国立名人会 神田松鯉「出世の春駒」、そして講談協会若手初席 一龍斎貞弥「山内一豊 出世の馬揃え」

国立名人会に行きました。

「一目上がり」柳亭市助/「桃太郎」三遊亭兼好/「掛け取り」桂文治/「七段目」柳亭市馬/中入り/音曲 桂小すみ/「寛永三馬術 出世の春駒」神田松鯉

文治師匠。寄席好きの酒屋を撃退するために、繰り出す芸人の物真似が面白い。柳昇「カラオケ病院」、先代正蔵、先日亡くなったばかりの昔昔亭桃太郎師匠、色物からボンボンブラザース、さらにぴろきまで!

市馬師匠はこれに刺激されたのか、正月を寿ぐ相撲甚句で自慢の喉を披露した後に、先代正蔵の声色を負けずにやったのが可笑しかった。

小すみ師匠、寄席の音曲師としては当代一ではないか。三味線の技術の高さに加え、尺八で一月一日を演奏し、客席にハミングしてもらう趣向はとても良い。さらにホイットニーヒューストン「オールウェイズ・ラヴズ・ユー」と都々逸の伊勢へ七度、熊野へ三度、愛宕様へは月詣り、山形民謡「花笠音頭」のめでためでたの若松様よ~をミックスしたアレンジに天賦の才能を感じる。

松鯉先生の丁寧な「出世の春駒」が午年の新年を寿ぐ。愛宕山頂の梅花の香りに魅せられた家光公が168段の階段を騎馬にて乗り上がって手折って参れという無茶振り。誰もが尻込みする中、苛ついた家光公は「余が直々に手折って参る。よく見ておれ」とは言ったものの、余りの急勾配に慄いてしまうが、言い出した手前、「止めるでないぞ」と強気なことを言うところ、愉しい。

「殿に過ちがあっては…」と周囲の者が心配するが、知恵伊豆は「しばらくこうしておいて、油を搾ろう」と言うあたり、さすが腹心。最終的には家光公を止めて、三十余大名の馬術指南役に籤を引かせ、三人の馬術の達人が挑む。佐竹家の鳥居喜一郎、藤堂家の山本右京、水戸家の関口六助。だが、三人とも七合目までは登るが、その先に進めず、無理に鞭を叩いて、石段を転げ落ちてしまった。

これ以上犠牲者を出してはいけないと考えた知恵伊豆は家光公を説得し、帰城することに。「還御~」の声が響く中、「お待ちくだされ」と名乗りをあげた丸亀居駒家の曲垣平九郎。老齢の馬を巧みに操り、馬と会話をしながら石段を登るところの描写に愛嬌がある。曲垣が馬に石段を見せて得心させ、一段一段踏みしめるように登り、七合目に到着。

ここで「休憩だ」と言って、馬の溢れる汗を丁寧に拭き取ってやり、息遣いを整え、最後に懐から取り出した塩を舐めさせる。曲垣の馬への愛情が良く出ていて、これなら山頂まで登れるだろうという説得力がある。さすが馬術の達人、馬の扱い方が違うと思わせる素敵な高座だった。

講談協会の若手初席に行きました。

「三方ヶ原軍記」一龍斎貞昌/「村越茂助 誉れの使者」田辺一記/「山本南龍軒 無心は強い」宝井琴凌/中入り/「奴の小万」神田こなぎ/「山内一豊 出世の馬揃え」一龍斎貞弥

貞弥先生の「出世の馬揃え」。二十貫取りの山内一豊だが、千代は「末には名を挙げる男」と見こんで、父親を説得して夫婦になったというのが、まず良い。岐阜の馬市で見つけた良馬の代金、金三枚が調達できずに「花咲く春はいつ来ることであろうか」と苦悩している一豊を見て、千代が「心の内の悩みをお聞かせくださいませ」と言う気遣いが素晴らしい。

「きょうほど貧しさが嫌になったことはない。武芸の嗜みは心得ているが、戦場の功は馬にありだ」と言う一豊の思いを聞いて、千代はすぐさま嫁入りしたときに持ってきた鏡を持ち出し、その裏の紙を剥がして、金五枚を渡す。「三年前、母から女の道を教わった。実家ありとは思うな。嫁しては夫に従え。この金は当家の一大事に使おうと思っていた。その一大事がまさに今です」。貞女とはこういう女性を言うのだろう。

信長が秋に馬揃えをおこなったとき、誰もが貧しい一豊を不憫に思った。ところが、二十五番目に出てきた一豊とその馬を見て、誰もが驚いたという。信長は一豊から名馬獲得の顛末を訊き、「妻の志こそ、女の鑑である。鏡栗毛と名付けよ」。そして、一豊は五百貫取りに加増されたという。内助の功の素晴らしさに思いを馳せた。