新宿末廣亭七月上席 神田松鯉「雨夜の裏田圃」

新宿末廣亭七月上席七日目夜の部に行きました。今席は神田松鯉先生が主任を勤め、怪談を読む毎年恒例のネタ出し興行だ。①②番町皿屋敷③④乳房榎⑤⑥お岩誕生⑦⑧雨夜の裏田圃⑨⑩小幡小平次。きょうは「雨夜の裏田圃」だった。
「寿限無」三遊亭げん馬/「井伊直人」神田松麻呂/漫談 ねづっち/「子ほめ」三遊亭円楽/「マイフレンド」笑福亭羽光/コント 山口君と竹田君/「浮世床~本・将棋」三遊亭円馬/「小政の生い立ち」神田阿久鯉/漫謡 東京ボーイズ/「浜野矩随」神田伯山/中入り/「血煙高田馬場」坂本頼光/「男はつらいよ」玉川太福・玉川みね子/「七度狐」雷門小助六/曲芸 ボンボンブラザース/「雨夜の裏田圃」神田松鯉
松鯉先生の「雨夜の裏田圃」。麴町平河町三丁目の医者を名乗る村井長庵の悪党ぶりが光る。姪のお小夜を吉原の松葉屋に売り飛ばして60両をせしめたとき、請け判を引き受けた馬道の三次が「約束の五両のうち、二両しか貰っていない。残りの三両をくれ」と訪ねてきたところが幕開きだ。
「三両どころか、十両やるから、頼みを聞いてくれないか」と長庵。お小夜の母親、つまりは長庵の妹のお登勢が「娘に会いたい」と来て五月蠅い。今、二階にいるから連れ出して、殺してくれないかという。三次は悪党だが、人を殺したことはない。躊躇ったが、金がほしい。「前金でくれ」と頼むが、「病人を診た代金が間もなく届くから、先に殺ってくれ」と長庵に丸めこまれた。
三次は松葉屋の若い衆を装って、「吉原まで案内する」とお登勢を連れ出した。「どこでやっつけようか」と思案しながら歩いていると、下谷坂本まで出た。「あそこに灯が見えるのが吉原ですよ。不夜城ですからね」。蕎麦屋を見つけ、そこに入店。お登勢に蕎麦を食わせ、自分は生卵に穴を空けて中身を吸いながら酒を二合飲んで勢いをつけて店を出た。
そして、田圃に出ると、懐に忍ばせていた出刃包丁でお登勢の後ろに回って、肩から斬り付ける。さらに前に回って、ズブリと胸を刺した。「長庵に頼まれたんだ。恨むなら、長庵を恨んでくれよ」。そう言って、雨の中を三次は平河町の長庵宅まで走って帰ってくる。
長庵が三次に言う。「お前、余計なことをくっちゃべりはしなかったか。長庵に頼まれたなどと言わなかったか。お前がお登勢を始末した時分に、行燈からお登勢が出てきたんだ」。三次は正直に「つい…」「馬鹿野郎!」。
それでも、「仕事」をして来た三次は「約束の十両」を要求する。すると、長庵は「お前に謝らなきゃいけない。届くはずの十両が届かなかったんだ。ちょいと足りないが許してくれるか」。そう言って、長庵が三次に渡したのは一分金たった一枚。「約束が違う」という三次に、「それしかないんだ。あればやっている」を貫く長庵。「騙しやがったな!ただですむと思うな。奉行に訴えてやる。俺は死罪になるだろうが、お前も同罪だ」と三次は凄むが、長庵は「兄が実の妹を殺すなんてことをお上が信じるか。三次が色と欲で殺したと舌先三寸で言いくるめれば俺は無実になる」。三次は「畜生!覚えていろ!」と雨の中、馬道の自宅へと帰る。
長屋の木戸が締まっている。隣の婆さんを叩き起こし、木戸を開けてもらう。その婆さんが言うには、三次の家の前でガタガタと音がして、薄汚い女が立っていた、ざんばら髪で、口から血を流していた…。そして、こう言ったという。「三次さんにはお世話になりました。御礼を言いにまいりました。お登勢と申します」。木戸は締めたのに、どこから入ったのか。やがて、姿が見えなくなったという…。
三次は家に入り、寝床に就く。すると、消したはずの行燈の灯が点き、向こう側にお登勢の姿が浮かんだ…。最後の部分は幽霊三重が演奏され、場内が真っ暗になり、松鯉先生が懐中電灯で自分の顔だけを照らす。そして、客席後方から前座の幽太が二人現れ、客席を驚かす。夏の風物詩、怪談寄席興行を愉しんだ。