新宿講談会 一龍斎貞弥「青の洞門」、そして落語教育委員会 三遊亭兼好「不動坊」

新宿講談会に行きました。
「細川の茶碗屋敷」一龍斎貞奈/「奴の小万 生い立ち」神田菫花/「山内一豊 出世の馬揃え」宝井琴梅/中入り/「笹野名槍伝 道場破り」神田伊織/「青の洞門」一龍斎貞弥
貞弥先生の「青の洞門」、ネタおろしとは思えない素晴らしい出来。旗本・中川三郎兵衛の妾・おゆみが家来の市九郎と結託して三郎兵衛を殺害し逃走。「兇状持ちになったからには、悪党として生き延びる」と悪びれず殺害と窃盗を繰り返すおゆみに対し、市九郎は「あさましい」と嫌気がさして、おゆみと訣別する。
美濃の常願寺に行き、和尚に事情を話して「自首しようと思う」と意思を伝えると、和尚は奉行に裁かれるよりも仏道に帰依することを勧め、市九郎は懺悔の涙を流して出家。了海と名乗り、日本全国を償いの旅に出る。四十歳のときに豊前国の耶馬渓、羅漢寺に行ったとき、山国川に沿ってある断崖絶壁の道を踏み外して水死した者がいて、農民たちが了海に経文を唱えて供養してほしいと頼む。聞けば、この断崖絶壁は難所でこれまでも幾人もの犠牲者が出ているという。
了海は「岩山に穴を空けて道を作れば良いのではないか。そうすれば多くの人々を助けることができる」と考えた。鑿(のみ)と鎚を持ち、経文を唱えながら開削をはじめた。だが、一年で一丈、およそ3メートルしか掘り進まない。貫通するのには二百間(およそ360メートル)ある。百年かかる。大願成就を祈り、途方もないことを続けている了海を見て、村の衆は最初のうちは呆れていたが、あまりの熱心さに感心し、石工と人夫とし手伝うようになる。19年で全体の2/3が掘り進めることができた。了海は満身創痍で、両眼がかすみ、両足も痛み、杖にすがりながら作業を進めた。村人は休養を勧めたが、了海は頑なに作業に打ち込むのだった。
一方、中川家は主人が殺害されて、お取り潰しになった。一子、実之助に再興を託され、実之助は十九歳のときに仇討を決意し、市九郎を探し求める旅に出た。豊前の宇佐八幡宮を参詣した際に、「主人を殺した罪滅ぼしに洞門を掘っている出家がいる」という噂を耳にする。年齢は六十、了海という僧侶、俗名は判らないが、越後柏崎出身という情報で、その男が市九郎であることを確信する。
実之助は洞門を訪ね、痩せ衰えた了海と対面。了海は「中川様のご子息か」と訊き、実之助が「10年かかって巡り会えた」と言う。了海は「どうぞ、お斬りください。討たれるべき覚えがある。妨げは無用じゃ」と受け入れる。実之助も「中川家が取り潰されたのは、この老僧のせいだ」と思う。
だが、そこに石工頭の吉松が現れ、「大願成就を目の前にして、悔しい。私どもに暫しの間、了海様の命を預けてくれないか。洞門開通の折りには了海様の首を差し出す」と懇願した。実之助は「折角、仇を目の前にして…今までの苦労は何のためか」と思い、村人たちの意に反して、「今宵は討とう」と何日か、そのタイミングを待った。だが、深夜に闇の中から了海が経文を唱えながら鎚を打つ音が聞こえてくる。漆黒の闇に浮かび上がったのは、人間というよりは菩薩の姿であった。「たとえ仇とはいえ、深夜に闇に乗じて討つのは憚られる」。
了海の打つ鎚の一つ一つの音が命を縮めているように思えた。実之助の気持ちは「待つことにしよう」、そして「この仕事を助けよう」と変わっていった。そして、実之助の心から「恨み」が消えていった。いつしか、仇と仇が並んで鎚を振るっていた。
21年目。実之助がやって来てから1年半。九ツ、了海が鎚を打つと、両眼に月の光に照らされた山国川が開けて見えた。大願成就である。了海は「約束の日だ。お斬りなさい。来世はきっと極楽浄土に生まれる」と言うと、実之助は「仇として殺すことなど思いも及ばぬこと」と返した。胸がいっぱいになり、実之助は了海の手を取り、全てを忘れて感激の涙に咽んだという…。感動的な読み物だった。
落語教育委員会に行きました。柳家喬太郎師匠が「按摩の炬燵」、三遊亭歌武蔵師匠が「町内の若い衆」、三遊亭兼好師匠が「不動坊」だった。オープニングコントはミラノ五輪編、開口一番は三遊亭伊織さんで「鮑のし」だった。
兼好師匠の「不動坊」。前半は憧れのお滝さんが嫁に来ることになって、浮かれ気分の吉公の湯屋での行動が愉しい。「この幸せは離さない」と言って、赤の他人をお滝さんに見立てて、湯船の中で「あっしが好きだから嫁に来るんじゃないんでしょう?借金があるから、仕方なく来るんでしょう?」と意地悪を言ったり、「お滝!」「はーい!」と呼び合う予行演習を何度も繰り返したり、最後には抱きしめちゃって、湯船に沈没しちゃう。
後半はお滝さんが大好きだった徳さん、鉄さん、万さんの三人で不動坊の幽霊を輿入れの晩に出して破談にしちゃおうという大作戦が面白い。特にチンドン屋の万さんが太鼓だけでいいのにチンドン屋道具一式を持って来て、騒がしい太鼓を叩いちゃうところ。それにアルコールを餡ころと間違えて一升瓶に詰めて持ってくるところ。人は好いが抜けている万さんに苛つく徳さんの構図が可笑しい。
それから、寒さを強調した演出も良い。幽霊役の林家彦六の弟子のモウロクを吊るすのに、皆の褌を使う。モウロクが唇が紫色で幽霊に見えるというのも、褌を締めてなくて寒いからという…。そして、幽霊が出てきたら、お滝さんが直接「お前さんは借金を山ほど拵えて、恨みごとを言われる覚えはないよ!」と言い切るのも笑えるが、吉公が「お滝さんは俺が幸せにするから安心しろ。だから、浮かばれてくれ。何か頼みごとはあるか」と訊くと、幽霊役のモウロクが「寒いので火鉢に当たらせてくれ」と言って、温まり、「生き返るぅ~」。「お前は金に釣られたのか」に、「褌に吊られています」。爆笑の高座だった。

