和泉の新作十日間 弁財亭和泉「東京―新大阪」「冷蔵庫の光」

上野鈴本演芸場六月中席初日夜の部に行きました。今席は弁財亭和泉師匠が主任を勤め、「和泉の新作十日間」と題したネタ出し興行だ。①東京―新大阪②冷蔵庫の光③プロフェッショナル④謎の親戚⑤私が私が⑥ラジオデイズ⑦匿名主婦只野人子⑧もものパフェ⑨夏の顔色⑩試食の女王。きょうは「東京―新大阪」だった。

奇術 小梅/「楽しい山手線」古今亭駒治/「高砂や」古今亭文菊/漫才 ニックス/「山奥寿司」三遊亭白鳥/「親子酒」桃月庵白酒/中入り/ジャグリング ストレート松浦/「あるあるデイホーム」林家きく麿/浮世節 立花家橘之助/「東京―新大阪」弁財亭和泉

和泉師匠の「東京―新大阪」。小学1年生のショウイチとパパとママが大型連休初日に東京から大阪のユニバーサルスタジオジャパンを目指して二泊三日の旅行に出る噺。日光江戸村ばかりでUSJに行ったことがなかったショウイチにとっては念願の旅行だ。混雑極まりない東京駅で、ようやく新幹線のぞみ号指定席に座ったところ、夫婦の会話が面白い。

東京駅で買ったお弁当はいつ食べるべきか。新幹線が動き出して、窓の景色を楽しみながらだろうと主張するパパに対し、ママの考えがユニークだ。私は崎陽軒のシウマイ弁当を買った、新横浜より手前で食べないと意味がない。なぜなら、夜中に一所懸命に横浜で作った弁当をドライバーさんが東京駅に運んでくれた、それを新横浜を過ぎてから食べるのは皆の努力が無駄になる。人としてどうか、と言うのだ。

パパは冷静に「崎陽軒の工場は東京にもある」と言って、弁当の底のシールを見ると「製造元:江東区大島」とある。ウッヒャー!ママは「裏切られた」と落胆し、崎陽軒の株が大暴落したと嘆く。そういうパパが買ったのは米沢の牛肉ど真ん中弁当。JR東日本の弁当をJR東海の新幹線で食べてJR西日本の大阪に向かう。これで東西を制覇した気持ちになれるという…。ちなみにショウイチは仙台の牛タン弁当を買って、直江兼続と伊達政宗で大坂出陣だ!というのも愉しい。

三人の着替えなどが入ったスーツケースは通路側に座ったパパが上の棚に上げた。だが、その中に入っていた水筒やら、除菌シートやら、本やらを取り出したいとママが言い出し、新大阪に到着するまでパパは12回も上げたり下ろしたりして、すっかり疲弊してしまった。牛肉ど真ん中弁当も半分も食べきれなかったというのが可笑しい。面倒なのでパパは足元に置いておこうと試みたのだが、前のおばさんがリクライニングシートを思い切り倒してきて、結局上の棚に上げざるをえなかったのだ。

旅行のスケジュールが過密なのも笑える。大坂城→なんばクランド花月→予約してあるお好み焼き屋→通天閣→USJ近くのホテルに宿泊→早朝起床して人気アトラクションのために並ぶ→有馬温泉でもう一泊。休んでいる暇などない!ママは東京で人混みに文句を言っていたが、大阪も同様の人混み。ショウイチの一言が皮肉で良い。「人が多い、多いと言っているけど、僕たちもその一人だよね。それをママは気づいていない」。和泉師匠は現代社会を切り取るのが巧い。

上野鈴本演芸場六月中席二日目夜の部に行きました。今席は弁財亭和泉師匠が主任を勤め、「和泉の新作十日間」と題したネタ出し興行だ。きょうは「冷蔵庫の光」だった。

「かぼちゃ屋」柳家ひろ馬/「マッチングアプリ」鈴々舎美馬/奇術 小梅/「西武家の一族」古今亭駒治/「一目上がり」古今亭文菊/アコーディオン漫謡 遠峰あこ/「睨み合い」林家彦いち/「権助魚」桃月庵白酒/中入り/漫才 ニックス/「首領が行く」林家きく麿/浮世節 立花家橘之助/「冷蔵庫の光」弁財亭和泉

和泉師匠の「冷蔵庫の光」。台所、特に冷蔵庫の中は私の聖域と言い張る妻に対し、思い切って賞味期限の切れているもの等は処分しようと提案した夫とのやりとりが「家庭内あるある」で実に面白い。新発売の胡麻入りレモン風味ドレッシングを買って来て、これまでのゆず風味とは違うのだという妻の発言が発端なのが可笑しい。

冷蔵庫の中に、一体何種類のドレッシングがあるのか。イタリアン、シーザー、サウザンアイランド、フレンチ、和風…。妻は「ドレッシングは何本あってもいい」と言って、ただの野菜にかけるだけでそれが料理になる、ドレッシングは魔法だ、豆腐や納豆にかけてもいい、万能なんだと主張するが…。「お前、納豆にドレッシングをかけたことあるか?」。

賞味期限の定義を変えてしまうのが冷蔵庫だという。「開封後はお早めにと書いてある」と言う夫に対し、「冷蔵庫を信じて、自分を信じれば賞味期限の先の期限は永遠になるのだ」と言い切る妻が可笑しい。

夫が妻の聖域である冷蔵庫の中を点検する。賞味期限から三か月経ったものは棄てるぞ!ドレッシング各種に加え、生姜焼きのタレ、焼肉のタレ、ポン酢は3年も経っている!玉子収納スペースにある小袋。たとえば、この納豆についているからしはいつ使うのか?マヨネーズと混ぜてハムサンドや玉子サンドに塗ると、チューブのからしよりも美味しく出来上がるのだと妻は主張するが…。ワサビも10袋以上、その他鰻のタレ、焼き鳥のタレ…とことん棄てるぞ!と夫の勢いは止まらない。

野菜室。ジャガイモは芽が出ている、この黒い野菜はゴボウかと思ったらニンジンか、ビニール袋の中の緑色の液体は液状化したキュウリ。冷凍庫。製造年月日が平成の干物、霜の塊から出てきたのはハーゲンダッツ、そして大量の保冷剤…。

本丸の棚の奥から謎の瓶詰め、道の駅や空港で買ったものだ。カピカピになった使いかけの湿布、冷えピタシート。極め付けはノーラベルの瓶。土井先生のレシピで作った万能タレだ。一回も使わずに放置されていたが、防腐剤が入っていないから腐っている!その存在すら忘れていた妻は「これは私に棄てさせてください!」と申し訳なさそうなのが共感できる。

こうやって、思い切って不要なものを強制的に処分した冷蔵庫は神々しく見えるという妻の言葉が素敵だ。詰め込めるだけ詰め込んで真っ暗な闇のようになっていた冷蔵庫から光が差しているように見えるという言葉の選択は、主婦である和泉師匠の感性そのものだと思った。