真山隼人ツキイチ独演会「桜田門外余話 首護送」

真山隼人ツキイチ独演会に行きました。「八雨の命」「エッセイ浪曲 アーニャの運搬」「桜田門外余話 首護送」の三席。曲師は沢村さくらさん。

「八雨の命」(はちうのみこと)は小佐田定雄先生の作品。天照大神の弟の素戔男尊(スサノオノミコト)は8つの雨を司る神。春雨、五月雨、時雨、梅雨、夕立、通り雨、氷雨、雷雨。これを自由に操ることができるのをいいことに、暴れまくって庶民たちは困っていた。白羽の矢が立ったのは兄の天照大神で、岩戸から飲めや歌えやの大宴会に誘き出し、素戔男尊の野望が消え果てたというストーリーだが、あまり面白いとは思えなかった。ごめんなさい。

その分、「首護送」はとても良かった。万延元年3月3日。季節外れの雪で銀世界が広がる中、二人連れの侍、一人は飲んだくれた酔っ払い、が船頭を酒手で釣って江戸橋、日本橋、一石橋、道山橋、呉服橋…と船を漕がせ、公方様でも盆の16日にしか出入りが許されない堀川まで到達させる。

船頭の女房が「桃の節句に雪。おかしなことがおきなけりゃあいいが。もしお前さんが死んだら、隣の飴屋の金太を後添えに迎えるから迷わず成仏しておくれ」と言われたと半分ユーモアラスに、でも酔漢の侍に斬られたらどうしようと船頭がビクビクと怯える様子を描いて聴かせる。

実際、この酔漢は酔ったふりをしていただけで、桜田門外の変で井伊直弼を総勢18名で襲撃した水戸浪士の一味。堀川で一人の侍が「首尾よく本懐遂げた」と持ってきた丸い包みを船に投げ込む。「まさか、スイカじゃあるまいし」。とユーモアを混ぜながらも、その包みが井伊大老の首であることを船頭に告げると、話はシリアスに展開するところ、芸達者である。

「これが誠の水戸浪士」。最初に船に乗った侍は水戸脱藩者の岡部三十郎忠吉と大関和七郎増美であった。船頭は岡部の指示に従って、大川から利根川という水路を使って、“井伊の首”を水戸まで運んだのだった。

幕末という日本国の変革期の事件を素材に、ユーモアを交えながらもシリアスに武士の心意気を伝える浪曲を興味深く拝聴した。