鈴本演芸場正月二之席 柳家喬太郎「居残り佐平次」
上野鈴本演芸場正月二之席三日目夜の部に行きました。主任は柳家喬太郎師匠で「居残り佐平次」だった。
「のっぺらぼう」柳家やなぎ/奇術 ダーク広和/「時そば」古今亭菊丸/「珍宝軒」林家きく麿/漫才 風藤松原/「背なで老いてる唐獅子牡丹」柳家はん治/「鮑のし」隅田川馬石/中入り/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「紫檀楼古木」入船亭扇辰/紙切り 林家二楽/「居残り佐平次」柳家喬太郎
喬太郎師匠の「居残り佐平次」。人を騙す噺なのに、全然嫌な気持ちにならない。「愉快、痛快」と居残りされた被害者である店の主人が笑ってしまう。植木等の無責任一代男に通じるものがある。おそらく、喬太郎師匠はそこを意識されているのだろう。
翌朝、勘定を払ってくれと言う若い衆を煙に巻くテクニック。君は何年、この商売をやっているんだい?先に帰ったあの四人は裏を返しにきますよ。私はその“つなぎ”、ここで払ってもいいけど、ここで縁が切れてしまうのは残念だなあ。
さらに翌朝、別の若い衆が「縁が切れても、よござんす」と強硬な態度に出る。「一度、勘定を綺麗にしてくれませんか」に、「綺麗にするというのは、なかったことにするということ?」といけしゃあしゃあと言ってのける佐平次はすごい。そして、「あなたが貰いたい、私が払いたい、ここで気持ちがピタリと合った」と言っておきながら、「無い。一銭もない。文無し」と嬉しそうに居直るところ、度胸満点。
先に帰った友達に手紙を書くにも、名前も知らない。一昨日に新橋の軍鶏屋で知り合った極新しい友達。どこに住んでいるのかもさっぱりわからないと威張って、「居残りと洒落ましょう!」。その日から布団部屋に住み込みの居残りとなる佐平次、いかにも常習犯という鮮やかさだ。
口八丁手八丁ぶりは、居残りになってからも発揮される。紅梅さんの“いい人”の勝っつぁんへの取り込み方の巧さ。勝っつぁんですよね?合点がいった。紅梅さんがトーンときているはずだ。あの男嫌いの紅梅さんが惚れるはずだ。じゃあ、なぜお座敷に来ないかって?売れっ子だからですよ。いの一番にあなたのところに来て、あなたの顔を見たら、里心がついちゃう。散々嫌な客を相手してから、最後に勝っつぁんのところに来て、「ねえ、嫌なことがあったの」と愚痴が言える。寄席のトリみたいのものですよ。その日一番力のある人がなるという…きょうの紅梅さんのトリは勝っつぁんなんですよ。
一度、三味線を手にしてため息をついている紅梅さんに、「なぜ、勝っつぁんに惚れるのか」、正面から訊いたことがあるんです。そうしたら、何と言ったと思います?「バ、カ」。この一言だけですよ。私はつくづく男に生れて良かった。女だったら、私だってあなたに惚れてしまう。でも、私の方には向いてくれない。きっと、恋い焦がれ死んでいると思いますよ。
こうやって、二階を稼ぎまくっている佐平次に対し、他の若い衆の実入りは減るばかり。旦那に直訴して追い出してもらうことにするのだが、そのときに佐平次を呼び出して旦那が言う台詞が面白い。「本当はお前さんが来てから、店は繁盛して、儲かって仕方ないんだ。正直、まだいてほしいんだ…だけど、他の若い衆が五月蠅くてね」。
佐平次が凶状持ちゆえ、この店にしばらく匿ってほしいと願うと、旦那は怖れをなして出て行ってくれと頼む。佐平次が「ですが、高飛びするには先立つものが…」と言うと、つかさず旦那が「持っているよね?店の中で一番持っているんじゃないの?」と詰め寄るのが最高に可笑しい。
仕方なく旦那は高飛び資金を渡し、結城の着物、襦袢、足袋、帯、下駄まで一揃い提供して、佐平次に出ていってもらう。だが、途中で店の若い衆の辰に佐平次が「俺は居残りを商売にしている佐平次という男だ。今回は儲かった。ありがとうよ!」と言ったので、辰は旦那に報告に行くと、「してやられた!痛快だ。私があの人に弟子入りしたいくらいだ。愉快だ」と旦那は笑い飛ばすという…。
佐平次が去って行くときに歌っていた鼻歌がこの噺の肝だろう。♬俺はこの世で一番、居残りと呼ばれた男、ガキの頃から調子よく、楽して儲けるスタイル!