春風亭かけ橋「嶋鵆沖白浪」連続読み「喜三郎とお虎」「芝山の斬込み」

配信で春風亭かけ橋「嶋鵆沖白浪」連続読みの第1回を観ました。談洲楼燕枝作品を全12話にまとめたものを、6回に分けて演じる企画がスタートした。

第1話「喜三郎とお虎」

下総佐原の穀屋平兵衛の長男、喜三郎が常陸土浦の皆次親分のところの身内になりたいと頼みこんできた。「悪いことは言わない。堅気として親孝行しなさい」と諭す皆次に対し、喜三郎は訊いてもらいたい事情があると話し出した。

平兵衛には先妻がいたが、病に伏せてしまい、その先妻が「私が死んだら、女中のきたを後添えに貰って欲しい」と遺言を遺して亡くなった。きたは元は百姓だったが、亭主に先立たれ、一人息子の喜三郎を連れて、穀屋に奉公していたのだった。平兵衛はきたを後添えに迎えると、吉次郎という息子をもうけたが、「跡取りは長男の喜三郎に」と考えていた。しかし、きたとしては恩人とも言える平兵衛と亡くなったおかみさんに申し訳ないと「喜三郎は別居させて、跡取りは吉次郎に」と考えた。それでも平兵衛が首を縦に振らないので、喜三郎に道楽三昧をさせて、これではどうしようもないと納得させる筋書きを、きたと喜三郎で考え、頃合いを見計らって、きたの方から「勘当する」という形を取って、喜三郎を追い出した。

「母の心中をご推察いただけないでしょうか」と喜三郎。皆次は「人の幸せのために自分の人生を棒に振るとは」と感心し、喜三郎が身内に入ることを認め、親分子分の盃を交わした。

喜三郎はぐんぐんと男をあげ、佐原に戻って“佐原の喜三郎”として名を馳せた。あるとき、子分を連れて成田不動にお参りに行ったとき、海老屋という宿に逗留した。

この宿には元は神田三河町で人入れ稼業をしていた三五郎の女房・お兼と娘のお虎が逗留していた。三五郎が亡くなり、借金が残ったために、お虎が芸者をして稼ぐことになったが、江戸では商売がしにくいので、成田に出てきたのだった。だが、芸は売っても色は売らないというお虎の気性のためか、宿賃も滞る。松岸にでも行って稼ごうと考えたが、地元の貸元、芝山の仁三郎の子分で、馬刺しの菊蔵という男に五両借りている義理があった。菊蔵は性質の悪い客で、松岸に行く前に借金を返せと証文をちらつかせて要求してきた。しかも、その証文には五両ではなく、五十両と書かれている。「そんな金を借りた覚えはない…」とお虎が抗うと、菊蔵は「それなら宿場女郎に売り飛ばす」と腕を引っ張りこんだ。そこへ、「お待ちなさい」と声を掛けた男が現れた…。

第2話「芝山の斬込み」

声を掛けた男は、喜三郎。「5両と50両の間を取って、私が出しましょう」と仲裁した。だが、喜三郎が菊蔵に渡したのは十両。話が違う!と菊蔵が言うと、喜三郎は証文の五と両の間の「十」だけ墨の色が違う。証文がどんな口を利くか、出るところに出ようか、白黒つけようか?と指摘すると、菊蔵は渋々承知して、去って行った。

喜三郎はお虎に江戸へ戻ることを勧めるが、江戸にはいられない理由があると言われ、「では、八日市場に倉田屋文吉という親分がいる。手紙を書いてあげるから、そこを頼りなさい」と紹介する。折角だからと、海老屋主人も交え、4人で酒を飲んだ。喜三郎とお虎、このときからお互いに惹かれ合うものがあった。喜三郎は手紙を書くのではなく、明日一緒に八日市場に行ってあげるということになった。

翌朝、駕籠三挺を誂え出立した。ところが、道の途中で「待ちやがれ!」の声。菊蔵が仕返しをしに、親分の芝山に仁三郎以下子分30人を連れて待ち伏せしていたのだった。仁三郎は「菊蔵が恥をかかされて黙っていられない。お前さんを袋叩きにして、土浦に送ってやる」。喜三郎は「仕返しはあっし一人にしてくれ。女二人は行かせてやってくれ」と言って、駕籠二挺は先に出る。多勢に無勢。喜三郎をよって、たかって、殴る、蹴る…虫の息にしてしまう。仁三郎が「とどめは刺すな」と指令し、半殺し状態に。仁三郎の家の物置に荒縄で縛りあげ、吊るして、殴る、蹴る。気を失うと、水を掛け、また殴る、蹴る。

一方のお虎とお兼は喜三郎のことが気になって仕方ない。引き戻って、芝山の旅籠に泊まる。居ても立っても居られない。女中に「昼間の喧嘩はどうなりましたか?」と訊くと詳細を教えてくれ、店の裏が仁三郎の家で物置から声が聞こえてくるという…。

そこで、「おっかさんは八日市場の倉田屋文吉親分のところへ助けを求めに行ってください」と言って、お虎が日が暮れるのを待って、仁三郎の家の物置に忍びこむ。芋虫のように吊るされた血まみれで虫の息の喜三郎を見つけ、背中に担いで救出する。前に提灯を持った数人に男が現れたので、「もはや、これまでか」と観念したが、実は彼らは助けに来た倉田屋の子分たちだった。喜三郎を戸板に載せて運ぶ。深手は負っていたが、幸い急所は外れており、命に別状はなかった。どんな薬よりも手厚い看病。お虎の献身もあって、喜三郎は正気付いた。そして、一カ月もすると塩梅が良くなった。

喜三郎は倉田屋に御礼を言うとともに、お虎が八日市場で商売ができるように面倒を見てやってくれと頼む。「喜三郎はどこへ行くんだ?…芝山か」。水盃を交わした後、喜三郎は寝静まった仁三郎の家に忍びこみ、見事に二階に寝ていた仁三郎を討つことができた。一階の子分たちが皆、倒れている。見ると、倉田屋文吉が笑いながら胡坐をかいている。「ちょっとだけ、手助けしたまでよ。大掃除だ」。だが、憎むべき馬刺しの菊蔵だけがいなかったので、それだけが心残りとなった。

この後、喜三郎は浅草安倍川町の金太郎親分のところに草鞋を脱ぐことになる。