文楽鑑賞教室「夏祭浪花鑑」

文楽鑑賞教室に行きました。「伊達娘恋緋鹿子」と「夏祭浪花鑑」の二演目。

「夏祭浪花鑑」は釣船三婦内の段と長町裏の段。傾城琴浦に横恋慕する大鳥佐賀右衛門から玉島磯之丞と琴浦を守る団七九郎兵衛・一寸徳兵衛・釣船三婦のチームの奮闘。そこに人間の哀れや意地、醜さや執念が描き込まれ、ヒューマンドラマとしての凄みを感じる。

釣船三婦内の段は何と言っても、一寸徳兵衛の女房のお辰の気っ風だろう。磯之丞と琴浦を助けるために、二人をこの土地から立ち退かせようと、三婦の女房のおつぎはお辰に磯之丞を備中玉島へ連れていってほしいと頼む。だが、三婦はこの方策に反対する。お辰が若く美しいため、磯之丞と間違いがあってはいけないと心配したのだ。

これに対し、お辰はそれでは自分の顔が立たないと心意気を示す。熱せられた鉄弓を顔に押し付け、火傷を負うのだ。この顔でも色気があるのか?と三婦に問うお辰。三婦は感動し、磯之丞をお辰に託すのだ。自分の美貌など捨てても惜しくない、それよりも亭主の徳兵衛が旧恩ある玉島家の子息を守ってあげたいという気持ちを大切にする気概に感銘を受ける。

長町裏の段は団七と舅の三河屋義平次の揉み合いをこれでもか!というくらいに見せてくれる。義平次は金欲しさに佐賀右衛門に味方して、「団七が呼んでいる」とおつぎを騙し、琴浦を駕籠で連れ出す。それを知った団七は慌てて、その後を追い、追いつく。

団七は初め、「琴浦は恩人の預かり人。連れていかねば顔が立たない」と理詰めに低姿勢で説得を図るが暖簾に腕押しだ。義平次は「その日暮らしだったお前を魚売りにしたのは誰だ?お前が牢屋にいる間、娘のお梶の面倒をみて養ったのは誰だ?」と恩着せがましく拒否する。

団七はこれは金で言いくるめるしかないと判断し、「手持ちで30両あるから、それで了見してくれ」と口説くと、義平次はあっさり金に転んだ。だが、団七は30両などという大金を持っているわけがない。琴浦を乗せた駕籠を戻させた後、金は持っていないと白状する。

騙されたと知った義平次は怒り狂う。団七の額を雪駄で打ち付け、眉間から血が流れる。団七は脇差に手をかけるが我慢をするが、義平次は「斬れ!斬れ!」と挑発する。刀で競り合う内に、義平次の耳を傷つけてしまう。すると、義平次は「人殺し!親殺し!」と叫び騒ぐ。もはやこれまでと、団七はついに義平次を殺してしまい、池に放り込む。

殺してしまった…という罪悪感。その一方で、必死に罪を消そうと井戸の水で返り血を洗い流す。賑やかなはずの祭り囃子がどこか哀愁を帯びて聞こえるのも、舅殺害の虚無感からくるものなのだろうか。

Aプログラム 釣船三婦の段 豊竹芳穂太夫/野澤錦糸 アト 竹本聖太夫/鶴澤寛太郎 長町裏の段 義平次:豊竹靖太夫 団七:竹本小住太夫/鶴澤藤蔵

玉島磯之丞:吉田玉路/傾城琴浦:吉田和馬/三婦女房おつぎ:桐竹紋秀/釣船三婦:吉田勘市/徳兵衛女房お辰:吉田一輔/三河屋義平次:吉田玉佳/団七九郎兵衛:吉田玉助/一寸徳兵衛:吉田蓑悠