立川志らく今年最後の独演会「芝浜」、そして それぞれの鰍沢 入船亭扇橋「鰍沢」

立川志らく今年最後の独演会に行きました。40周年記念ファイナルと銘打った会なので、久しぶりに志らく師匠の独演会に行った。

「親子酒」/「寝床」/中入り/「笠碁」/「芝浜」

「芝浜」。四十二両の革財布を拾って、「もう働くことはない。遊んで暮らせる」と言う勝五郎に対し、女房は必死で「夢だ」と言い聞かせる。「芝の浜にいつ行ったの?お前さんはずっと寝ていた。私がネコババした?こんな貧乏だもの、私だってその財布を見たいよ。どこにあるの?一緒に探そう…お金が欲しいと考えてばかりいたから、頭が腐っちゃったんじゃないの?」。

勝五郎は悟る。「情けない。勘弁してくれ。人間をやめたくなった。一緒に死のう…いや、死にたくない。何とかならないか」。女房は「商いに行って!何とかするから」と答え、勝五郎は酒をやめて商いに精を出すと誓う。元々腕の良い魚屋だ。評判は上がり、三年後には店を一軒構えるまでになる。

大晦日。雪。「飲む奴は堪らないだろうな」と言う勝五郎に、女房は「飲みたいかい?」と訊く。だが、「今はお茶の方が好きになった」と強がる勝五郎。女房は除夜の鐘を聞きながら、泣く。そして、切り出す。「お前さんに見てもらいたいものと聞いてもらいたい話があるの」。四十二両の入った革財布。「これは夢じゃなかったの。本当に拾って来たの」。

勝五郎は激怒する。「てめえ!この野郎!」。女房を殴る。「なんで、亭主に嘘をついたんだ!亭主を騙したんだ!」。女房が抗弁する。「貧乏のどん底だった。私も楽が出来ると嬉しかった。でも、お前さんが魚屋をやめると言った。私は魚屋のお前さんが好きだった」。大家に相談すると、「とんでもない。勝五郎の首が無くなってもいいのか」と言われ、夢にした。

お前さんは「苦労をかけてすまねえ。いつか幸せにする」と言って一生懸命に働いてくれた。その姿を見て、私は拝んでいた。一年後に落とし主が現れず、四十二両はお下げ渡しになったが、また魚屋をやめると言い出すんじゃないかと思って、本当のことが言えなかった。

さっき、お前さんお茶の方が美味しいとやせ我慢を言ったのを聞いて、「お酒を飲んでほしい」と思った。それで本当のことを言う決心がついた。打っても、蹴ってもいい。でも、一つお願いがあるの。別れないで!

これを聞いた勝五郎は女房に感謝する。「よく夢にしてくれた。礼を言っているんだ。背中に水を浴びせられた気分だよ」「もう、打たない?別れない?」「別れるわけがないだろう。お前は貞女だよ」。お互いを思いやる夫婦の幸せの素晴らしさを感じた。

上野鈴本演芸場十二月中席夜の部千秋楽に行きました。今席は「冬の鈴本 それぞれの鰍沢」と銘打って、10人の演者が日替わりで「鰍沢」を演じる特別興行である。きょうは入船亭扇橋師匠だった。

「手紙無筆」入船亭扇えん/「タトゥーに込めた愛」三遊亭ごはんつぶ/太神楽 翁家勝丸/「豊竹屋」古今亭文菊/「てれすこ」林家たけ平/「初音の鼓」春風亭正朝/漫才 風藤松原/「團蔵と淀五郎」宝井琴調/中入り/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「長島の満月」林家彦いち/紙切り 林家楽一/「鰍沢」入船亭扇橋

扇橋師匠の「鰍沢」。父親の三回忌で身延山にお詣りした絵草紙屋の大川屋新助は吹雪に遭い、道に迷い、日も暮れて、このまま凍え死にするのではないかと覚悟したときに人家を見つけ、命拾いをする。囲炉裏で焚火に当たり、体が温まり、ようやく助けてくれた女性の美しさに気づいた。もしや、江戸にいたのではないか…。

吉原にいたと聞き、記憶が蘇る。五年前、二之酉の晩にベロベロに酔った友人と世話になったとき、自分の相方を勤めてくれた熊造丸屋の月之兎花魁では…。今ではお熊という名前で暮しているその女性が「覚えていますよ」と答え、二人の距離が縮まる。

裏を返したいと思っていたら、「花魁は心中した」という噂を聞き、以来吉原から足が遠のいた、人の噂なんてあてになりませんねと新助が言う。すると、お熊は「心中はしたんですよ。し損なったんです。そのときの傷がこれです」と言って、首のあたりの傷を指でさす。

心中相手とやっとの思いで甲州の山奥に逃げ延びたんだという。伝三郎という相手の男は生薬屋のしくじりで、今は熊の膏薬を売り歩いて生計を立てている。これを聞いて、新助は「好いて好かれた相手とこうして山奥でひっそりと暮らしている。黙阿弥が知ったら、乙な二番狂言を書きそうですね」と言って、その場が段々と和んでいく様子が伝わる。

新助が「手土産代」と言って、胴巻きから幾ばくかの金を取り出し、お熊に渡したとき、お熊は「胴巻きに百両はある」と睨んだところから、サスペンス調となってくる。体を温めた方が良いと言って、玉子酒を拵え、下戸だという新助に振る舞う。だが、そこには痺れ薬が入っていた…。

新助がこの家の主である伝三郎が帰宅する前に就寝した。そして、お熊が伝三郎の寝酒を求めに出掛けている間に、伝三郎が帰ってきて、飲み残しの玉子酒を飲み干した。それも底の濃いドロドロした部分を飲んだ。百両を奪おうとしたお熊の計略が逆に自分の亭主を苦しめることになるとは…。

お熊の企みを知った新助は必死の思いで家を抜け出し、逃げる。お熊は「亭主の仇を討つ!」と鉄砲を抱えて新助の後を追う。前は鰍沢の急流という崖に追い込まれた新助は崖下に滑り落ちて、下にあった筏とともに川に流される。狙いを定めたお熊の火縄銃の弾は新助の髷をかすめて命を拾う…。巧みな描写で情景が浮かぶ扇橋師匠の高座だった。