立川らく兵 彩の国落語大賞受賞報告会「らくだ」、そしてタナタナ大根ネタおろし 林家きく麿「やぶれたページ」

立川らく兵「彩の国落語大賞受賞報告会」に行きました。「親子酒」「替り目」「らくだ」の三席。
「らくだ」。らくだこと馬太郎の弔いをするために兄貴分の丁の目の半次が屑屋の久六を遣い走りにする理屈。「得意先の不幸に出入りの商人が働くのは当たり前だ」。笊と秤を質に取って、「命を粗末にするのか。鼻で息ができないようにしてやろうか」。強面でこう脅されたら、屑屋も怖くて、言うことをきく。
らくだが死んだことは長屋の皆が喜ぶ。月番は「喜ばそうとしたって、騙されないぞ。本当か?…皆で祭りだ。嘘だったら、お前を殺すぞ」、大家は「変な世辞は言うな。本当か?河豚の石塔を建てよう!生き返るといけないから、石で頭を潰しておけ」。でも、らくだの弔いのために香典を出したり、酒や煮しめを提供したり、菜漬けの樽を貸したりするのは嫌だ。
長屋の衆はそれでも素直だ。古株の「死にゃあ、仏だ」の一言で、「赤飯を炊いたと思うよ」と普段全く祝儀不祝儀の付き合いなどしなかったらくだに香典を出す。頑固なのは大家だ。店賃の催促をして、青龍刀を振り回された恨みもあって、「店賃全部棒引きにするだけでもありがたいと思え」と言う。そこで屑屋が必殺の「死骸のやり場に困っているから、ここに連れて来る。煮て食うなり、焼いて食うなりしてください。それだけじゃあ、つまらないから、死人にカンカンノウを踊らせましょう」。大家は意地がある。「是非、見たい。そんなことで驚く大家じゃない」と言って、塩を撒いて屑屋を追い払う。
丁の目の半次はやるときはやる男だ。屑屋に死骸を背負わせ、大家の家に行って、♬カンカンノウ、キューノレス~歌に合わせて死骸を操り人形のように動かすところ。らく兵師匠の演技が実に真に迫っていて、良かった。これじゃあ、流石のしみったれ大家も怯える。結果、とても良い酒を持ってくるという…。
八百屋から帰って来た屑屋に、丁の目は「お前は死人を担いだから汚れている。清めの酒を飲め」と勧める。屑屋は自分の酒乱を心得ているから、これを固辞するが、丁の目は許さない。「優しく言っているうちに飲めよ。血だるまになりたいか」「てめえの口を叩き割っても飲ませる」「せわしないな。駆け付け三杯だ」。結局、屑屋は三杯飲むが、ここから人間が豹変するのが、この噺の肝だ。
親方は大したもんだ。一文無しでこれだけのことをやっちゃう。人の面倒を見るのはあっしも好きでね。元は古道具屋の若旦那だった。奉公人も沢山いた。でも、酒でしくじった。親父の死に目にも会えなかった。店はまるごと番頭に奪われた。後足で砂をかけるような真似されて、仕方なくおふくろと一緒に出て行った。死にゃあ、仏。生きている人間が黙って土に返してあげるのが勤めだ。世間には金を沢山持っているのに、目の前でバタバタ死んでいくのを左団扇で眺めているような酷い奴が多くいる。冗談じゃねえ。そうだろ?…もう一杯もらおう。
何が死にゃあ、仏だ。このらくだは碌なもんじゃない。賽子を二分で買えと言う。いくら転がしてもピンの目しか出ない。インチキな賽子だ。おまけに「らくだ」と名前が彫ってある。こんなもの買えるかよ!あるときは、日本、この国を売ってやると言う。俺が一歩歩くと1円、二歩歩くと2円、そうやって100円払えと言うんだ。冗談じゃねえ。殺ってやろうと思った。耳たぶや小指に齧りついて、食いちぎってやろうと思った。でも、おふくろやカカアや子どもたちの顔が浮かんで出来なかった。情けなかった…みくびんじゃねえぞ!
「酒が切れたら、酌をしろ!」と怒鳴る屑屋に、丁の目が「よしなよ。商売に出ないと釜の蓋が開かないんだろう?」と言うと、「なに!商いには雨が降る日も風が吹く日もある。そんなことで路頭に迷う俺じゃない!屑屋の久さんの名前を他に行って訊いてみろ!」。煮しめの芋を取って、「百姓じゃない!魚屋行って、マグロのブツを持って来い!くれるの、くれないの言ったら、カンカンノウだ!」。完全な立場の逆転を鮮やかに描き、落合の火屋まで行って「冷やでもいいから、もう一杯」のサゲまで完演。らく兵師匠、本領発揮の高座だった。
「タナタナ大根ネタおろし~林家きく麿 新作ネタ下ろしの会」に行きました。「今夜も寝れナイト!!」「絶対うまい」「やぶれたページ」の三席。開口一番は林家十八さんで「じゃないよ」だった。
「やぶれたページ」がネタおろし。先日、きく麿師匠の「ぶどうぱん」を聴いて感動し、こういう人情噺も創作できる噺家であることを認識したのだが、きょうの新作ネタおろしも素晴らしかった。胸がキュンとなった。
ヨシダタケシとヤマモトユカリは小学生で同級生。タケシがユカリから借りた少女漫画「ギンガムチェックのセプテンバー」(通称ギンセプ)をなかなか返さないので、ユカリが怒っている。実はタケシは「ギンセプ」の主人公、カリンとショウタがキスするシーンのページに寝ぼけて油性ペンで「スキ!スキ!ユカリちゃん」と落書きしてしまったのだ。
これでは恥ずかしくて返すことができない。そのページだけ破ってぐちゃぐちゃにしてゴミ箱に捨て、ユカリに返した。当然、ユカリは気づく。だが、タケシは「知らない」を貫き通す。ユカリは「いじわる!嫌い!絶交だ!」と怒ってしまった。このことはタケシの母親に伝わり、「ユカリちゃんに謝りなさい」と叱る。と同時に「ゴミ箱の中にそのページがあったから、ユカリちゃんに返しておいたから」。エーッ!
ユカリの女友達がタケシに「ちゃんと謝りなさいよ」と言ってくる。ユカリはタケシのことが好きだと皆が知っていて、「馬鹿!鈍感!」と罵る。実はユカリは父親の仕事の都合で転校することになったのだ。引越しの挨拶に、ユカリの母親がユカリを連れて、タケシの家にやって来る。ユカリはタケシに言う。「さよなら、って言いたくて。今まで、ありがとう。私のこと、忘れないでね」。
それから25年。タケシは小学校の教師をしている。タケイケイタという生徒がオオタさんを苛めるので注意した。「オオタのことが好きなのか?」と言って、タケシは25年前に幼馴染だった女の子のことが好きだったが、借りた漫画を破ってしまい、喧嘩してしまった。あのとき、謝れば良かった、変な意地を張ってしまい、後悔していると自分の体験を話して聞かせた。
ケイタはオオタさんのことが好きだとヨシダ先生に正直に話した。それに続けて、母親が新しい父親と再婚したが、その父親が睨んで怖いのだという。別に虐待ということではないと聞いて、ヨシダ先生は安心した。そして、ケイタが「オオタさんに謝る」と言ってくれたことが嬉しかった。
ある日、ケイタが目の下に痣を作って登校してきた。ヨシダ先生は虐待か?と思って訊くと、野球をしてボールが当たったのだという。念のため、先生はケイタの自宅に電話をして、母親に確かめた。父親とキャッチボールをしていて、剛速球を受け損ねて、痣になったと説明された。夜遅くなったので、ヨシダ先生はケイタを自宅まで送り届けた。
すると…出てきたケイタの母親…「ヤマモトユカリだよね!?」。「タケシ君!久しぶり!」。25年ぶりの再会。ヨシダ先生から過去を聞いていたケイタは「先生、好きだったって!」「言うなよ!」。ユカリの夫さえ問題なければ、「今度お茶でもしませんか」と誘った。今度の日曜日、駅前の喫茶店で会う約束をした。
「謝っていなかった。ごめんなさい。ずっと思っていたんだ。これ…」。タケシが差し出したのは「ギンセプ」の第3巻。「25年前に買ったんだ。渡そうと思って…。渡せて良かった」。すると、ユカリも「私もあげる!」と言って、タケシが25年前に破った1ページを復元した第3巻を出す。「キスシーンがある!」「大学生のとき、バラバラになっていた破片を繋ぎ合わせたんだ。そうしたら、スキ、スキ、ユカリちゃん、って。私も好きだったのよ」。
「ケイタ君がお父さんが怖いって言っていたので心配していたんだ」「ううん。仲良くやっているわ。いきなり10歳の男の子にどう接していいか、わからないで作り笑いしかできなかったのよ」。これを聞いたタケシは「もしうまくいっていないんだったら、プロポーズしようと思ったのに…、人生うまくいかないね」。漫画のページが破けたのは復元したが、タケシの淡い初恋は破れてしまったという…。胸がキュンとなるラブストーリーだった。

