浅草演芸ホール九月上席 林家つる子「ミス・ベター」

浅草演芸ホール九月上席中日夜の部に行きました。今席は林家つる子師匠が主任の興行、二日目に続き伺った。初日からのネタは「ねずみ」「お菊の皿」「しじみ売り」「井戸の茶碗」、そしてきょうは新作「ミス・ベター」だった。

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つる子師匠の「ミス・ベター」。真打披露目の鈴本の楽屋で鈴々舎馬風師匠と二人きりになったときに、「つる子は本名かい?」と訊かれ、「いえ、本名はみなみです」と答えたら、「『タッチ』だね」と反応されたそうだ。実際、つる子師匠の母親は漫画家を志していたことがあって、あだち充先生の「タッチ」の大ファンだったことから、自分の娘に「みなみ」という名前を付けたそうだ。そのためか、家には漫画本が沢山あって貪り読み、漫画のようなベタなストーリー展開を妄想する子どもだったという話題から、この新作へ。

この噺の主人公は女子高生のスドウミナミ。寝坊して母親に起こされ、学校に遅刻しそうなので、トーストをくわえながら走って学校に向かう。すると、不良グループにぶち当たり、からまれてしまうが、そこに一人の男子が現れて次々と不良たちをやっつけて、助けてくれた…。

ミナミが始業時刻ギリギリに教室に着くと、担任が新しい転校生を紹介する。ナカマトオル。ミナミを不良から助けてくれた男子だ!ミナミの隣の席が空いていたので、そこに座ることに。愛想がないトオルだったが、休み時間に段ボールに捨てられていた小猫を可愛がっているトオルの意外な姿を見かける。雨が降ってきたので、ミナミが傘を差しかけ相合傘で教室に向かうことに照れるトオルのはにかみがいい。

ミナミが転校の理由を尋ねると意外な答えが返ってきた。トオルの家は母子家庭、弟が友達に苛められているのを助けるために暴力を働いたら退学処分になってしまったという。ミナミも母子家庭ということもあり、怖いけど優しいトオルに惹かれ、意気投合。二人は付き合うことになった。そして、トオルはミナミを一途に愛してくれた。

だが、高校卒業でミナミは専門学校に進み、トオルは就職。自然消滅のような形になってしまった。その5年後。ミナミは自分が勤める会社のビルの耐震工事に作業員としてやって来たトオルと偶然再会を果たす。だが、トオルにはユカリという婚約者がいた。それなのに、トオルはミナミとの再会後、心が揺れてしまう。ユカリに対し、「ごめん!俺はお前とは一緒になれない!」と言って、行かなきゃいけないところがあると去っていった。

ミナミの会社を訪ねると、「スドウはきょうからロスアンゼルスへ出張です」と知らされる。急いでタクシー(演出は人力車(笑))に乗って成田空港へ。だが、ロス行きの便は離陸したばかりだという。「畜生!」と叫ぶトオルの背後から「トオル君!」と呼ぶ声が…。(ここで♬ラブストーリーは突然にの三味線が鳴りはじめる)「トオルのことが気になって飛行機に乗れなかったの」「俺、お前に伝えたいことがある。俺ともう一度やり直そう!」「私もそう言おうと思って」。抱き合う二人…。

ミナミが母親にトオルを紹介する。「ミナミさんを僕にください!」。だが、母親の答えは「駄目です。あなたたちは結婚できないのよ…あなたたちは血の繋がった兄妹なの!」。信じられない!とミナミは家を飛び出す。追いかけるトオル。そこにトラックが正面衝突、二人は救急車で病院に運ばれる。ミナミは軽傷だったが、トオルは意識不明の重体。そこに母親が現れ、「あなたたちは兄妹じゃなかった」。トオルは別れた夫の子どもだが血が繋がっておらず、血縁関係にあるのはトオルの弟だった…。

ミナミは喜んで、トオルに伝えようとするが、トオルの反応は「あなたは誰ですか?」。ショックで記憶喪失になってしまったのだった。やがて、退院となり、ミナミは雨が降ってきたので傘を差しかけると、そこに一匹の小猫が現れる。すると、トオルはそれをきっかけに記憶を取り戻した…。

だが、そこに現れたのはトオルの婚約者のユカリ。「あなただけ幸せになるなんて許せない!」と言って、ピストルを発射した。「危ない!」とトオルがミナミをかばう勢いで階段を転がり、トオルとミナミの身体が入れ替わってしまった…。

漫画にありがちなベタなストーリー展開を「これでもか!」というくらいにテンポ良く、そしてコミカルに進めるつる子師匠の構成力、そして何より演技力が圧巻の高座だった。