浪曲定席木馬亭 天中軒すみれ「安兵衛婿入り」真山隼人「能登守と外記」港家小柳丸「梶川屛風廻し」、そして もちゃ~ん 春風亭百栄「桃太郎後日譚」

木馬亭の日本浪曲協会十二月定席千秋楽に行きました。きょうは赤穂義士伝特集である。
「不破数右衛門の芝居見物」玉川絹華・玉川みね子/「中山安兵衛婿入り」天中軒すみれ・沢村さくら/「和久半太夫」富士実子・沢村道世/「そば志ぐれ」玉川福助・玉川みね子/中入り/「元禄十三年~能登守と外記」真山隼人・沢村さくら/「三村の薪割り」宝井琴鶴/「梶川屛風廻し」港家小柳丸・沢村道世/「男一匹 天野屋利兵衛」天中軒雲月
すみれさんの「安兵衛婿入り」。年季明け4年目とは思えない成長ぶり。安兵衛が堀部弥兵衛妻の自害を覚悟の申し出に「一旦承諾し、飲んで飲んで飲み尽くして、愛想尽かしされれば、向こうから離縁してくるだろう」という読みが狂うところに面白さがある。
酒浸りで「お情けどころか、背中の番して風邪ひいた」という娘に対し、弥兵衛金丸は「良い婿じゃ」の一点張りで意に介さなかったが…。とうとう金丸の堪忍袋の緒が切れて、槍で安兵衛を突くと、安兵衛は槍の先を掴んでニッコリ笑い、「もう少し飲ませて、死なせてくれ」。これを見た金丸は両手をついて娘に優しい言葉をかけてくれと平身低頭に頼み込む。この姿に打たれ、安兵衛は堀部家に入ることを快諾したという…。ユーモラスの中に情を感じる高座だ。
隼人さんの「能登守と外記」。元禄十四年の浅野内匠頭刃傷の一年前に同様のことがあったという、吉良上野介の人物像を描き出すところが興味深い。亀井玆親能登守は勅使饗応役に任じられたが、指南役の吉良が意地悪で能登のことを「禄盗人」呼ばわりする始末。憤った能登守は切腹覚悟で刃傷に及ぼうと考えたが、家来の多胡外記の機転によって回避する。
「遺恨あって?薬が足りないのだ」と考えた外記は吉良の屋敷を訪ねる。門番に二両、稲垣半左衛門に十両、秋月平馬に百両の袖の下を渡し、吉良のいる奥座敷に案内されると、千両を差し出して「どうかお取り計らいを」と願い出る。これに吉良は「安心して帰れ」。翌日。果たして、能登守は何も事を起こさずに帰還し、外記は余りの嬉しさに号泣したという…。金に賤しい吉良が浮かび上がる。
琴鶴先生の「三村の薪割り」。三村次郎左衛門は薪割りの次郎兵衛に身をやつし、刀研ぎ師の竹屋喜平次光信のお気に入りとなり、「薪次郎」と呼ばれる。刀の目利きが出来、看板板に「御刀研上処竹屋喜平次光信」と達筆な文字を書き、「こいつは本当は侍だな。聞かぬが花だ」と思われる。
いよいよ仇討というときに、三村は竹屋を訪ね、大石内蔵助から拝領した彦四郎貞宗を研ぎ上げてほしいと依頼する。やはり武士だったのかと思った光信に、「偽りを申したこと、ご容赦ください。この度、帰参が叶いました。奥州二本松、丹羽様の家来で小松次郎左衛門と申します」。元禄十五年極月十一日、研ぎ上がった貞宗を受け取り、十五両を払おうとするが、光信は「祝いだ」と言って受け取らない。桑でできた庇の腕木を、その貞宗で真っ二つに斬り、「切れ味を試しました」と言って、庇の償い料として十五両を渡す。そして、脇差として持っていた永正祐定を預け、「明後年までに研いでほしい」と言って去った。
討ち入りの翌朝。雪の中を泉岳寺に向かう赤穂浪士の中に、光信は三村を見つけて声を掛ける。「ご亭主、よくぞ来てくれました」「あなた、嘘ばっかり!貞宗の切れ味はいかがでしたか」「刃こぼれひとつしませんでした」。そして、預けた永正祐定は形見のつもりだと言って、「さらばでござる」。
竹屋喜平次光信の家には三村との縁が評判となり、庇の腕木、償いの十五両、そして三村の書である看板を見物に武士が続々と訪れるようになった。そして、光信は加賀百万石お抱えの研ぎ師になったという…。良き銘々伝である。
小柳丸先生の「梶川屏風廻し」。殿中松の廊下で浅野内匠頭を後ろから取り押さえ、吉良上野介の命を助けた手柄によって槍奉行に任官された梶川与惣兵衛。梶川が出世の御礼に老中たちに挨拶廻りするが、悉く冷たくあしらわれる。それは皆が浅野贔屓だったという表れだ。
秋元但馬守、土屋相模守、稲葉丹後守。三人とも結託して、梶川が訪れると、ある六枚屏風を見せて説教する。それは源頼朝の富士の巻狩の絵で、曽我兄弟が親の敵である工藤祐経を仇討するのを御所五郎丸が見て見ぬふりをして助太刀したというもの。武士の情けを知る者ならば、なぜ手を緩めなかったのか。浅野の殿様は血を吐く思いで刃傷に及んだ。なぜ手を離してやらなかったのか。曽我兄弟を知らぬ奴など、今後を出入りを許さない。
真の武士(もののふ)の心を知らされた梶川は「浅野様、お許しください」と、槍奉行を辞し、出家したという…。どこまでも判官贔屓の忠臣蔵である。
雲月先生の「天野屋利兵衛」。男とみこまれたこの上は、たとえ我が子が水責め火責めに遭おうとも白状しない。頼まれた甲斐がない。天野屋利兵衛は男でござる。
天野屋の覚悟とともに、クローズアップされるのは名奉行の松野河内守だ。「本年はこのまま入牢を申し付ける。体を大事にせよ」。罪を憎んで人を憎まず。天野屋は三年の泉州への処払いで済んだ。最後は沢村さくらの三味線による天中軒独特の雲月バラシで大団円。満身創痍。渾身の高座だった。
「もちゃ~ん 春風亭百栄勉強会」に行きました。「桃太郎後日譚」「片棒」「やかん泥」、それに三題噺制作過程作品の四席。
「桃太郎後日譚」。寄席の15分高座でもできるサイズに圧縮する試み。それでも、この噺の笑いの本質は損ねることがない。桃太郎に「たった一つの美味くもなんともない吉備団子」で誘われて鬼ヶ島に鬼退治に行かされた犬、猿、雉が帰還後に居直って、不平不満を漏らして酒肴を十日間も要求し続ける。「こんな奴らだとは思わなかった」とメンヘラになってしまう桃太郎が可笑しい。
「観念した赤鬼、青鬼を女房や子どものいる前でズタズタに切り裂き、返り血を浴びていたのはどこの誰でしょうね」。桃太郎の脳裏に焼き付いた自分の残虐行為を思い起こさせ、家来たちは「米軍兵に対するアメリカ政府の補償の方がしっかりしている」と脅す。おとぎ話のめでたしめでたし的な「桃太郎」とは真逆のブラックな側面を浮かび上がせるセンスが光る一席だ。
「片棒」は古典に余り入れ事をせずに、しっかり演じることで噺が持つ本来の笑いを存分に引き出していた。贅沢三昧な長男、葬式を祭りにしてしまう次男が実に愉しかった。百栄師匠の古典への強いリスペクトを感じるとともに、それでお客を存分に楽しませることの実力を見た高座だった。
三題噺制作過程の一席は、今月28日に日本橋社会教育会館の独演会でネタおろしする予定のまさに「制作途中」を試した高座。お題は「UFO」「上手投げ」「泣きぼくろ」で、横綱昇進がかかった一番で物言いがついて土俵上で協議する勝負審判たちのやりとりの面白さを描いている。まだ「泣きぼくろ」の要素が入っておらず、これから試行錯誤していくのだろうと思う。どんな噺が最終的に出来上がるか、楽しみだ。


