落語一之輔春秋三夜 2025秋 第一夜「真景累ヶ淵 宗悦殺し」

「落語一之輔春秋三夜 2025秋~春風亭一之輔独演会」第一夜に行きました。「二個上の先輩」(林家きく麿作)「真景累ヶ淵 宗悦殺し」「味噌蔵」の三席。開口一番は春風亭いっ休さんで「金明竹」だった。

「宗悦殺し」ネタおろし。三遊亭圓朝作品を忠実に丁寧に演じて、とても聴き応えがあった。按摩の皆川宗悦は早くに女房を亡くしたが、十九になる志賀と十七になるお園の二人の娘がいるところから導入する。暮れの寒い晩なのに、宗悦は性質の悪い小石川の旗本、深見新左衛門のところに貸している金の取り立てに行くと言う。娘たちは止めたが、宗悦は頑固に「今度こそ返済してもらう」と聞かないで出て行った。

深見のところには奥方のほかに下男の三吉と門番の勘蔵がいる。金を返さないくせして、湯豆腐で一杯やっている。訪ねてきた宗悦に「一献参らぬか」と酒を勧め、宗悦もこれを受けるが、肝心の要件をはぐらかされないように必死だ。「どうか、利息の半分でもいいので、ご返済を」と頭を下げるが、深見は「心得ておる。必ず返す。心配するな」と言うので、「いつですか」と訊くと「そのうちに」と誤魔化し、挙句には「ない袖は振れぬ。春永まで待て。返せるときに返す」。

「武士に二言はない」と言うので、宗悦が「その言葉は何度も聞きました。二言ほど当てにならないことはない」と反発する。すると、深見は「無礼討ちに致すぞ」と言うので、宗悦は「これは面白い。催促して手討ちですか。聞いたことがない。それが通れば、世の中の金貸しは皆、首なしです」。そして、「手討ちに致しませ。二言はないのでしょう?」と挑発すると、深見は刀を取り出し、宗悦の肩先から乳の下にかけて斬ってしまった。

峰討ちにするつもりが、酔った勢いで鞘を抜いてしまったのだ。奥方が駆け寄り、「あなた!なぜ、お手討ちに?」。深見は三吉に葛籠を買い求めに行かせ、宗悦の死骸を油紙に包んで、中に入れた。そして、三吉に五両を渡し、「この葛籠をどこかへ持って行け。お前は二度と屋敷に戻ってくるな。もし、このことが露見したら、お前の命はないぞ」と脅し、追い払ってしまう。

三吉は葛籠を背負って、根津七軒町の自身番の脇に放置して逃げてしまった。これを駕籠屋の二人が見つけ、中を開けると、血みどろの坊主頭の死骸が!「大変だ!」。このことを宗悦の娘に知らせ、「父は深見様のところに行った」と言うので、深見に訊くが「知らぬ」の一点張り。斬られ損である。

深見の奥方は気の毒に思い、「申し訳ない」と気鬱の病で床に伏してしまった。長坂一斎のところに剣術修行に行っていた長男の新五郎が母の看病のために戻ってきた。同時に、元深川芸者のお熊という女を女中に雇う。お熊は新左衛門の酌の相手をしているうちに、二人は深い仲となり、新左衛門の子を身籠った。すると、お熊は段々大きな顔をするようになり、奥方を邪険にし、新五郎を叱責する。新五郎は勘蔵に「母上を頼む」と言い残し、出ていってしまった。

奥方の病状は悪化するばかり。「苦しい」と訴えるので、按摩を呼んだ。鍼治療すると、「楽になった」。二日目も鍼のお陰か、良くなる。だが、三日目にみぞおちのあたりに鍼を打ったのが、大層痛いばかりか、そこからジクジクと膿が出て、熱を持ち、病気はまた悪化する。しかも、その按摩は二度と来なくなった。

十二月二十日、雪。汚いなりの痩せた按摩が笛を鳴らしていたので呼ぶ。病人の治療の経験はなく、鍼も出来ない。揉み療治なら出来ると言うので、深見新左衛門は「わしの肩を揉め」と命じる。だが、「力を入れろ」と言うのに、全くの不足で、「これでは金は払えない」。すると、「こんな調子ではいかがですか」と、今度は一転して「痛い!」。その按摩が「一年前に斬られたときは、こんな痛さじゃありませんでした」。

深見が振り返ると、その按摩は…「宗悦!迷うたか!」。刀を抜いて斬り付ける。すると、それは奥方で、「あなた、なぜ私を…恐ろしい方…」。深見は訳が分からずに、刀を振り回し、血刀を持って暴れ回る。深見新左衛門はご乱心ということになり、御家は取り潰しとなった。

深見の次男、新吉は勘蔵が引き取った。この後、宗悦の娘、志賀とお園、それに新左衛門の息子の新五郎と新吉が不思議な縁で絡んでいく。「真景累ヶ淵」の発端ですと締めた。ネタおろしとは思えない、良い出来だった。