春風亭かけ橋「嶋鵆沖白浪」連続口演「松原の菊造斬り」「お虎の美人局」

配信で春風亭かけ橋「嶋鵆沖白浪」連続口演の第5回を観ました。

第9話「松原の菊造斬り」

喜三郎以下5人は三宅島からの島抜けに成功し、下総国銚子に辿り着いた。喜三郎とお虎は「馬刺しの菊造を討つ」という目的を果たそうと3人と別れた。八日市場の倉田屋文吉に挨拶に行き、七日逗留した後、成田の新勝寺に向かう街道筋で商人風の若い者が駕籠かきの雲助二人に強請られている。一朱や二朱の酒手では許してくれない。

そこに親分と思われる男が現れ、「お前さんのことは行徳のところから、ずっと目を付けていたんだ。見込まれたのが運の尽きだな。百両、出しな」と脅す。この男こそ、馬刺しの菊造。雲助二人はその子分で、竹、秀と呼ばれている。それだけでなく、強請られている若い男は喜三郎の弟の吉次郎だった。

喜三郎とお虎はタイミングを見計らって、菊造の前に現れる。「俺は芝山の仁三郎のところで厄介になった佐原の喜三郎だ」「あたしはお前さんたちに宿場女郎に売り飛ばされそうになったお虎だよ」。どれだけ長い間、お前さんのお陰で苦労したことか。菊造を一太刀で殺すのは勿体ない、なぶり殺しにしてやると、喜三郎とお虎が交互に刀で傷つけ、最後は喉元を刺して息絶えた。

吉次郎が「兄さんがこんな恐ろしい人だとは思わなかった」と言うと、喜三郎は「こいつの首を落とさないと男が立たなかった」。そして、喜三郎とお虎の出会いから今日に至るまでの深い仔細をお虎が吉次郎に話して聞かせる。吉次郎の父親は喜三郎にとっての実父ではない。後妻を持ったときの連れ子が喜三郎で、吉次郎はその後に生まれた子ども。喜三郎は「吉次郎に店を継がせたい」と、わざと道楽に走り、お天道様の下では顔を上げられない身の上になった旨を伝える。それを聞いて、吉次郎は自害しようとするので、これを止める。「お前が死んだら、店はどうなるんだ」。

吉次郎は「兄さんに戻ってきてもらえば、両親はどんなに喜ぶか、いつか兄さんが帰ってくるのではないかと待っていた、一緒に店を盛り立ててくれ」と言うが、喜三郎は首を縦に振ることはない。「俺は兇状持ち。博奕打ちになったところで、縁は切れている。店の敷居を跨ぐことはできない。わかってくれ」。すると、吉次郎は父親のものを仕立て直したという着物の袖を引きちぎって、喜三郎に渡す。「これを私だと思って持っていてください」。そして、喜三郎は「達者でな」と言って、お虎と二人で去って行った。

第10話「お虎の美人局」

喜三郎とお虎は浅草安倍川町の金太郎親分のところに寄って、馬刺しの菊造を討ったことを報告する。そして、八丁堀岡崎町の裏長屋に晴れて夫婦として住まった。しかし、仕事があるわけではない。暮らし向きは悪かった。喜三郎は浜町の博奕場に通うが、何の足しにもならない。

あるとき、お虎が湯に行った帰り道で見知った男を見かける。大坂屋花鳥として働いていたときの贔屓客、日本橋通四丁目の畳表問屋、十文字屋の番頭卯兵衛だ。早速、卯兵衛宛ての手紙を書いて、届けてもらった。喜三郎には「金を都合する算段がつきそうだ。うまいこと言って、少したらしこめばまとまった金になる」と説明する。

待ち合わせの場所は葭町の笹本。卯兵衛は花鳥との再会に驚くが、間夫の梅津長門のために火付けをしたという悪い噂を知っているから警戒する。すると、お虎は梅津は花鳥を自分だけのものにしようと吹聴していただけで、間夫でもなんでもない、他の男に色目を使ったら承知しないと脅されていた、あの火付けは梅津によるもので、私は冤罪だと主張する。それが証拠に三宅島に遠島されていたが、御赦免で再び江戸へ戻ることができたと説明する。

天涯孤独と言っていたが、実は道楽の末に勘当になった兄がいて、今はその兄夫婦の住む八丁堀岡崎町に住んでいる、だが兄嫁に「穀潰し」と邪険にされて困っている、いっそ吉原に戻ろうかとも思っていると訴える。

すると、卯兵衛は「もうすぐ暖簾分けになる。そうしたら、一緒になろう。お前の役に立ちたい。何でもする」と乗り気になる。お虎は嬉しそうに「情けをかけてくださいますか」。一夜を共にした。だが、卯兵衛が朝目覚めると、お虎がいない。「はめられたか…」と思い、紙入れを確認すると、盗まれたようでもない。ただ、煙草入れがなくなっていた。「これは今宵限りではないということではないか。また会うための口実に持って行ったのだろう」と好意的に解釈した。

お虎は上々の首尾だったことを喜三郎に報告。「あとはこれが五十両になるか、百両になるか、お前さんの腕の見せ所だよ」。早速、喜三郎は大文字屋を訪ねる。「妹の虎が世話になった」と卯兵衛に礼を言い、「家を一軒持たせてくれるとか」。慌てた卯兵衛に対し、「それはお断りにきました。その代わりに金子を少々いただきたい」。卯兵衛が「月に一両か二両渡すと話したが」と言うと、「そんな目腐れ金じゃない。百両ばかり、いただきたい。お虎は喜んでいました。いいことをしたんでございましょう?」。そう言って、煙草入れを見せる。「これは届けにきたんじゃない。貰うものを貰わないと帰れない」。

それでも愚図愚図している卯兵衛に痺れを切らした喜三郎は「お虎が妹とは真っ赤な偽り。お虎は俺の女房だ。他人の女房を寝取って知らぬ顔するなら、お上に訴えるぞ。不義密通は死罪だ」と脅す。すると、卯兵衛の後ろの唐紙が開いて、男が現れる。喜三郎と瓜二つの顔をしている。「日本橋干物町で素読指南をしている浪人の春木道斎と申す」。

一方、馬喰町の宿屋に泊まっている上州沼田の在の与市兵衛のところに、姪のお峰が訪ねてくる。お峰の父は大恩寺前で殺された与兵衛の娘だ。父の仇を討つと江戸へ出て、奉公している。「仇の名前が判った」ので、諸国行脚して探したいという。お峰は与市兵衛と蕎麦屋で食事をした後、奉公先の日本橋干物町の素読指南をしている春木道斎の長屋に帰ると、部屋で女の声がする。耳を澄ますと、「春木道斎先生に会うのは初めてですが、番町の御前と会うのは久しぶりです。梅津長門様…」と聞こえてきた…。喜三郎が出会った春木道斎と、お峰が奉公している春木道斎。それが梅津長門!?興味津々となったところで、十二月の最終回へと楽しみをつなげた。