白かった。
昇太師匠。近頃、自分は「年のせい」ばかりに囲まれているという初老の男。腰が痛いのも、財布をどこにしまったかを忘れるのも、電車で降りる駅を乗り過ごすのも、みんな「年のせい」。若者に抗うのではなく、老いた自分を受け入れて、ポジティブに自分のペースで生きるのが一番ということを教えてくれる。テレビのリモコンも、スマホもパソコンも、スイカもパスモも、みんな「ピッ」で通じるというのが可笑しかった。
喬太郎師匠。公園のベンチの片隅で缶コーヒーを飲んでいる男の回想だったのか。30年前、そこには喫茶店があり、色々な常連さんがいた。噛み合わない会話をする主婦のイガラシさんとハシモトさん。道の駅で働く支配人がバイトの女子大生を口説いている。皆は仲良くなり、あるとき「山菜パーティー」をすることになった。だが、男が遅刻していくと、皆がトリカブトによって血を吐いて倒れていたという…。男は祥月命日にはこの公園で缶コーヒーを飲んで、常連さんたちを供養しているのかと思ったら…。含みを持たせたブラックなサゲも秀逸だ。
彦いち師匠。せせらぎ保育園の理事長、74歳は職員に「地球規模で考えろ」とか、「死ぬ気になって生きろ」とか、無茶苦茶なことを言って「老害」扱いされている。だが、行きつけのスナックでは、ガラパゴスゾウガメやニシオンデンザメといった長寿の生き物たちがいて、理事長はまだまだ「ひよっこ」扱いされている。理事長は保育園のお遊戯会でヒーローショーを披露すると、なぜか園児たちに大受けし、老害を吹き飛ばす…。現実社会と空想の世界が混じり合った不思議な落語だった。
三遊亭わん丈「子別れ」勉強会に行きました。「子ほめ」「明烏」「権助魚」「子別れ」「孫の営業」の五席。
「子別れ」。熊五郎が三年前を振り返って、「俺は馬鹿だった。モノを知らなかった。世の中の女は皆同じだと思っていた。お徳ほど出来た女はいないと今更気づいた」と反省しているのが良い。だから亀吉と再会して、「吉原の女と一緒なのか」と訊かれ、「あんな女はとっくに叩き出した。今は酒をやめて、一生懸命働いている」と自信をもって言えるのだ。でも、犯してしまった過ちは取り戻せないことも判っている。
亀吉が小林の坊ちゃんと新選組ごっこをして、おもちゃの刀で額に傷をつけられた件。母親は「片親だからと馬鹿にして…」と怒るも、世話になっている小林さんの息子にやられたと聞き、「痛いだろうが、我慢しておくれ」と言った後、「こんなときに、あの飲んだくれでもいてくれたら、どれだけ助かるか」という母親の台詞を聞いて、熊五郎は身につまされたことだろう。
でも、お徳は「お父っつぁんが悪いんじゃない。お酒が悪いんだ。お父っつぁんは飲まなければいい人なんだ」と言っているという。この台詞で、熊五郎はさぞ救われたろう。亀吉に50銭の小遣いをやり、明日は鰻をご馳走してやると約束する。それらを「おっかさんには内緒にしろ」としたのは、熊五郎がまだ自分に負い目を感じている表れだし、まだ再婚を申し出る立場にはないと謙虚に考えているところは、まともな人間として再生し、了見が定まっている証拠だ。
お徳が亀吉が持っていた50銭を見つけたときの心配もよく判る。「貰った」と言い張る亀吉が「誰から貰ったのか」を問われても、「御礼を言わなくていいおじさんから貰った」と言えば、もしかして他人の金に手をつけて盗んだのかもしれないと勘ぐるのも自然なことだろう。「お前にひもじい思いをさせていないつもりだ。どうして、そんな嘘をつくような子に育っちまったんだ」。熊五郎が持っていた金槌を持ち出し、「お父っつぁんだって怒っているよ!」と言うお徳の台詞に「この子は熊五郎と私の間の子。この子のためにも、やり直せるものなら、やり直したい」という気持ちがこもっていたのではないか。僕はそう解釈した。
熊五郎が吉原の女を追い出して、酒もやめて一生懸命働いていることを亀吉から聞いたことで、その気持ちはさらに強くなったと思う。翌日に鰻屋の二階に行くのも、その覚悟ができていたのだろう。熊五郎が両手をついて頭を下げ、「女手ひとつでよくここまで育ててくれた。父親として礼を言う。昨夜寝ないで考えた。亀には男親がいるんじゃないか。この野郎のためにも、また三人で暮せないだろうか。今の俺だったら、楽をさせてやれると思う」。
熊五郎も身勝手なお願いと思いつつも、思い切って切り出せた。受けるお徳も「嬉しいじゃないか。お前さんがそう言ってくれるなら、私はいつでも良かったんだ。よろしくお願い致します」。熊五郎のこの申し出を待っていたのだ。この親子三人にこの先、幸多かれと願わずにはいられない「子別れ」だった。

