立川談寛親睦会「ピッケル」「おせつ徳三郎」、そして月刊少年ワサビ 柳家わさび「会社様方」

立川談寛親睦会に行きました。「水屋の富」「ピッケル」「おせつ徳三郎」の三席。
「ピッケル」は談寛師匠ならではのファンタジーが良い。デートをしているカップル、彼女がずっと彼氏の鼻の上が気になって、彼氏の呼びかけにも「そうね」ばかりで上の空状態。「俺の顔にかき揚げでも付いているの」と問うと、鼻の上を小さな登山家が登っているのだという。リュックを背負って、ピッケルを使って、困難に立ち向かうというよりは実に良い笑顔で登っているという。
世界のどこかの部族が四十歳になると勇者の儀式としてバイソンの群れに裸で飛び込むようなものなのか。彼氏は鼻をすすって、その小さな登山家を吸い込んでしまった。鼻の中で登山家は横に寝ながらタンポポの綿毛がロボットダンスを踊っているのをのほほんと見ている。
だが、彼氏が思い切りくしゃみをすると、その登山家は池の中に吹き飛ばされてしまった。彼女は涙を零し、それをハンカチで拭く。彼氏はティッシュで鼻をかむと、小さなピッケルが鼻から出てきた…。談寛師匠独特のファンタジー落語が好きだ。
「おせつ徳三郎」。おせつの父親である旦那は番頭に入れ知恵されたのではなく、自ら「おせつと徳三郎があやしい」と気づき、向島の花見に同行した定吉からお灸という鞭と月一回の宿りとお小遣いという飴を使って、おせつと徳三郎が男女の深い仲になっているという証言を引き出す。そして、徳三郎に暇を出した。
おせつが婿を取り、婚礼をするという情報を知った徳三郎が刀屋に向かったときの「裏切られた」という気持ち。「うんと斬れる刀をください」という台詞には、婚礼の場に乗り込み、おせつを斬り、自分も喉を突いて死のうという鼻息の荒さがあった。
それを窘めたのが刀屋主人だ。「あなたには売りたくない…あなたは綺麗な目をしている」と言って、事情を訊く。そして、そんな仇討は「本当の馬鹿だ」と断じる。一生懸命に働いて稼いで、お店よりもっといい屋敷に住んで、綺麗な娘を嫁に貰えばいい。その嫁と一緒にお店の前を歩けばいい。そうすれば、そんな悔しさなんて、何とも思わなくなる。
それが出来ないなら、川に身投げしなさい。どざえもんとなった姿を見たお嬢様はきっと「私のことを思ってこんなことを…」と思い、自分も川へ飛び込もうと思うだろう。それで心中になるだろう。
刀屋主人もまさかそんなことはしないだろうと思って言ったのだろうが、「おせつが婚礼の席から逃げ出した」と知った徳三郎が鳶頭と入れ違いに店を出て行ったとき、刀屋主人は「あの男が徳三郎だったのか」と気づき、「余計なことを言っちゃった」と悔やむ。
果たして、徳三郎はおせつと橋の上で再会。「私と死んでくれますか」「蓮の花の上で一緒になりましょう」。二人は身投げをするが、場所は深川の木場。材木の上に落ちて助かり、お店の旦那も「これほどまでに思い合っているのなら、仕方ない」と夫婦になることを認めるハッピーエンド。「花見小僧」から「刀屋」までをあまり重くせずに45分程度にまとめた編集能力を高く買いたい。
「月刊少年ワサビ」に行きました。柳家わさび師匠が三席。「ぼたぼち小僧」「お見立て」、それに三題噺は「オムライス」「隠密」「残業」で「会社様方」だった。
「会社様方」。主人公は奥さんに浮気がばれて家を追い出され、大学時代の後輩が勤めるケチャップやトマトジュースを製造する会社に隠れて暮らしているという設定。給湯室は幸い、防犯カメラもなく、警備員も見廻りに来ないので、何とか三か月暮らすことが出来ているという…。
夜中、その来ない警備員が見廻りに来てしまった。「不法侵入者か」と問い詰められ、主人公は「残業をしている」と取り繕うが、「残業申請が出ていない」と言われてしまう。後輩と連絡を取り、スタミナドリンクや書類の山でカモフラージュを図るが、とうとう崖っぷちに追い詰められる。
主人公は「実は社員ではない」と事情を正直に告白すると、その警備員と思っていた人物は「私も不法侵入者なんです」と言う、意外な展開に。オムライスが大好きで、この会社のケチャップの成分の秘密を探りに侵入したのだった。男が言う。「あなたもオムライスが好きになって、オムライス通、オムツウになればいい」。秘密は絶対に「漏らさない」というサゲ。
実際にOmu2(オムツー)という「提携先の宿泊施設で赤ちゃん用の紙おむつを手軽に購入できるサービス」があることを、終演後に調べて判った。赤ちゃん連れ旅行客に嬉しいサービスとして好評らしい。わさび師匠らしい緻密に計算された新作落語だと思った。

