落語一之輔春秋三夜 2025秋 第二夜「真景累ヶ淵 豊志賀の死」

「落語一之輔春秋三夜 2025秋~春風亭一之輔独演会」第二夜に行きました。「愛犬チャッピー」(春風亭昇太作)「真景累ヶ淵 豊志賀の死」「短命」の三席。開口一番は春風亭貫いちさんで「粗忽長屋」だった。

「豊志賀の死」は2009年に日暮里サニーホールの真一文字の会で初演したのを聴いて以来だと思う。当時、二ツ目だった一之輔さんの技量が追いついていない印象を受けたのを覚えているが、きょうの高座は素晴らしかった。

根津七軒町で富本節の師匠をしている豊志賀、三十九歳は男嫌いで通っていて、弟子も沢山いた。その弟子の一人で、下谷大門町で煙草屋をしている伯父の許で働いていた二十一歳の新吉が、女中が宿下がりをしたために、下男として選ばれ、住み込みで働く。師匠と弟子という間柄ではあるが、そこは歳が離れているとはいえ、男と女。やがて、深い仲となり、豊志賀が朝食の用意をして、下男の新吉の方が遅く起きるという立場逆転となる。

これが「ふしだら」だと噂が立ち、弟子の数が激減してしまう。ただ一人、羽生屋のお久という十九歳の娘だけは通ってきた。すると、豊志賀は新吉に会いたくて来ているのだろうと勘繰り、嫉妬に走る。もう来ないようにと、指導も厳しくなり、きつく叱る。だが、お久は挫けない。それがなおさら豊志賀の嫉妬を膨らます。

そのことが関係しているのか、豊志賀の右目の下に小豆粒の出来物ができ、それを引っ搔いたら、熱をもって腫れて、ジクジクと膿が出るようになる。お岩同様の顔になった豊志賀を医者に診せるが、薬も効かず治る気配がない。何も口にせず、瘦せ衰え、看病する新吉に「もう死にたい」と弱音を吐く。「根気よく治療すれば治るよ」という新吉に対し、「気休めはやめておくれ」。そして、「私が死ねば、新さんは嬉しいんだろうよ。若くて綺麗で大好きなお久と一緒になれるものね」。新吉は「何もない」と否定するが、聞く耳をもたない。

お久が炒り豆腐を持って、見舞いにやってきた。「お加減はいかがですか」と問うお久に「おいおいと悪くなる一方だよ」と豊志賀は答える。そして、「お前と私は弟子と師匠だ。何で見舞いに来ないのか」と詰め寄る。新吉が「お久さんは毎日来ているじゃないか」と言うと、「それは新さんに会いにきているんだろう」と嫌なことを言うばかりだ。

新吉も看病疲れになる。食事をしようとすると、寝床から這い出してきた豊志賀が後ろからやってくる。寝ようと思い、床でウトウトしていると、いつの間にか豊志賀が馬乗りになっている。困り果てた新吉は大門町の伯父に相談しようと考え、家を出た。

道でバッタリ、買い物に出たお久と出会う。新吉はお久を誘い、蓮見寿司という店の二階にあがる。お久は「父も母も新吉さんのことを偉いと褒めていました」。新吉は毎日恨み言ばかり言われて、ホトホト嫌になっているとこぼす。下総に親戚がいるので、そこに世話になろうかと考えていると明かすと、お久も継母に苛められ、下総の叔父にこっちに来ないかと言ってくれているという。新吉は「一緒に下総に行こう。逃げよう」と言うと、「師匠の世話は誰がするんですか」と訊く。「十分恩返しした。師匠は誰かが面倒を見るだろう。お久さんのことの方が大事だ。逃げましょう」と新吉が言うと、突然お久の顔が豊志賀に変わり、「あなたは不実な人ですねえ」と襲う。

新吉は慌てて店を出て、大門町の伯父のところへ。伯父が新吉を叱る。「師匠は新吉に苦労をかけた、好きな人がいれば一緒になってくれたらいい、月々に幾らかの金は援助する、だから看病してもらいたい、何とか意見してくれと膝にすがって泣くんだよ。お前、奥にいる師匠に謝りなさい」。新吉は奥の間へ行く。豊志賀は「新さん、どこに行っていたんだい。怖くなってきた。私が悪かった。どうか、捨てないでおくれ」。承知した新吉は豊志賀を駕籠に乗せる。

そこに長屋の衆がやって来る。「師匠が死んだ。刃物で首を掻っ切って。早く来てくれ」。困惑する新吉。駕籠を見ると、誰も乗っていない。だが、駕籠屋が肩を入れるとズシリと重い。「師匠の念がここまで来たんだ。恨んでいるぞ」。

新吉と伯父は根津七軒町まで戻ると、自害した豊志賀が台所で倒れていた。血糊だらけになった部屋に、一本の書付が遺されていた。「あなたは不実な人だ。女房になる女は七人までも取り殺す」。昨夜の「宗悦殺し」に続く、「真景累ヶ淵」の抜き読み。素晴らしかった。