集まれ!信楽村 柳亭信楽「寿司にぎる。」「イワヌマン」、そして月刊少年ワサビ 柳家わさび「地球の代表」「出待ち」

「集まれ!信楽村~柳亭信楽勉強会」に行きました。「寿司にぎる。」「イワヌマン」「不動坊」の三席。開口一番は柳亭いっちさんで「かぼちゃや」だった。

「寿司にぎる。」は、今月の渋谷らくご、新作ネタおろしの会「しゃべっちゃいなよ」で披露した作品。そのときの演目名は「にぎり寿司」だったが、改題してバージョンアップしている。

兎に角、寿司屋の大将の「お客様の視力を少しでも良くしたい」と願って40年間寿司を握り続けてきたという想いが滅茶苦茶可笑しい。結果、「眼鏡には敵わない」と店を閉じるという…。弟子のケンジには暖簾分けさせたが、それは眼鏡屋というのが理屈に適っている。でも、ケンジは「寿司屋をひきずっちゃって」、眼鏡の商品説明など、皆寿司に喩えてしまうクスグリのディテールが信楽さんのセンスの冴えわたるところで、僕はこういうナンセンスだけど筋が通っている新作が大好きだ。

「イワヌマン」。宮城県岩沼市のために創った“ご当地落語”なのに、岩沼市はこれを却下し、上演禁止にしたという。なるほど、信楽さんの諧謔精神が貫かれていて、岩沼市がNGにする言い分も判るが、僕は傑作落語だと思う。

岩沼市のセールスポイントは「話題性はないが住みやすい」。そこに魅力を感じて東京から移住してきた家族が休日にお出かけしたのは、国道6号線と4号線の交差点。日本三大稲荷の竹駒神社ではなく、ここを選んだのも何も話題性のないから(笑)。ところが、そこに仙台の闇組織ブラックターンが襲撃してきた。全身黒タイツの悪役ダテビルと手下のツッキーたちがトモくんを誘拐して、頭蓋骨を分解し、中の脳みそと仙台銘菓萩の月を差し替え、ツッキーに改造するという…。

ママは岩沼係長に通報すると、正義のヒーロー、イワヌマンを出動させるという。話題性がないことが売りの岩沼市はイワヌマンの存在自体を隠していたというのが可笑しい。だが、出動させるのに、書類作成やら上司の印鑑やら、いかにもお役所仕事らしい手続きがかかるというのも皮肉が効いている。ようやくイワヌマンが現れ、ブラックターンを撃退し、トモくんは助かった。この事件を知って岩沼新聞が駆けつけたが…。「話題性のない町」らしい結果に終わるサゲといい、信楽さんのセンスが光る作品だ。

「月刊少年ワサビ~柳家わさび独演会」に行きました。「反対俥」「地球の代表」「権兵衛狸」「出待ち」の四席。

「地球の代表」は「ステマ」「センチメンタル」「大一番」による三題噺。僕は恥ずかしながら、ステマという言葉を知らなかった。ステルスマーケティング。広告や宣伝であることを隠して行われる不当なマーケティング手法をいうそうだ。簡単に言えば、芸能人が「この化粧品いいのよ」とブログに書いている裏で化粧品会社が広告費を支払っているというようなことだろうか。最近では意味が広がって、選挙活動などにおいてSNSを利用したステマも話題になっているという。

ストーリーはSFだ。宇宙人によって全人類は地球を出て他の星に移り住まなくてはいけない危機にさらされた。ある夫婦も引越しのために荷造り作業をしていて、思い出がつまった色々なモノに対してセンチメンタルな気分を抱いている。

宇宙人はあるチャレンジに成功すれば、人類が地球を出なくても良いというチャンスを与える。宇宙人に地球を奪われずにすむ大一番に臨む“地球の代表”を選挙で選ぶことになった。宇宙人によれば、そのチャレンジの難易度は「けん玉を中皿に乗っけることができる」程度としている。じゃあ、毎年紅白でけん玉に挑戦している演歌歌手にすれば…と思うかもしれないが、それはあくまでも難易度の喩えであって、チャレンジはけん玉というわけではない。

そして全世界の中から地球の代表に選ばれたのは、日本人のオオイズミシンジロウさん。オオイズミさんが世界中継で発表したところによると、そのチャレンジはけん玉を大皿に乗っけることだった…。なんだ、けん玉だったのかよ!だが、その後にオオイズミさんから重大な発表があった。「私はステマでした」。宇宙人と結託していたのか?

実は宇宙人もステマ詐欺に遭っていたという。「地球は良い星だ」「五つ星だ」というステマに乗せられて、地球を侵略しようと考えていたのだった。だが、地球は化学薬品で汚染されていることを知り、人類から地球を奪うことをやめたという…「オセンチ」落ち。面白かった。

「出待ち」は何度聴いても良く出来た作品だ。高校三年生のヤマダ君が所属する太宰治研究部は部員がヤマダ君ただ一人。文化祭で何をするか。顧問の先生が体育館で朗読を披露したらどうかと提案。「お前の朗読を聞いて出待ちが出るかもしれないぞ」とそそのかされて、気弱なヤマダ君のモチベーションが上がり、「人間失格」の15分間朗読に挑戦することになる。

不良学生に「人間失格」を「機関車トーマス」に差し替えてしまう悪戯をされるが、ヤマダ君は「人間失格」をそらんじていて、見事に15分間を乗り切る。見事なステージにスタンディングオベーションが起きた。そして、影アナを担当していた女子生徒がファンレターを渡してきたのをはじめ、新聞部や演劇部などに取り囲まれて、ヤマダ君はヒーローになる!傑作である。