春風亭かけ橋「嶋鵆沖白浪」連続口演「大坂屋花鳥」「伝馬町女牢」

配信で春風亭かけ橋「嶋鵆沖白浪」連続口演の第3回を観ました。
第5話「大坂屋花鳥」
八日市場の倉田屋文吉をお虎が訪ねるも、喜三郎の行方がわからないという。いっそ、江戸へ戻ることにするが、おっかさんが病死してしまった。天涯孤独の身になったお虎は借金返済のために、吉原に身を沈め大坂屋で花鳥を名乗る。その美貌ゆえ、売れっ子となり、全盛を極める。
ある日、旗本の梅津長門が客としてやって来る。仲間に無理やり連れて来られたのだが、花鳥花魁が長門の顔を見て驚く。喜三郎に瓜二つなのだ。いい男といい女、お互いに惹かれ合い、長門は吉原に通い詰める。そのうち、取り巻き連中が博奕に誘い、番町の旗本屋敷は博奕場になった。吉原に博奕、金が続かない。50両の借金を抱える。
伯父に借りようと訪ねるが、逆に不行跡を咎められてしまう。仕方ない。番町へ帰るか。でも吉原に足が向く。花鳥に会いたい。とぼとぼと坂本の通りを歩いていると、田舎の大尽と幇間の二人連れが浮かれている。どうやら200両ほど所持しているらしい。金のないのは首のないのに劣る。長門は大恩寺前で大尽を襲い、斬り殺して、200両を奪ってしまった。
浅草田中町の御用聞き、木村屋金蔵の子分の竹次郎が通り掛かって死骸を見つける。まだ生温かい。見ると、人影がある。こいつが下手人か。その人影に近づくと、見知った顔だった。「梅津の御前ではないですか」「久しぶりだな。一緒に吉原に行くか?」。竹次郎はこれを断り、足を速めて大門をくぐる。梅津が近江屋を経て大坂屋に行くのを見届けた。
竹次郎は金蔵親分に手柄を立てさせようと、田中町へ。大恩寺前で物取りの人殺しがあった、下手人は梅津長門だと報告する。金蔵は子分10人を連れて近江屋へ。「今晩、梅津が来たろう?変わったことはなかったか」と訊くので、近江屋主人はこれまで溜まっていた借金の50両をそっくり支払い、大坂屋へ送り込んだと言う。
大坂屋へ。御内所にいる主人に「花鳥を呼べ」。二階にいた花鳥花魁が降りてくる。金蔵が仔細を話すと、「何かの間違いでは」ととぼけるが、酒を飲ませて寝かしつけろと命令する。「男を逃がそうなんて変な了見は起こすなよ」。
花鳥は慌てて二階の長門の部屋へ行く。表も裏も手配りは済んでいる。一緒に布団に入って寝たふりをして、声を掛けるまで部屋を出てはいけないと言うが、廊下でバタバタと足音が聞こえる。襖を開けると、花鳥の人影。その下が赤く燃えている。「火を付けたのか」「火付けくらいは何の雑作もない。わちきのことを忘れないでおくれ。見捨てると恨むざますよ」。
長門は鉄瓶を持って、捕り手たちを振り払い、店を出て、お歯黒溝を越え、吉原田圃に逃げた。「花鳥、すまない…」。そう言って、紅蓮の炎が冬の夜空を焦がす中、走り去っていった。
第6話「伝馬町女牢」
大坂屋から出火した火事は夜明け前に鎮火した。根岸では金蔵が花鳥に対し、「よくも煮え湯を飲ましてくれたな」と厳しい取り調べをおこなった。梅津はどこだ?しかし、当時は物的証拠があっても、自白主義のため、死罪にはできない。花鳥は伝馬町の女牢に送られ、さらに厳しい拷問をされる。だが、花鳥は決して口を割らない。
牢名主のお鉄婆が花鳥ことお虎に対し、「肝の据わった女だね」と感心し、気に入った。矢柄攻め、鉄砲攻め、海老攻め、石抱き…。獄卒にいくらかを握らせ、口の中を噛み切り、気を失うふりをして、「何も存知ません」を貫く。お虎は八月に三宅島への遠島が決まった。
お鉄婆の後ろ盾で牢名主となったお虎。門番に袖の下を渡し、別れの酒宴が開かれる。「何か、色っぽい話はないのかい」とお虎が言うと、お嬢お兼と渾名された元は番町旗本の娘が話をする。十七のとき、隣屋敷の梅津の若様と人目を忍ぶ仲になった。梅津長門。このことが二親に知れ、本所の伯父の屋敷に預かりの身となったが、その伯父が人間の皮をかぶった畜生で、この私を慰みものにした。
以降、私は落ちぶれ果て、客を取るような商売をはじめた。去年の大晦日、葭町で人とぶつかった。それが長門様だった。事情を話すと、二人で一緒に暮らそうということになり、一つ屋根の下で夫婦同様の暮らしをはじめた。だが、手入れが入り、私は牢に入れられた。早く娑婆に出て、長門様に会えるのを楽しみにしているのです。
この話を黙って聞いていたお虎は「面白かった」と言って、お兼を可愛がった。そして、酒宴が終わる。皆が寝静まった頃、お虎はお兼の傍に行く。その様子を見ていたお鉄婆が「その女を殺すなら、首を絞めるのはやめておきな」。お兼が話していた旗本とお前は何かあるんじゃないか?と鋭く突く。お虎は「吉原にいたときの間夫で、困ったところを火付けをして逃がしてやった」と答える。
私のことを探してくれていると思ったのに、昔の女と一つ屋根の下で夫婦同様の暮らしをしていたとは…許せない。こう言うお虎に向かって、お鉄婆は「手伝ってやるよ」。殺すんだったら、濡れ紙を口元にかぶせるといい。そうすると、気が付いたときには息が出来なくなっている。首を絞めると跡が残るが、この方法だと証拠が残らないと教えてくれたのだ。
お虎はお兼の口元に濡れ紙をかぶせ、苦しむ顔を目に焼き付けながら、お兼が息絶えるのを見届けた。お鉄婆は「気が済んだかい?」。お兼の死を門番に伝えると、病死と判断された。そして、八月を迎え、お虎は三宅島へ向かう流刑船に乗った。