落語一之輔春秋三夜 2025秋 第三夜「算段の平兵衛」

「落語一之輔春秋三夜 2025秋~春風亭一之輔独演会」第三夜に行きました。「時そば」「算段の平兵衛」「天狗裁き」の三席。開口一番は春風亭与いちさんで「竹の水仙」だった。

「算段の平兵衛」、ネタおろし。米朝師匠が掘り起こした上方落語を一之輔師匠らしく咀嚼して面白く聴かせてくれた。困りごと萬相談人みたいになっている平兵衛の悪知恵がどんどん連鎖していくところに、この噺の妙味がある。それを間断なく綴っていく高座に一之輔師匠の手腕があると思う。

ある村の庄屋がお花という娘に手を付け、妾にした。これが女房に見つかってしまい、平兵衛に仲介してもらって、縁切りした。だが、女房は悋気が収まらず、「村から追い出せ」「どこかに縁付けろ」と五月蠅い。そこで平兵衛に相談し、お花の結婚相手を見つけてもらう。手間賃5両に夏冬の物、箪笥一棹、さらに持参金20両。すると、お花は親身になってくれる平兵衛と所帯を持ちたいと言う。願ったり叶ったりだ。

二人は夫婦になり、庄屋からさらに餞別5両を貰い、遊山旅で温泉巡り。村へ戻ったときには、金が尽きた。何か金儲けはないか。平兵衛は博奕に手を出すが、まるで駄目。そこで「美人局」をお花に提案する。狙いはスケベな庄屋。お花も肝が据わり、庄屋を誘惑する。「二、三日、平兵衛は帰ってこないの。私、平兵衛をおっつけられて、淋しいわ」。まんまと庄屋は罠にかかり、酌をするお花の指、二の腕、脇の下、乳…柔らかいところをどんどん触ってくる。タイミングを見計らって、平兵衛が「庄屋!俺の女房に何している!」。

庄屋は驚いて、その場に倒れた。近寄ると、死んでいる。別に手を加えたわけでもないのに、心臓発作なのか、勝手に死んでしまった。どうしよう。平兵衛は庄屋の死骸を庄屋宅の庭まで運び、帯を解いて輪を作り、松の木に首を括る。そして、庄屋の女房に向かって庄屋の声色で「今、帰った。お花と会ってきた。いい女だった」。女房は当然怒る。「家に入れておくれ。入れてくれないなら、首を括って死のうかな」「死んでしまえ!」「じゃあ、そうします」。女房が外に出ると、平兵衛が松の木に首を括って死んでいる。どうしよう!?

女房は平兵衛に相談に行く。平兵衛は「それはあなたが殺したんだ。変死扱いで、お縄になり、御家は取り潰しになる」。女房は必死に「25両のヘソクリがここにある。なんとかしておくれ」。平兵衛は頬被りをして、庄屋の死骸を背負い、隣村へ。そこでは若い衆が盆踊りの稽古をしている。そこに平兵衛は庄屋を抱えて踊りの輪に加わり、お囃子に乗って踊る。冷たい庄屋の手が隣村の若い衆の頬に当たる。これが隣村の庄屋だと判ると、「邪魔しに来たな!」と皆でこてんぱんに殴って、とっちめた。

倒れた庄屋を見ると、死んでいる。大変だ、殺しちゃった!そこで自分の村の庄屋に駆け込んで、事情を話すと、庄屋は「平兵衛に相談だ」。平兵衛に相談に来た隣村の若い衆は「50両ある。何とかしてくれ」と頼む。そこで、「庄屋の爺さんは一本松の上に乗って小便をしようとしたら、足を滑らせて落ちて死んだ」ということにする。検死した医者も幸い藪で、問題は解決した。

一晩で庄屋の爺さんは三度死んで、平兵衛は75両儲かったが…。お花が魚屋から買ってきた河豚を食べて、平兵衛は死んでしまったという一之輔師匠による独自のサゲで噺を締めた。兎に角、平兵衛の算段が数珠繋がりで次々と展開していく様子が大変に面白かった。