如月の三枚看板 入船亭扇辰「正直俥夫」、そしてオレスタイル 春風亭昇太「崇徳院」

如月の三枚看板に行きました。橘家文蔵師匠が「時そば」、柳家喬太郎師匠が「ウルトラのつる」、入船亭扇辰師匠が「正直俥夫」だった。開口一番は入船亭辰むめさんで「寿限無」。
喬太郎師匠の「ウルトラのつる」。なぜ帰ってきたウルトラマンがウルトラマンジャックになったのか。八五郎を「マニア、怖い!」と言わせる、六さんが展開するマニアックな蘊蓄が実に面白い喬太郎師匠ならではの新作だ。
ブルマークとマルサン、怪人二十面相、怪奇大作戦、団次朗、キャロライン洋子、ヤプール人、ウルトラマン二世という呼称…。1964年生まれの僕にはドンピシャなのだが、僕よりもご高齢の方や若い世代も爆笑してしまうのは、これら円谷プロおよびウルトラマンに関する知識がさほどなくても、六さん=喬太郎師匠自身がマニアな蘊蓄を次々と繰り出すことにカタルシスを感じるからだろう。その理屈は歌舞伎に詳しくなくても、「七段目」の若旦那の芝居気違いぶりを面白いと感じることで納得できる。
扇辰師匠の「正直俥夫」。和泉橋署の巡査が貧乏俥夫の小林正吉の股引を質屋から請け出してやったときに言った言葉、「貧乏を苦にしてはいけない。陰日向なく正直に生きなさい」がとても胸に滲みる。巡査は水清ければ魚棲まずで、署長から「私情にかられて公の職務を蔑ろにした」と免職処分を受けてしまった。だが、雪降る中で寒さに耐えかねていた俥夫を見かねて助けてあげることは間違っていない。神様は見ていた。「学問で身を立てよう」と考えて健康を害した元巡査が正吉と再会を果たすことができ、困っていた住まいを貸してくれることになった。扇辰師匠の高座には出てこなかったが、元の講談では「汚れ切った世の中を良くしよう」と法律を学び、弁護士になるのだ。
正吉も正直に生きたからこそ、運が回ってきた。乗客が置き忘れた紙入れを届け、御礼だという五円札の受け取りを拒み、50銭の足代だけ貰った。後日、その乗客は「抵当流れの10台の俥」を引き取って、「俥屋の親方にならないか」と誘ってくれた。費用は「ある時払いの催促なし」。正吉は真面目に働き、裕福な暮らしができるようになった。だからこそ、恩人である巡査と再び巡り会い、恩返しをすることができた。落ちぶれて袖に涙のかかるとき、人の心の奥ぞ知らるる。扇辰師匠の人柄にピッタリの噺だと思った。
「オレスタイル~春風亭昇太独演会」に行きました。「蜘蛛駕籠」「空に願いを」「崇徳院」の三席。開口一番は春風亭柳好師匠で「町内の若い衆」だった。
「崇徳院」は八五郎のおバカなキャラクターが光る、昇太師匠のお好みの噺に仕上がっていて面白い。それが「胸につかえていること」があって寝込んでしまった恋煩いの若旦那と対照的で余計引き立つ。
上野の清水様の茶屋と聞いて、その店で「羊羹を運んでくる女」が面白くて好きだと言って、若旦那が一目惚れしたお嬢様そっちのけなのが可笑しい。お嬢様が茶袱紗を落としたときに、若旦那が拾ってあげて、「ありがとう…」と蚊の鳴くような声で御礼を言ったのを「アリババと40人の盗賊?」、パラリと落ちた短冊に書かれた歌「瀬をはやみ岩にせかるる~」を「大きな岩を開く呪文?」と頓珍漢な八五郎。若旦那が「所も名前も判らない」と言うと、「気の利かない女だなあ。短冊の裏に書けばいいのに」と返し、崇徳院様の歌だと知ると、「スットコドッコイの唄」とするところも含め、愉しい八五郎なのが良い。
後半は旦那にそのお嬢様を探し出したら、「借金は棒引きにした上で、三軒長屋をやる」と言われ、欲に駆られた女房に尻を叩かれ、江戸中を探し回る情景が浮かび、楽しい。手掛かりとなる崇徳院の歌を口にしながら、湯屋を10軒、床屋を12軒、「うちの娘がうわ言のようにその歌を詠んでいる」「え!お嬢さんはお幾つですか」「5ツです」、ドッヒャー!でも、最後にはお嬢様のお店の出入りの親方が四国担当で「一目惚れした若旦那」を探しに出るところに巡り会って、ハッピーエンド。これぞ昇太ワールドの高座を満喫した。

