立川笑王丸の道をひらく「妲己のお百」、そして吉笑昼席 立川吉笑「くしゃみ指南」

「立川笑王丸の道をひらく」に行きました。「牛ほめ」と「妲己のお百」の二席。ゲストは立川笑二さんで「茶の湯」だった。

「妲己のお百」。今年二ツ目に昇進したばかりとは思えない、素晴らしい高座に舌を巻いた。主人公の元辰巳芸者の美濃屋の小さんを冒頭で、実は大坂雑魚場で亭主の桑名屋徳兵衛を殺し、秋田佐竹藩の殿様の愛妾として御家乗っ取りに加担もした毒婦、妲己のお百であるという素性を明かしているのが、まず良い。この後も、随所で登場人物について説明臭くない程度にわかりやすく紹介しているのが親切だと思った。

箱屋の半助に命じて、門付けの母娘を招き入れるが、盲目の母が元は芸者で太田屋の峰吉だと知ると、優しく接する。春日部の大黒屋の旦那に身請けされたが、この旦那が道楽者で山のような借金を拵えたまま亡くなり、峰吉は娘のおよしと夜逃げ同然に江戸へ出て来て、木賃宿を転々としているが、貧乏が祟って盲目になってしまった。そんな身の上を可哀想に思った小さんは「家の二階にいたら良い」と手を差し伸べ、その上に麹町の小林大忠という眼科医を紹介して、入院までさせる。手紙によれば「目が徐々に良くなっている」という。ここまでは情け深い小さんである。

だが、それは小さんの策略だった。一芝居打つのである。本所に住む達磨の喜六に「春日部から来た穀物問屋大黒屋卯兵衛の分家の遣い」甚吉になりすましてもらい、峰吉の死んだ亭主が借りた百両の借金の取り立てという名目で、小さんの許を訪ねさせるのだ。証文には「返済できないときは、娘のおよしを貰い受ける」と書いてあるところまで、すべて真っ赤な嘘である。だが、およしはそのことを信じて父親の拵えた借金なら仕方ないと言って素直に喜六に連れていかれる。そして、器量良しということもあり、二百両で吉原に売った。

麴町で療養していた峰吉は「目が段々と良くなった様子を娘およしに見てもらいたい」と小さんの家にやって来る。小さんは「およしは蔵前の札差、三浦屋のお嬢様の相手役がほしいと言われ、今は蔵前に行っている」と嘘をつく。だが、峰吉はおよしが帰ってくるのを待つと言って、小さんの家の二階に居座る。「目のためには麹町に戻った方がいい」と言うが、峰吉は頑として聞かない。小さんは泣き喚く峰吉が邪魔になり、「うるさい!」と言って責め折檻をして、飯も食わせず、邪険にする。こうなったら、一服盛るか…。

タイミング良く、小さんの許を訪ねてきたのは秋田小僧の重吉だ。小さんの亭主、美濃屋重吉というのは世を忍ぶ仮の名で、本性は佐竹様から千両盗んだ大泥棒の彦五郎。重吉はその子分である。二階で泣き喚く峰吉についての一部始終を小さんは重吉に耳打ちすると、「頼むから、やっちゃっておくれ」。重吉は気味悪がって、躊躇うが、「十両やるよ」と言われ、引き受ける。二人は口裏を合わせ、「小間物屋の重吉さん」「およしは札差のお嬢様と一緒に綾瀬の別宅にいる」ということにして、「お供してお連れしましょう」。

重吉は峰吉を連れ、綾瀬の土手の夜道を雨の中歩いていく。「あそこが、およしさんのいる別宅ですよ」と言われ、峰吉が目を凝らして見る後ろに回って、手拭いを首に巻き付け、締め付ける。「冥途の土産に教えてやる。小さんというのは仮の姿、妲己のお百と怖れられる姐さんなんだ。悪い夢を見たと思って死んでくれ!」。抵抗する峰吉の脇腹を匕首で刺す。ぬかるんだ土手の土の上に倒れた峰吉に馬乗りになって背中をメッタ差しにする。息絶えた峰吉の死骸を大川へ投げ込んだ。そのとき、人魂が吉原に方角に飛んで行ったという…。非凡な才能を感じる笑王丸さんの迫力満点の高座だった。

「吉笑昼席~立川吉笑勉強会」に行きました。「くしゃみ指南」と「一人相撲」の二席。開口一番は立川のの一さんで「孝行糖」、ゲストは柳家小はださんで「権兵衛狸」だった。

「くしゃみ指南」は10月上旬に連雀亭で開いた「横山笑吉勉強会」で試作品として演じた(そのときは情報非公開という約束)ものだが、その後地方などの真打昇進披露などでも掛けているようで、「自分の持ちネタ」になったようだ。

八五郎が江戸を出て大坂で職人として一人前になろうと修業しているのだが、ある日親方から「郷に入っては郷に従え。大坂人らしくならなくてはいけない」と指導される。それは上方言葉でも、料理の味が薄いことに慣れることでもなく、「くしゃみ」の仕方だったという…。

八五郎のくしゃみは「可愛すぎる」、もっと低く太く豪快にハックションとやること、そして余韻があること、この二点が大事なのだという。親方が見本を示すのが可笑しい。ハックション、ボケ、カス…。さらに調子の良いときは、ハックション、ボケカス、チビデブ、マヌケ…。

金さんは今や大坂で一、二を争うくしゃみの名手とかで、ハクションとツバキ飛ばして春来たる…。俳句になっている!風流だなあ。さらに、ハクションとくしゃみしてさみしい…。自由律俳句だあ!早坂先生はハクションの余韻が円周率になっているという…。吉笑師匠らしい愉しい高座だった。