YEBISU亭 SORAの鮮やかなマジックに驚嘆

YEBISU亭に行きました。春風亭一之輔師匠が「がまの油」、古今亭菊之丞師匠が「唐茄子屋政談」、ゲストはマジシャンのSORAさんだった。

特筆すべきはSORAさんのマジックの鮮やかさだろう。ワインボトルとワイングラスを瞬間移動させる。それだけでなく、なぜかワインボトルの数がどんどん増えていって、テーブルに載りきれないほどになってしまうという…。最前列真ん真ん中の席でよーく目を凝らして見ていたのだが、タネも仕掛けもさっぱり判らなかった。マジックの国際大会でグランプリを獲得し、海外の人気番組に出演した映像のYouTubeが2000万回以上再生され、世界中で大きな反響を呼んだ実力の持ち主。ソロライブは日本で最もチケットの取れないマジックショーとなっているそうだ。

較べるべきではないのだが、寄席芸人の奇術とは明らかに違う。マジックの見せ方、ショウアップというのだろうか、そのスケールが大きく違うのだ。彼の次に高座に上がった一之輔師匠が「SORAさんがヒザ代わりだったら、トリはやりにくい」とおっしゃっていたが、最高の褒め言葉だろう。と同時に、だからこそ、寄席にはSORAさんとは対極にある色物としてマジックをされている芸人さんが必要なのだと改めて思った。

一之輔師匠の「がまの油」は自由演技が素晴らしい。1985年に開催されたつくば万博に当時小学生だった川上少年はご近所なので何度も行ったそうだ。そこで大道芸としてがまの油売りをしている人がいたという思い出から、この噺へ。筑波山というべきところ、酔って鋸山と言ってしまい、マザー牧場、そして寺から虎が脱走した騒動がフジテレビのニュース番組スーパータイムで放送された記憶に展開するところなど、懐かしいし楽しい。藤娘を切る正楽師匠、タイガージェット・シン、さらには「地面師たち」のタクミ君まで登場…。芯がしっかりしているからこその、脱線が素敵だ。

菊之丞師匠の「唐茄子屋政談」。若旦那を真人間にしようとする叔父さんの愛情、田原町で転んでぶちまけてしまった唐茄子を売り捌いてくれた通りすがりの江戸っ子の人情、そして誓願寺店で貧乏で困っている母子を助けてあげる若旦那の心意気。これらをこってりではなく、あっさりと演じるところに菊之丞師匠の巧さがある。吉原田圃で花魁のところに居続けしたときの回想、良い喉をたっぷりと披露してくれた。あそこまで唄える噺家はなかなかいないだろう。